大野篤史

牛尾社長「最強な、最適な布陣を選べた」

Bリーグにおける新シーズンのカレンダーがめくられる、いわば『元日』と呼べる7月1日、三遠ネオフェニックスが豊橋市内のホテルで新体制発表会見を開催し、これからの球団ビジョンを紹介しつつ、大々的な変革をアピールした。

昨シーズンのファイナル終了後には牛尾信介氏が北郷謙二郎氏に代わって代表取締役社長に就任し、GMも東英樹氏から秦アンディ英之氏へと交代となった三遠だが、会見では金丸晃輔(前島根スサノオマジック)ら新加入を含めた2022-23シーズンの全所属選手も発表された。

しかし、最も衝撃を与えた動きは別にあった。大野篤史ヘッドコーチら、千葉ジェッツで彼と働いてきたスタッフがほとんど『丸々』移籍してきたのだ。大野氏の他、前田浩行アシスタントコーチら計9名ものスタッフが彼と行動を共にすることとなった。欧米ではヘッドコーチがアシスタントと一緒に移籍する例は珍しくないが、今回の場合はスキルディベロップメントコーチの大村将基氏やビデオアナリストの木村和希氏、ストレングスコーチやアスレティックトレーナーなどのメディカルチーム、通訳の綾部舞氏までもが栖を船橋から直線距離で約250km離れた豊橋に移す決断をしている。

いずれにしても、Bリーグ初年度に中地区2位になって以降、勝ち越しシーズンがなく、過去3年はいずれも勝率が3割以下に終わっている三遠にとって、昨シーズンまでの千葉Jでの6年間で勝率7割7分(248勝74敗)、地区優勝3度、ファイナル進出3度、リーグ優勝1度、天皇杯優勝3度の成績を挙げた名将と、彼を支えてきたスタッフを引き入れたのは、大きな補強となるはずだ。

会見冒頭のプレゼンテーションで、牛尾社長(彼も千葉Jの社員だった)は『強化・地域・共育』と、今後の三遠のビジョンとなる3本の柱を紹介した。強化については「勝つことが戦略上最もインパクトがある」とし、その土台を作る上で有能な指揮官の招聘を必須と同氏は話した。国際部門のバイスプレジデントも兼務する秦GMはリストアップした「国内外のヘッドコーチ」から最終的に大野氏らの獲得を決め、「最強な、最適な布陣を選べた」と胸を張った。

少なくとも国内では類を見ないレベルでの大量移籍が実現した背景や経緯について秦氏は「クラブが結果を出している、勝利に繋げているのはやはり組織力。ヘッドコーチの強力なリーダーシップがあって、チームの横の連携、結束が高いというのが、プロ野球を見ても海外でも、成熟した、進化したスポーツほど見られる」と話している。

この質問を受けた時、秦氏は苦笑いとも取れる表情を浮かべつつ、隣の牛尾社長に「どこまで言ってもいいのか」といった風のアイコンタクトを取ってから話し始めている。上記のようなやや要領を得ない答えが返ってきたが、コメントを始める数秒間の間を斟酌すれば、おそらく公には口にできない事情があったのだと推察できる。裏の背景はどうであれ、楽しみだ。

牛尾信介

大野ヘッドコーチ「ここでまた、大きな変化をもたらせるようにしたい」

「専門性のあるスタッフ、思いが一緒の人間とチームを作っていくのは、僕としては本当に幸せなことですが、千葉でやってきたことをやるのではなくて、ここでまた、大きな変化をもたらせるようにしたい」

大野新ヘッドコーチはそう話した。「何勝できるかは言えない」と新指揮官は慎重だったが、厳しいことで知られる指揮官と彼を知るスタッフの移籍で、三遠のバスケットボール文化自体が変わっていくことは、容易に想像できる。

上述の通り、球団は『強化・地域・共育』というこれからのビジョンを打ち出したが、地域は文字通りオフコート活動も含めて地元のファンベースを拡充すること。共育についての詳細は今後、発表されると思われるが、牛尾社長の言葉では地元の子どもたちがスポーツを通して学びを得る「学校」を作る構想があるようだ。

そして、強化。プロスポーツにおいてはやはり「勝つこと」が最大のサービスで、何を成すにもここができなければ前進しない。大野ヘッドコーチら千葉Jからのコーチ、スタッフ陣の大量獲得は、勝てるチーム作りの過程の大きな第一歩と言えるだろう。新体制の三遠の成否次第では、今後のBリーグにおけるコーチ、スタッフの人事のあり方に影響を及ぼすかもしれない。