宇都直輝

文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

「コーチのバスケットの中で僕がどう生きるか」

今シーズンの富山グラウジーズは、海外での実績も多く、日本ではトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)やトヨタ自動車アンテロープスで指揮を執ったドナルド・ベックを新たなヘッドコーチに招聘。さらに外国籍選手も入れ替え、チームは大きく様変わりした。開幕節では横浜ビー・コルセアーズに連勝する幸先の良いスタートを切るも、続く栃木ブレックス戦では連敗を喫した。

栃木との第2戦、宇都直輝は6得点5アシストを記録。チームが連敗したこともあり、エースとして富山を牽引した過去2シーズンの姿を知る者には物足りなく見えたのではないか。ただしシュートアテンプトは6本と少なく、自分で点を取りに行くスタイルを変えようとしているように見える。

「良い選手、良いコーチが入ってきた時に、自分の個性をどう出すか。もっとチームが強くなるためにどうすればいいか。絶賛壁にぶち当たり中です」と宇都は現状を語った。

4試合を終え、主なスタッツは平均8得点、5.2アシスト、1スティールと悪い数字ではない。それでも、日本人得点王とアシスト王になった昨シーズンから数字を落としているのは確かだ。

「コーチの言っていることを遂行する、そのためにやらせるのがポイントガードの仕事だと思っています。あとはコーチのバスケットの中で僕がどう生きるか。アシスト力もあるし日本人トップの得点力があるにもかかわらず、ベックコーチになった瞬間に仕事がなくなりました、ではさらなる高みはないです」と宇都も言う。

宇都直輝

個性を捨てたのでは「勝っても負けても納得できない」

巨漢センターのスミスのインサイド、3番タイプのライオンズの1対1など、過去のチームとは強みが変わった。宇都の役割も自ずと変わってくる。ベックコーチは宇都への期待をこう語る。「コントロールしてほしいところがあり、オフェンスもディフェンスも継続的にやってもらう必要がある。彼自身もチームの中でどうプレーしていいか勉強中です。リーグでも良いポイントガードだと思っているし、これから良くなっていくと信じている」

宇都は自ら仕掛けて状況を打開するタイプのポイントガードであり、彼自身も「核となるのはトランジションバスケット、ドライブ、アシスト、アタック、ファウルをもらうのが持ち味」と強みを説明する。「チームが勝てばいいのはもちろんですが」と前置きしつつ、「それが出せないと勝っても負けても納得できない」との本音が漏れる。その言葉には、自分の個性を出しきれず、チームに貢献できていない自身への苛立ちが表れていた。

過去2シーズン、宇都は40分間のほとんどをコートで過ごし、特にオフェンス面ではすべてを担う状況だった。そこで奮闘した結果が、突出した得点とアシストの数字だ。だが、新体制になった富山で宇都は新たな役割を求められている。2番手の阿部友和とプレータイムをシェアすることで、スタミナを気にせずタイトなディフェンスができる。特に長身の宇都がポイントガードにつくことで、スイッチされてもミスマッチになりにくく、守備範囲の広さから味方へのヘルプも対応できる。

ただ、宇都は「そういったところはプラスだと思う」と言いながらも、「結局、僕の強みはディフェンスではない。持ち味を出して結果を出すこと」と個性の埋没に拒否反応を見せる。

宇都直輝

持ち味を発揮し、「本当のチームの軸になれるように」

この取材中、宇都は『個性』という言葉を多く使った。宇都は日本代表に選出されるほど高い個人能力を生かしてチームを勝たせたいと願っている。ただ、今はチームバスケットと個人のスタイルのアジャストに苦しんでいる。それが「絶賛壁にぶち当たり中」ということだ。

ここ2年、宇都はリーグの主役の一人とも言うべき活躍を見せたが、彼が圧倒的な数字を残しているにもかかわらずチームは低迷し、2年連続で残留プレーオフでの戦いを余儀なくされた。そのネガティブな実績があるからこそ、宇都は悩んでいる。自分のスタイルを崩さず、個性を埋没させることなく、ベックコーチのバスケットを体現しなければならない。

「まだ試合も全然やってないですし、8人もメンバーが入れ替わったのでもっとコミュニケーションを取っていきたいです。強い相手に勝つためには絶対僕の力は必要だと思うので、本当のチームの軸になれるようにやっていきたい」

厚みを増したハーフコートバスケットに、宇都が繰り出すトランジションバスケットが融合した時の破壊力は計り知れない。宇都がもう一つレベルアップし、この難しいアジャストに成功した時、富山は一気にリーグの強豪チームへとステップアップできるはずだ。