オコエ桃仁花

取材・写真=小永吉陽子 構成=鈴木健一郎

「技術とか経験とか、そういう場面ではない」

テネリフェ(スペイン)で開催されている女子バスケットボールのワールドカップ、日本代表は決勝トーナメント初戦で中国に敗れて大会を終えた。上位進出を目指したチームにとっては予想外の早期敗退。これまで主力だった選手がチームを離れたこと、さらには12人の登録メンバーのうち何人かがケガを抱えてコンディションが万全でなかったことで、チームが本来持つポテンシャルを発揮することができなかった。

しかし、そんな厳しい条件の中でチャンスをつかんだ選手もいる。チーム最年少の19歳、オコエ桃仁花だ。FIBAランキング2位のスペインを相手に11得点を奪った開幕戦から全4試合すべてで起用され、苦しい時にチームに活力を与えるジョーカーとして存在感を発揮した。

昨日の中国戦ではリバウンド対策で身長の高い選手が起用され、前半は出番がなかったオコエはチームの苦戦を「6カ月間つらい練習に耐えてきたのに、これで終わっていいのか」という思いでベンチから眺めていた。

第3クォーター途中には投入されてすぐに思い切りの良い3ポイントシュートを決めてチームに活力を与えていた。再びオコエが投入されたのは第4クォーター残り5分半、スコアは65-76の11点差。ここで盛り返さなければ後がない『崖っぷち』の状況だ。「技術とか経験とか、そういう場面ではないと思いました。自分ができるのはアグレッシブに行って、みんなのモチベーションを上げることでした」とオコエは振り返る。

オコエが真価を発揮したのは残り3分15秒の場面から。本橋菜子のスティールに反応してレイアップを沈めて71-78、スティールからのワンマン速攻、再びスティールからアンスポーツマンライクファウルを誘い、フリースロー2本もしっかり決めて日本に勢いを呼び込んだ。これで日本は一時は2点差と中国に詰め寄ったのだが、最後は突き放されて81-87で敗れた。

オコエ桃仁花

「やっぱりまだまだだという気持ちです」

「少しは仕事ができたと思います」と話すオコエだが、涙とともに誓うのはもっと強く、上手くなることだ。「チームで絶対的な安心感がある髙田(真希)選手や宮澤(夕貴)選手が安定して試合に出ているのを見て、そういう選手になっていかなきゃいけないと強く思いました」

これまでオコエは合宿中にも「若くてもできるよ」という気持ちで日々の課題に挑んでいたが、ワールドカップで大黒柱の髙田、エースとなった宮澤の活躍を目の当たりにして「経験している選手との差が理解できました」と、自分に足りない点を感じ取ったそうだ。

それと同時に、「若くてもできる」をワールドカップの舞台で実践する選手が存在することも刺激になっている。「中国のセンターは19歳の選手が出ています。だから自分の足りないところがすごく分かりました。世界の同い年に負けていられないです」とオコエは言う。

「これまでアンダーカテゴリーの代表で落とされたり、いろんなことを経験してきました。今回こうやってワールドカップのメンバーに自分の力で入ることができて、うれしい部分もあるんですけど、やっぱりまだまだだという気持ちです」

敗退を告げる試合終了のブザーとともに両手で顔を覆って涙したオコエ。試合直後の取材でも最初は涙声だったが、話をするうちに悔しい気持ちは闘志へと転じていったようだ。次の舞台でのオコエの活躍、そしてさらなる成長に期待したい。