仙台89ERSは東地区2位の38勝15敗でレギュラーシーズンを終えてプレーオフに進むと、セミファイナルで香川ファイブアローズを下し、初年度以来となるB1昇格を決めた。チームを率いる藤田弘輝は前年に琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチとして結果を残したにもかかわらず、契約満了となったことに少なからずショックを受けたと言う。それでもB1復帰のミッションを果たした現在は、仙台の未来を考えつつ、新たな挑戦に邁進している。
「プレーオフの時に仙台89ERSはピークを迎えられた」
──琉球ゴールデンキングスから仙台89ERSのヘッドコーチに就任し、結果的にチームをB1復帰に導きました。移籍の流れからいろいろあったと思いますが、現在の心境はいかがでしょう?
最低限の目標はクリアできたのでホッとしています。いや、ホッとじゃないです、すごく誇らしく思っています(笑)。
琉球を満了と言われた時は、正直タイミングなどの問題もあり、とても動揺しました。でも、そのタイミングで仙台さんから声をかけていただいてありがたかったですし、今は仙台89ERSというチームに来て良かったと本当に思っています。
B1チームのアシスタントコーチなど何個かオファーをいただいていましたが、当時会長だったデービット(ホルトン)さんが沖縄に来てくれて、熱い思いを直接聞いた時に仙台89ERSに行こうと決めました。また、(代表取締役社長の)志村(雄彦)さんはずっと知っている間柄で、熱いけど人間味もある方で支えになりました。上の立場の人が温かい気持ちでチームを見てくれていたので、安心してチームに集中できました。
──チームの雰囲気が最初から良かったと小耳にはさみました。目指すバスケットの落とし込みに時間はかからなかったですか?
練習に取り組む意識や、明確なゴールに向かってやろうとする意識が本当に高かったですね。僕が目指すバスケットに対して初日から100%で選手たちは向き合ってくれていました。
どのチームもディフェンスのチームと言いますが、僕らは本当の意味でディフェンスを頑張るじゃないですけど、フルコートでボールマンを追いかけたり、ディナイでエントリーをさせづらくする。それを40分やり続ける、かなり強度の高いバスケットを目指しました。これまでとの大きな違いはそこだと思います。
──そのスタイルはシーズンが始まるまでにある程度形になっていたのでしょうか?
いえ、躓きまくりでした(笑)。ケガ人も出ましたし、僕が求めていた具体性のあるバスケットと抽象的なところのバランスが難しかったです。コート上でプレーして判断するのは選手なので、そこの状況判断と遂行力という部分が序盤は体現できていませんでした。それに対して、僕がフラストレーションを溜めすぎてしまい、選手にもっとこうしないといけないと強く言いすぎたと反省した部分が結構ありました。それが12月くらいまでの時期でしたね、選手は120%頑張ってくれていたのにもかかわらず、言いすぎたなと猛反省しました。選手が萎縮していると感じ、僕が伝え方などでアジャストした時にだんだんチームが上向いてきたという感覚がありました。
コーチである以上、時には選手に激しく言わないといけませんが、基本的に選手がハードワークしているのであれば、ポジティブなエネルギーをチームに流したほうがいいとその時気づきました。自分が持っているパッションとバスケットボールの愛情を、仙台89ERSのために使うことに集中すればいいと。
──それを信じてやり続けてこれたからこそ、後半の成績に繋がったのでしょうか。
そうですね、ウチがやろうとしているバスケットを選手たちが信じてやり続けてくれた結果だと思います。また、ケガ人が出たことによってステップアップしてくれた選手も出てきて、ケガ人が戻ってきた時にチームに厚みが出るなど、タイミングも良かった。最終的に、プレーオフの時に仙台89ERSはピークを迎えられたと思います。
「ハードにプレーしつつ、スマートさもすごく大事になってくる」
──これからB1での戦いが待ち受けていますが、どのような気持ちでしょうか?
正直、危機感しかないですね。いろいろな強いチームと試合ができるし、顔なじみのコーチ達と対戦できるのはもちろん楽しみです。ただ、来シーズンは降格があるので、それに対してB1に残り続けないといけない責任を感じています。
客観的に見ると、B2でやっと勝てたチームが今度はB1の東地区に上がるので、ロスター構成やタレントレベルではなかなか難しいと思います。マネーゲームでは勝てないのでリクルートも難しいですが、これから戦えるチームを作って、タレントが来たいと思えるようにしないといけません。信州(ブレイブウォリアーズ)さんは良いモデルだと思っています。
──B1ではどのような戦い方をしていく予定でしょうか?
B2での今シーズンはディフェンスのインテンシティを前面に出して勝ち取ったという印象があります。ただ、B1ではそういうインテンシティだけではいなされる部分もあり、ハードにプレーしつつスマートさもすごく大事になってくると思います。より具体さと抽象さのバランスを大切にして、選手が良い状況判断ができるようなチームにならないとB1では通用しないかなと思っています。具体的すぎるとスカウティングされますし、リード&リアクト(読みと反応)できるようなバスケットを展開していきたいです。そのフレームを僕がしっかり作って、その中で選手が判断してくれればと思っています。
──今後のコーチキャリアを考えることはありますか?
10年後あたりに機会があれば代表でヘッドコーチをやってみたいとは思います。でも、それよりも自分がどういう人間でありたいとか、どういう人生を送りたいかの方に目を向けています。人生は一回きりですし、バスケットボールが大好きなので、大好きなバスケットボールに思いっきり情熱を注ぎ込んでやり続けることができればと思っています。そうすれば、人生も豊かで家族もハッピーになれると。「明日仕事か」とか、「練習かよ」と思うようになったら、それが辞める時だと思っています。
──仙台のアツいファンにメッセージをお願いします。
B2では4年連続で集客が1位ですし、いつも熱い声援を送っていただきありがとうございます。それと同時にもっとファン層を増やしていきたいと個人的に思っています。まだまだ課題があるのであえて言いますが、練習会場や設備は整っているとは言えないですし、行政の助けも本当に大事になってくると思います。B1クラブが仙台市にあることで、試合をする度に他県から人が集まってきます。仙台89ERSを見て良かったと思う市民の方が増えれば増えるほど、仙台市も大きくなる。行政の力も借り、ファンの皆さんの応援を力に変え、僕らは責任を負ってハードワークし続けてB1で戦っていきます。
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