ジョエル・エンビード

2019年の夏「彼のプレーを自分に取り入れるようになった」

コービー・ブライアントの悲劇的な死から2年が経過した。それでも、今もなお彼はファンの心の中に存在しているし、プレーヤーに与える影響もいまだ大きい。

没後2年のタイミングで、『The Philadelphia Inquirer』はジョエル・エンビードと彼のスキルコーチに取材し、エンビードがプレーの幅を広げて成長する上で、コービーの影響がいかに大きかったかを紹介している。

エンビードによれば、コービーとマイケル・ジョーダン、そして自分がほぼ同じ動きでオフェンスをする動画を作り、それを見て『ベストの自分』をイメージしているそうだ。「いつもこの動画を見てから練習に入る。実際にできるようになるには、やり続けなきゃいけない」と彼は言う。

1994年生まれのエンビードにとっては、ジョーダンよりもコービーに馴染みがあるのだろう。彼が初めてNBAの試合を観戦したのは2010年のファイナルで、コービーのレイカーズがセルティックスを破った試合だった。2016年のデビュー時点で、彼は213cmのセンターにしては器用で、様々なフィニッシュムーブを持つ選手だったが、2019年のプレーオフでカワイ・レナードにラストショットを決められてラプターズに敗れた後、『センターにしては上手い』では優勝には手が届かないと痛感したそうだ。

彼のスキルコーチを務めるドリュー・ハンレンはこう証言する。「ジョエルはこう言ってきた。『NBAで試合を決めるのはガードかフォワードだけど、僕も試合を決められる選手になりたい。そのためのスキルを身に着けたい』とね。もちろん、簡単なことじゃない。でも彼は『OK、じゃあ僕をウイングにしてくれよ』ぐらいの感じで言ったんだ」

ダブルチームを身体の強さではなくスキルで破る。2人はそのための練習に2019年の夏を費やした。リングを背にした時に視野を広く取るためのボールハンドリング、アシストパスの技術、そしてディフェンスを振り切るフェイダウェイやステップバックでのシュート。エンビードは言う。「コービーは僕が最初に好きになった選手の一人だけど、ただそれだけだった。彼のプレーを自分に取り入れるようになったのは、プレーオフで完璧な負けを経験したあの夏からだ」

ハンレンは「プレーを見て真似るのは誰にでもできる。それを自分のムーブとして身に着け、さらに試合で実際に使えるようになるまでは長いプロセスだけど、やる価値はある」と言う。コービーの技術を習得するのは明らかに大変だろうが、NBAデビュー前からエンビードのサポートをしているハンレンにとっては、それ以前にも長いプロセスがあったことを知っている。初めて会った時のエンビードは、ボールを腰の周りで一周させるのにももたついた。その彼がNBAの平均的なスキルを身に着け、今はレジェンドを目指して研鑽を続けている。

コービーの命日を前に、エンビードは「今の姿を彼に見てほしかった」と語った。コービーが引退したのは2016年で、2014年のドラフト指名を受けたもののケガで2016年までデビューが遅れたエンビードは直接対戦する機会がなかった。しかし、コービーは現役最後のフィラデルフィアでのシクサーズ戦を終えた後にエンビードをロッカールームに呼び、『NBAキャリアをどうスタートさせるか』というテーマで45分間話し合ったそうだ。

コービーは多くの若手にこういった機会を与え、練習場や試合で『ありがたい教訓』を身体に叩き込まれた選手も多い。それに比べればエンビードは関わり合いが薄いとも言えるが、彼はその出来事を「今でも思い出すたびにモチベーションが湧いてくる」と振り返る。