マイク・コンリー

文=神高尚 写真=Getty Images

高い技術と身体能力を持ちながら、ひけらかさない男

渡邊雄太が加入したことで注目を集めるグリズリーズ。昨シーズンは7年連続で進出していたプレーオフを逃してしまいましたが、そのきっかけになったのはポイントガードのマイク・コンリーがケガで12試合しか出場できなかったこと。開幕から7勝5敗と順調なスタートを切った時点でコンリーが離脱すると、そこから15勝55敗とほとんど勝てなくなりました。

今シーズンも目立った新戦力はドラフト4位のジェイレン・ジャクソンjr.ぐらいで戦力アップとは言い難く、昨シーズン22勝のチームが激戦の西カンファレンスでプレーオフに進出するのは簡単ではありません。それでもコンリーのあまりに大きな存在感は予想を難しくしてくれます。

チームを勝たせる術に長けたコンリーですが、そのスタッツを考えるとリーグトップクラスのポイントガードとは思えません。昨シーズンは平均17.1点ですがフィールドゴール成功率は40%を下回っており、アシストも4.1に留まりました。ターンオーバーは1.5と少なく、良い選手であることは分かりますが、チームの中心選手としては全体的にインパクトに欠ける数字です。しかし、コンリーにはこれらのスタッツ以上の活躍度、勝利への貢献度があります。

父親はバルセロナオリンピックの三段跳びで金メダルを獲得しており、叔父は元NFLプレーヤーとアスリート一家の出身であるコンリーですが、高い身体能力を感じさせるプレーはほとんどありません。高いハンドリング技術を持ち合わせていますが、それをひけらかすこともなく、シンプルな技術のみでプレーを構成しています。

しかし、絶妙な緩急でディフェンスを手玉に取り、スルスルと抜けていきます。185cmと小柄ですが間合いを計るのが上手く、フィジカルコンタクトを極力させず、またバランスを崩されてもリカバリーの速さで対応します。

左利きの特性を生かしてステップバックシュートを上手く使いながら、加えてリングから離れた位置でも右手のフローターシュートを決めてきます。コンリーに右へとドライブされると、前への推進力を使った右手のフローターと、切り返しての左手のステップバックシュートという守り方が全く違うフィニッシュ方法に対応しなければいけません。こうやって緩急、ハンドリング、ボディバランス、シュートスキルと様々な能力を駆使して、ディフェンスに対応させないのがコンリーの特徴なのです。

周囲を生かすプレーが持ち味ではありますが、観客をも驚かせるようなアシストも多くはありません。そのパスは何でもないシンプルなものばかりで、相棒のマルク・ガソルと何度もパス交換していきます。フリーになる選手を見つけるのが上手いというよりも、テンポ良くパスを供給することでチーム全体のリズムを整えていくタイプです。

パスが多い割にアシストの少ないコンリーですが、2016-17シーズンはセカンダリーアシストがリーグ最多でした。これは「パスを受けた選手が1秒以内にアシストした」数字で、コンリーが展開するパス交換が本人のアシスト数以上に有効に機能していることを示します。

パスを中心にチームをコントロールするポイントガードに見えるコンリーですが、実はそれも少し違います。フロントコートにボールを運ぶと簡単に他の選手に渡し、オフボールムーブでマークを引き剥がし、ボールをもらい直してウイングの位置から仕掛けるプレーが得意。これはシューティングガードに近いプレースタイルです。昨シーズンはこの変化を使い分け、前半はポイントガード役を、後半はシューティングガード役をメインにしました。アシストは前半の方が多く、得点は後半の方が多くなり、相手のチームディフェンスを惑わせたのです。

こうやってコンリーのプレーは、シンプルでチームのリズムを整えながら、相手を幻惑させていきます。緩急を使いこなした個人技だけでなく、チームオフェンスとしてもポジションを入れ替え、的を絞りにくくしていくことで、試合全体を通して有利な状況を作るのです。

そして試合の最後は勝負強さを発揮し、自らのシュートで勝利をもたらします。昨シーズンは40%に満たなかったフィールドゴール成功率は、第4クォーターに限れば48%まで向上し、高い集中力を発揮しました。コントロールすることがメインというイメージがありますが、勝負どころでは自分の得点で試合を決めに行くタイプの選手なのです。

プレシーズンゲームでも、巧みなゲームコントロールもすれば、他の選手にボールを預けておいてフィニッシュにだけ登場してきたりと、相手を幻惑させるプレーを連発しており、ケガから復帰したばかりとは思えない魅力を発揮しています。

変幻自在なコンリーはテンポの良いパス交換でチームにリズムを生み出しながら、自ら勝負を決めてチームを勝たせるポイントガード。日本人にとって特別なチームになってきたグリズリーズを楽しむには、コンリーのプレーを追いかける必要があります。渡邊雄太と同時にコートに立てば、渡邊のオールラウンドな能力も引き出してくれるに違いありません。