ルカ・ドンチッチ

『ドンチッチの相棒』は1人ではなく2人いた方が好ましい!?

マーベリックスがルカ・ドンチッチを獲得した時、チームにはデニス・スミスJr.がいました。ルーキーシーズンに輝きを見せたスミスとのコンビが新たなマブスの時代を作ることが期待されましたが、あまりにも大きすぎるドンチッチの存在感に圧し潰されたかのように、スミスJr.は精彩を欠いたプレーを続け、以降は移籍をしても、これといった活躍ができていません。

ドライブやミドルシュートを中心にエース格としてプレーしていたハリソン・バーンズは、マブスがドンチッチ中心の再建を決めたことで放出されました。ディフェンスの時にポジションが被ってしまうなど細かい問題もありましたが、2人を並び立たせるよりも、わかりやすくドンチッチにボールを持たせるチームへと形を変えることを選びました。

トレードでクリスタフ・ポルジンギスを獲得した時は、リーグを代表するスーパーデュオが生まれたと大きな話題になりました。ポルジンギスがケガで離脱していたため、マブスは完全にドンチッチのチームとして構築されていきましたが、どの距離からでもシュートを決められるポルジンギスは、ドンチッチの突破からパスを受けてフィニッシュするビッグマンとして機能しました。昨シーズンは平均得点が20点を超えたポルジンギスは理想的な『ドンチッチの相棒』として機能したかに見えました。

しかし、ドンチッチのためにスペーサーになることでスポットシューター的な扱いをされていることにポルジンギスは不満を募らせていたと言われています。それ以上に起点としての能力に欠けるポルジンギスは、自分のために動いてくれるロールプレーヤーが少ないため、ドンチッチ不在時に中心の役目を果たせませんでした。ディフェンスを切り崩してくれるドンチッチと、フィニッシャータイプのポルジンギスの相性は良くても、それぞれに適したロールプレーヤーが違いすぎたのです。

ドンチッチの圧力に負けないこと、ドンチッチに長くボールを持たせること、ドンチッチと同じタイプのロールプレーヤーが適していること。すべての仕事をこなせてしまうドンチッチだからこそ、『ドンチッチの相棒』に求められる要素は難しく、マブスはこの役割に頭を悩ませてきました。それがプレーオフで勝てない要因だったともいえます。

今シーズンのデッドラインでポルジンギスを放出し、スペンサー・ディンウィディとデビッド・ベルターンズを獲得したとき、まさかプレーオフで勝てるチームになるとは想像もつきませんでした。スター選手を獲得するために大きな代償を払うチームが多い中で、わざわざ自分たちからスター選手を手放す判断をしたわけです。ビッグマンをシューターとして起用するならば、シュート専門のマキシ・クリバーとベルターンズの方が適しており、またウイングには既に3ポイントシュートとハードワークで支えるドリアン・フィニー・スミスとレジー・ブルロックがいたため、チームとしてインサイドにスペースを作って、ドンチッチのアタック能力を最大限に使うことがハッキリしました。

それは同時にドンチッチのように積極的にアタックしていき、パス能力もあるガードが『ドンチッチの相棒』としてふさわしいということでもあります。ただ、ロールプレーヤーに似たようなタイプの選手が多い以上は、戦術で違いを付けることが難しいため、少しでも変化をつけるには『ドンチッチの相棒』も1人ではなく、2人いた方が好ましく、ジェイレン・ブランソンとディンウィディが揃ったことに大きな意味がありました。共にドンチッチを無視してでも自分で打ちに行く強気なメンタルを持ちながら、プレーそのものはシンプルなため、ターンオーバーが少なく、ボールムーブにも加わることができます。ドンチッチのプレー機会を削ることなく、かといってドンチッチ一辺倒にはならない積極性を持ったガードが2人揃ったことで、マブスは一気に上昇気流に乗りました。

マブスの悩みであった『ドンチッチの相棒』は、あえてスター選手を減らしたことで最適解が見つかった気がしたプレーオフでした。スペシャルな存在であるドンチッチですが、スペシャルだからこそチームとしての構成は難しくもあります。ただ単に優れた選手を集めれば勝てるわけではないNBAらしく、様々な工夫があったからこそのマブスの快進撃でした。