ジェームズ・ハーデン

ダリル・モーリーの作るチームでNBA優勝の夢をもう一度──

ネッツは6連敗中で、東カンファレンスのトップグループから脱落しつつある。同時に『ビッグ3』が破綻の危機に瀕している。

ケビン・デュラントとカイリー・アービングのデュオに、ロケッツからジェームズ・ハーデンが加わったのは昨シーズン開幕直後のこと。過去のどの『ビッグ3』よりもインパクトを残すポテンシャルがあったはずだが、昨シーズンは常に誰かがケガをしてコンディションが整わず、カンファレンス・セミファイナルまで進んだものの、そこから先を戦える状態にはなかった。

今シーズンはカイリーがワクチン非接種でプレーできず、シーズン途中から敵地でのゲームだけプレーするようになったものの、それは本来の『ビッグ3』の姿ではない。さらにカイリーと入れ替わるようにデュラントが左膝を痛めて戦線離脱となった。

そんなチームで苦しんでいるのがハーデンだ。絶対的なエースとして自分中心のチームが組まれていたロケッツとは異なり、ネッツでは『ビッグ3』に最後に加わったことで自己犠牲を求められ、得点からアシストへ重心を移したプレーを選択している。さらに超攻撃的ロスターではディフェンスの負荷も増し、昨シーズンのプレーオフではハムストリングスのケガで走れない状態ながら最後まで戦い続けた。今シーズンも彼にできるプレーをすべてやっているのだが、ロケッツ時代は30を超えていた平均得点が今シーズンは22.5まで落ちており、ケガも多いことから「全盛期が過ぎた」と批判されることさえある。

そんな中、ハーデンにはトレードの噂が浮上している。もともと彼の契約は来シーズンまでで、最終年はプレーヤーオプションのため今夏にフリーエージェントになることができる。ここで問題とされるのが、ハーデンがネッツの環境に不満を抱いて移籍を考える可能性があるのと同時に、ネッツも高額な再契約を避けてトレードに踏み切る可能性があることだ。

中長期的な視野で見た場合、チーム編成で最も避けるべきは『爆弾』を抱えないことだ。例えばロケッツは再建中のチームでプレーを望まない、なおかつ今シーズンと来シーズンで9000万ドル(約100億円)の契約を残すジョン・ウォールを抱えて身動きが取れなくなっている。レイカーズはラッセル・ウェストブルックがこのまま下降線をたどるとしたら、同じ運命にある。クラブの功労者ならともかく、2年か3年しかプレーしていない選手に対してはシビアな判断が求められる。カイリーはさらにワクチン非接種の問題も抱えており、契約延長のリスクは大きい。ネッツは2026年までの長期契約を残すデュラントを残して世代交代できれば、優勝を狙えるチームであり続けることができる。

『The Athletic』はセブンティシクサーズが2月10日のトレードデッドラインまでにハーデン獲得に動くと報じている。彼らにとって『爆弾』となっているベン・シモンズをトレードの駒に使い、ハーデン獲得を実現させられば万々歳だ。球団社長のダリル・モーリーは、もともとロケッツのGMでハーデン中心のチームでNBA優勝を目指してきた。一度は途切れた夢をジョエル・エンビードと再び追いかけるのは、ハーデンにとってモチベーションをかき立てるプランであるはずだ。

ネッツがシモンズの性格を問題視するのは間違いない。それでも、シモンズが機能すればカイリーを手放すことの障害がなくなり、デュラントを擁して強さを保ちながら世代交代するプランは大きく前進する。さらにシモンズとハーデンは1対1のトレードではなく、さらなる見返りも期待できる。タイリース・マクシーやマティース・サイブルは、ネッツに足りない若さと運動量を補ってくれる存在だ。

現地2月2日のキングス戦で、ハーデンはフィールドゴール11本中2本成功、5本放った3ポイントシュートをすべて外して4得点に終わり、現地4日のジャズ戦は欠場する。手のケガが本来ならプレーできない状態だったのかもしれないし、デュラント抜きの戦いで疲労が蓄積しているのかもしれない。だが、本来のハーデンはそんな問題を乗り越えて毎試合のように30得点、40得点を叩き出していた。マイク・ダントーニの去ったネッツでその姿を取り戻せないのだとしたら、モーリーの誘いはさぞ魅力的なはずだ。