田臥勇太

文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

2桁ビハインドのピンチから脱却

栃木ブレックスは昨日行われた富山グラウジーズ戦に勝利し、開幕4連勝を飾った。前半をリードされ、終盤にも逆転されるなど、決して簡単な試合ではなかった。それでも難しい戦いをモノにできたのは、田臥勇太が試合の要所を抑えたからだ。

第2クォーターのオフィシャルタイムアウト、ジョシュア・スミスを起点とする富山の攻めに苦しむ栃木は、この試合最大となる9点のビハインドを背負っていた。このタイミングで投入された田臥は、フロアバランスを見ながら的確な状況判断を下していく。再開後すぐに遠藤祐亮のシュートをお膳立てし、その後は自ら6連続得点を挙げ、悪い流れを断ち切った。

「どういうリズムを作るかは意識していました」と田臥はゲームを振り返る。「相手のディフェンスがどうアジャストしてくるか、どうフロアに相手のメンバーが出ているのか。自分たちも誰が出ているのかとか、そういうのを全部考えながらやっていました」

「僕が点数を入れてますけど、チームの動きでああいう形になるわけなので」と個の力ではないことを強調するのが田臥らしいが、その働きが劣勢を覆す原動力となったのは確かだ。

田臥勇太

チャンスを逃さぬ嗅覚「その波をどうとらえるか」

田臥の活躍もあり、前半を3点差で終えた栃木は、後半に入りトランジションオフェンスを爆発させた。一進一退の攻防が続き、どちらがペースを握るかという状況が続いたが、「きっかけというかチャンスというか、その波をどうとらえるかだと思っていました」と話す田臥が栃木に流れを呼び込んだ。

ボールをプッシュして速い展開に持ち込み、アウトナンバーを作る。ボールを散らし、リングにアタックしてズレを作る。そして自らもフィニッシュを決めに行く。こうして田臥は5得点5アシスト1スティールを記録し、34-19と圧倒した第3クォーターを牽引した。

安齋竜三ヘッドコーチは田臥の安定感をこう称賛する。「若い選手たちは自分の調子の良し悪しでいろんな部分に影響が出てしまう。今まで培ってきたものもありますし、今日は特に、チームがうまくいかなかったところを彼が引っ張ってくれて勝ちにつながったと思います」

指揮官も認めるパフォーマンスだったが、田臥はここでも「僕だけじゃないですね」とチーム全員の力だということを主張する。「みんなが動いているから連動でパスが回るわけなので。みんなが作って空いたスペースにダイブして、ダイブして寄って来たら周りの人がスペースを取る。そこが空いてなかったら僕が外にさばくとか、その連動ができるかというのが大事です」

田臥勇太

「一歩一歩、チームとして形を作っていきたい」

第3クォーターを圧倒した栃木だったが、富山の粘りに遭い終盤に逆転を許した。それでも「あまり逆転された感もなかったですね」と田臥が言うように、栃木は慌てることなく渡邉裕規のクラッチシュートで接戦をモノにした。

拮抗した試合展開であればあるほど、何か一つの勝因を挙げるのは難しい。その中で安齋コーチは第3クォーターに走ったことを勝因に挙げた。つまり田臥の活躍が終盤の劇的な展開を呼んだということになる。

田臥は言う。「相手がどうアジャストしてくるのか、それをアジャストされた時にどうこっちが対応するか。あとは良い部分はどう伸ばしていけるのかが大事」

開幕から4連勝を飾ったが、「4試合しかやってないので、全然僕は意識はしていない」と目先の連勝に一喜一憂はしない。なぜなら、長いレギュラーシーズンを戦い抜いた先にある勝負どころを見据えているからだ。「連勝にこだわらず、一歩一歩、チームとして形を作っていきたい。そのためにチーム全員の力が必要です。今日はファンの方が一緒に戦ってくれたからこそこうやって勝てたと思うので、これからもずっと続けていきたいと思います」