藤井祐眞

文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

「ハッスルが得点に繋がりませんでした」

川崎ブレイブサンダースは開幕から4試合目にして初の黒星を喫した。滋賀レイクスターズの連携の取れたディフェンスを崩せず、激しい当たりに苦しめられ、終始10点前後のビハインドを背負って68-80で敗れたのだから、完敗と言わざるを得ない。

藤井祐眞はそんな試合をこう総括する。「オフェンスが終始うまく回らなくて、シュート確率が上がらず、60点台の試合になってしまいました。ハーフコートオフェンスばかりで重くなっていたので、もっとアップテンポに走って、フリーランスで行ければ良い流れも作れたんじゃないかと思います。ディフェンスからまず入って、トランジションで走るのが理想ですが、そういうシーンもなかなか作れず、むしろミスが多い試合になりました」

滋賀の選手は「流れを持っていかれたら一気に逆転される」という危機感を常に持ってプレーしていた。しかし、川崎からのアクションはあまり見られず、そのまま押し切られた。そんな展開の中、藤井はチームで唯一と言っていいほど積極的にアクションを起こし、チームのスイッチを入れようと奮闘していた。

「流れのスポーツなので、ああいう場面でウチに一気に流れを引き寄せるのはハッスルプレーで、エネルギッシュにやることが必要だと考えました。一つひとつのリバウンド、ルーズボールだったり、そこでハッスルすることが次に繋がってくるので。出ている5人は常にエネルギッシュにやっていたんですが、それが得点に繋がらず、流れがつかめませんでした」

もう一つ、流れをつかめなかった理由は基準が安定しないジャッジにフラストレーションを溜めたことだ。「僕自身、開幕節とあまりに笛が違いすぎて戸惑った部分があります。ウチが良いディフェンスをした時に鳴れば、マイボールだったのにと熱くなってしまう。毎回同じ審判が吹くわけではないので、その時その時でアジャストしなきゃいけません。試合後にそう言うのは簡単ですが、試合中にやらないと。正直、その笛に対してイライラしないのは無理かもしれません。それでもグッとこらえて切り替えができたら、いずれ流れは来たはずです。個人もそうですけどチームとして、そこで我慢できるようにならないといけない、という反省があります」

藤井祐眞

新人の頃の「試合に出たら何かを残そう」の気持ち

負け試合ではあったが、藤井がルーズボールを追ってコート外にダイブし、身体から看板に突っ込んだ時にはスタンドが沸いた。あくなきボールへの執着心が、とどろきアリーナを埋めた4815人の観客に響いた瞬間だった。どんな選手も「リバウンドやルーズボールが大事」と言うが、藤井はそれを体現する象徴的なプレーヤーだ。誰しもケガはしたくないものだが、藤井は躊躇せず飛び込む。そのひたむきな姿勢はどうやって生まれたものだろうか?

「バスケを始めた時は、ボールを持ってシュートを打ち、得点を決めることが楽しかったです。それが変わったのはいつからですかね……。大学でユニバーシアードを経験したり、東芝に入った時だと思います。レベルの高いところに来て、自分が何をすべきか学んだ結果、『ここでマイボールにしたい』という気持ちが強く出るようになりました」

「ニック(ファジーカス)とか辻(直人)さんとか、得点の取れる選手はいっぱいいます。チームの中での自分の役割を考えた時に、一番はそこで貢献しようというのが強かったので。東芝に入ったばかりの頃の『試合に出たら何かを残そう』という気持ちが今も生きているんじゃないかと思います」

藤井のハッスルプレーはチームメートだけでなく観客にも火をつける。そうやってアリーナが盛り上がり、自分たちも乗ってくる好循環を藤井は歓迎する。「劣勢の時に会場中が味方のような雰囲気作りをしてもらえると、すごく力になります。いつもだったら『行けるかな?』と疑問に思う状況でも『行ってやろう!』と気持ちが前面に出ます。疲れて足が動かずキツい時も、声援が力になります。みんなの応援があれば、その一歩が踏み出せます」

藤井祐眞

「60点しか取れなくても勝つチームになりたい」

優勝候補筆頭の川崎にとっては、思いがけない早い段階での初黒星だったかもしれない。「今日も勝てる試合だった、負けちゃいけない試合だったと思います」と藤井は反省する。ただ、シュートは水物であり、もっと得点を取るべきだったとは考えない。「得点が取れない時でも勝ち切るチームになるのが今後の課題です。シュートが入らない試合はあります。60点しか取れなくても勝つ、そういうチームになりたいです」

シーズンは始まったばかり。まだこの先、シュート確率が上がらずに得点が伸びない試合はやって来るだろう。次にそういう状況が訪れた時こそ、藤井のハッスルプレーがチームとアリーナに火をつけるはずだ。