ジャズ

皮肉なことにオフェンスで勝てるからこそ、ディフェンスの穴を無視

ルカ・ドンチッチが欠場した試合もありながら、マーベリックスのオフェンスに翻弄されたジャズは平均41.8本もの3ポイントシュートを打たれ、自慢のディフェンスが崩壊してしまいました。逆にシーズン中はリーグ2位となる平均40.3本を打っていた3ポイントシュートは、29.8本に抑え込まれてしまいました。第5戦を除けば接戦の多かったシリーズですが、自分たちの長所を潰され、負けるべくして負けた形です。

最優秀ディフェンス賞常連のルディ・ゴベアを中心に、リーグ最少の被フリースローや同じく3位のリバウンドを誇るジャズは、完璧なまでにシステム化された連携もあって、ゴベアのリムプロテクト能力を最大限に発揮した『リーグトップクラスの強固なディフェンス』と印象付けられています。しかし、その印象とは違い、今のジャズは貧弱なディフェンスをリーグで最も効率的なオフェンス力でカバーするチームになっています。

最近のプレーオフではクリッパーズとマブスに、いずれも3ポイントシュートで攻略されてきました。ドライブすると必ずゴベアがヘルプに出てくるため、ゴベアにマークされた選手をアウトサイドにポジショニングさせれば、必ずワイドオープンになり3ポイントシュートが打てるだけでなく、ゴベアは必ずシュートチェックに追いかけてくるため、ドライブも決まりやすければ、オフェンスリバウンドも高確率で奪い取ることができます。ジャズのラインナップはゴベアにリバウンドを取らせる前提のため、ゴベアさえ引き出せばスモールラインナップでも簡単に攻略できるのです。

重要な事は単に3ポイントシュートを打てることではなく、完璧なまでにシステム化された連携によって、ゴベアが必ず同じ動きをしてくれることです。事前のスカウティング通りに動いてくれるため、ジャズ対策をして臨むチームにとっては、これほどやりやすいディフェンスはありません。シーズン中の1試合であればともかく、連戦となるプレーオフではシリーズが進むほどに攻略は簡単になっていきます。

オフェンスレーティングは116.2でリーグトップとなっており、今のジャズは穴の多いディフェンスをオフェンスでカバーしている形ですが、皮肉なことにオフェンスで勝てるからこそ、ディフェンスの穴を無視してきました。システムとしての穴があるといってもゴベアのディフェンスが強烈であることに変わりはなく、変に相手に合わせてシステムを変更するよりは、自分たちの強みを優先することで安定感が生まれます。

そもそもオフェンスがリーグトップなのだから、大量失点さえ避ければシーズンで好成績は残せます。しかし、オフェンス面も『完璧すぎるシステム』が仇となり、プレーオフでは止められてしまいます。美しく流れるようにパスを繋ぎ、リーグトップの完成度といっても過言ではない連携を持っている反面、ディフェンスと同様に『必ずフリーの選手にパスが出てくる』のがわかりやすく、連携を理解している相手ならば追いかけるのは容易いこともあり、意図的に誘導されることもあります。特にサイドライン際にフリーの選手を作っておいて、パスと同時に追いかけてプレッシャーをかければ、スペースのない中で窮屈なプレーを促し、ターンオーバーを誘発できます。

ジャズ

完璧に近づくほど『明確な弱点』に

それでもオフェンスに関しては、ドノバン・ミッチェルやジョーダン・クラークソンが止められない個人技で解決してくれてきました。だからこそマブスはディフェンダーのドリアン・フィニー・スミスとレジー・ブルロックをコートに立たせ続けました。2人のプレータイムは42分を超えており、ハイコスアを記録したドンチッチやジェイレン・ブロンソンよりも長くなっています。チーム戦術が機能しない中で、最終手段である個人技ばかりに頼ったジャズと、その最終手段を止めることに全力を費やしたマブスという構図だったのです。

ここ3シーズンほど、ジャズの主力は変わっておらず、寄せ集めのチームとは違って共通意識の高いチームになっています。時間とともに連携が深まって攻守に完璧なシステムを作ってきましたが、完璧に近づくほど相手にとっても分析しやすく『明確な弱点』にもなってきました。シーズン終盤になって突如としてヘッドコーチのクイン・スナイダーに解任の噂が出始めましたが、攻略されても修正してこなかった頑固な姿勢が『プレーオフで勝てない致命的な原因』だと、プレーオフが始まる前から予想されていたのです。

このまま同じ体制で続けても、ジャズは好成績を挙げることができます。しかし、優勝を目指すのであれば大きな変化が求められます。スナイダーほど優秀なヘッドコーチを探すのは簡単ではなく、またゴベアという特殊なセンターを中心にして柔軟なシステムを作ることはハードルの高いミッションなだけに、変化を求めた結果として成績を落とす可能性の方が高いです。完璧すぎることが弱点になるNBAの難しさを痛感したジャズの敗戦でした。