同一カード週末2連戦のBリーグは、どちらかの試合さえ見られれば良い。関東圏にはB1だけで6クラブあり、B2とB3まで守備範囲を広げれば、毎週末ハシゴ取材ができる。実際、他の記者と交わす言葉も「明日はどこへ行くんですか?」である。従って連戦を見るのはシーズンチケットホルダーか、地元メディアくらいだと思っていた。
3シーズン目を迎えたBリーグであり、多くのメディアがハシゴ取材しがちな東京だからこそ、一つのクラブだけを追いかけるのもおもしろいのではないか。そう感じて白羽の矢を立てたのがアルバルク東京だ。チャンピオンだからというわけではなく、ホームアリーナが家から一番近い──というのが理由である。
『日本バスケ界のために』FIBA主催大会へ参戦
サンロッカーズ渋谷との開幕戦が行われる3日前にバンコク(タイ)から帰国したA東京。『クラブの日本代表』として、彼の地で行われたアジアチャンピオンズカップに参戦し、6日間で5試合を戦ってきた。準優勝に終わったが、予選ラウンドも含めて敗戦を喫したのは決勝戦だけであり、Bリーグの存在感を示した。この大会の歴史は長く、1981年から続いている。過去には第1回大会で日本鋼管が、1996年にはいすゞ自動車が参加し、いずれも準優勝だった。FIBA主催大会へ取材に行けば、これまでもスタッフから「なぜ日本のクラブは参加しない?」と言われてきたものだ。
開幕直前またはすでにシーズンに突入していたため、時期的に難しい現状がある。しかし今回、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチは「FIBA主催のトーナメントであり、今後の東京オリンピック出場も見据え、日本バスケ界のためにも参加することを決めた」と、疲労やケガのリスクを把握した上で、日本代表として新たなる戦いに乗り込んだのである。
ケガ人こそ出なかったが、アジアのライバルを破って準優勝したことで得た自信よりも「疲労の方が大きいのが本音」と田中大貴は吐露する。開幕戦では13得点5アシストを挙げ、勝利に貢献したエースだったが、連戦が響いたか左ハムストリング筋膜炎のために2戦目は欠場となった。気持ちを奮い立たせても身体が言うことを聞かない疲労が残り、そしてエース不在の状況は負けても言い訳が立つ。しかし、絶対的なディフェンスを武器に開幕2連勝を飾り、ホームのファンを笑顔にさせた。「昨シーズンの土台がある」というパヴィチェヴィッチヘッドコーチを始め、チャンピオンのプライドを見せた。
「外国籍選手とのマッチアップは嫌いじゃないです」
アジアチャンピオンズカップ決勝ではイランのペトロチミに64-68で敗れたが、菊地祥平は「最後に勝ち切れなかったことが良い経験になりました」と晴れやかな表情で振り返る。序盤はA東京ペースだったが、相手のフィジカルの強さ、バスケIQの高さを目の当たりにし、「最後の最後で思うようにさせてくれませんでした」。成功体験こそ成長を加速させるものだが、今回に関しては菊地の考えは違う。「優勝できなかったことが、今後のプラスになる大きな糧になりました」というベテランの意図は、悔しい経験をした若手選手たちの起爆剤になるとの期待だ。
疲労を訴えていたエース田中とは打って変わって、菊地はこの開幕戦も楽しそうにハッスルしていたのが印象的だった。「キツくないと言えばウソになるが、それを体現できるのも昨シーズン優勝できたチームだけ。あの大会に呼んでいただけるのも1チームだけなので、逆にそれを楽しんでいました。疲れたからと言って負けるのは言い訳でしかなく、ならば出なければ良いじゃないかというだけの話」と意に介さない。
SR渋谷には帰化枠のファイ サンバがいることで、新加入した211cmのライアン・ケリーを3番で起用してきた。「外国籍選手とのマッチアップは嫌いじゃないです」と言う菊地は、その状況さえも楽しんでいた。A東京にとって10月は、乗り越えなければならない厳しいスケジュールである。今後の2週間だけを抜き出しても次節はアウェーでシーホース三河、休むことができないまま栃木ブレックスとの水曜ゲームを挟み、その週末には川崎ブレイブサンダースと続く。栃木以外は帰化選手のアドバンテージがあるクラブであり、「3番に大きな外国籍選手や得点力ある外国籍選手とのマッチアップが出てきます。僕やザック(バランスキー)がそれを止めることが仕事になります」と身体を張り続けなければならない。
「相手のポイントゲッターとのマッチアップが多いので、いかに仕事をさせないか。今シーズンはそこを目標にしています」
「相手を凌駕するくらいのディフェンスを」
堅守を武器に、Bリーグチャンピオンへと駆け上がったA東京。今シーズンもそのベースは変わらず、「相手を凌駕するくらいディフェンスのクォリティを上げなければいけない」と努めている。個のレベルを世界基準へと押し上げるべく、パヴィチェヴィッチヘッドコーチは日々のハードな練習からレベルアップを図る。1年目、ディフェンスに関しては極力スイッチすることなく、一人で守り切る守備力を求めることから始まった。「自分たちがステップアップした段階で、ルカがバリエーションを増やすかどうかを決めていきます。まずは、僕らがルカの期待値まで達することができるかどうかが重要です」という選手たちの意識の高さと切磋琢磨が、自然とチーム力を引き上げている。
開幕2連戦を終えたあと、「ピック&ロールやスクリーンプレーに対する対応が甘かった」と菊地は反省点を挙げた。アジアチャンピオンズカップとBリーグでの戦い方の違いに戸惑いもあった。
「身体が強かったり、シュートに特化したり、海外のクラブはチームカラーがハッキリしていました。スクリーンプレーも少なかったので、ディフェンスの仕方がBリーグとは全く違いました。開幕戦は、昨シーズン優勝できた我々のディフェンスの勘を取り戻すことに苦労し、流れを完全につかみきるまでにはいかなかったです」
それでもエース不在の2戦目の終盤、一番疲れている時間帯こそ自分たちのディフェンスを信じ、プレッシャーをかけて運動量で上回った。敵将の勝久ジェフリーも「第4クォーターに25点を取られたのは、ディフェンスの精度や選手をローテーションしてきた相手に対し、自分たちは交代をしなかったのは僕のミス。体力面で差が出てしまったのは反省点」と敗因を挙げており、A東京らしいスタイルで2連勝をつかむことができた。
これまであまり体験することがなかった2連戦を目の当たりにしたことで、新たな楽しみが見えてきた。次回のホームゲームは、栃木を迎える10月17日の水曜ゲーム。疲労を乗り越え、万全なるルーティーンで臨めているかを確かめたい。
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