デリック・フェイバーズ

見る側に強い印象は与えずとも、効果的な守備

ジャズはジョーダン・クラークソンと再契約したものの、目立った戦力強化はできていませんが、1年前にペリカンズに放出したデリック・フェイバーズの復帰だけで、必要だった補強が果たせた印象があります。試合の中で目立つプレーをするわけではありませんが、昨シーズンのジャズはフェイバーズ不在の影響を強く感じさせていました。

9シーズンに渡りジャズの中心選手として活躍していたフェイバーズは、昨オフにチームがボバン・ボグダノビッチと契約したことでロスターに残せなくなり放出されました。ボグダノビッチはジャズの2人目のエースとして活躍し、薄くなったインサイドはルディ・ゴベアが強力に塞いだため、フェイバーズ不在の影響が直接的に感じられることはあまりありませんでした。それでもどこか物足りなかったのは、フェイバーズの隠れた貢献が実は重要だったからです。

フェイバーズは移籍先のペリカンズでも、ザイオン・ウイリアムソンの影に隠れる存在でした。ザイオンの常識離れした身体能力はNBAでも圧倒的で、ルーキーとは思えぬ輝きを放っていました。ですが、フェイバーズの地味なプレーの一つひとつにもまた意味があり、それはチームスタッツに表れていました。

ペリカンズのディフェンスレーティングはリーグ21位の111.8と、ディフェンスが大きな課題でした。しかし、フェイバーズがコートにいる時間は107.8まで向上し、一気にディフェンスが引き締まります。ファイバーズのブロック数は平均0.9に留まっており、そのブロックもシュートに『触れる』ようなブロックであり、豪快に叩き落とす高さのプレッシャーを放っていたわけではありません。かといって広い範囲をスピードでカバーするダイナミックな動きをするわけでもないので、見る側に強い印象は与えません。

それでも優れた読みで危険なスペースを見つけ、常にヘルプで待ち構えているため、フェイバーズがコートにいるとイージーシュートを許さなくなります。正しいポジショニングからシュートを打たれる前に止めてしまうことも多く、豪快なブロックのような派手さはなくても貢献度は抜群で、「必ずそこにいてくれる」とチームメートから厚い信頼を寄せられていました。

逆にファイバーズを失ったジャズは、強力なリムプロテクターのゴベアを中心とした変わらぬディフェンスマインドで、見た目にはディフェンスの良いチームでした。しかし、リーグ2位だったディフェンスレーティングは13位まで下がり、平均的なディフェンスのチームになってしまっていたのです。オフにフェイバーズを戻したのは、再びディフェンス力で勝てるチームに戻るための極めて重要な補強です。

新シーズンに期待されるのはゴベアの控えとしてセンターを務めるだけでなく、パワーフォワードとして同時にコートに立ち、強力にインサイドを塞ぐことも期待されています。昨シーズンはボグダノビッチが務めたように、ジャズではセンターとパワーフォワードでは求められる役割が全く違うものになりますが、フェイバーズはアウトサイドシュートが苦手にもかかわらず、正しいポジショニングと的確な合わせのプレーで、全く違う役割を起用にこなしていく万能性も持ち合わせています。

昨シーズンもジャズのロジカルなオフェンスは見事でしたが、複数のポジションをこなせる選手が少なく、相手に応じたラインナップを採用する柔軟性を欠きました。西カンファレンスはレイカーズやナゲッツがインサイドを分厚くした戦術も使ってくるため、ジャズもビッグマンを2人並べて、高さとパワーに対抗する必要があります。フェイバーズの獲得はプレーオフで勝つための補強でもあったのです。

目立たず影のような存在ながら、正しいポジショニングと万能性で確実な貢献をしてくれるフェイバーズ不在の影響を、ジャズはこの1年間で様々な場面で感じていました。一見すると控えのビッグマンを1人加えただけですが、ジャズファンにとってはこれ以上ないほど頼もしい補強になったはずです。