35歳のポイントガードが優勝を目指すチームが熱視線
クリス・ポールは現在35歳。2005年のNBAドラフトでニューオーリンズ・ホーネッツに1巡目4位指名を受けてデビューしてからの15シーズン、リーグ最高のポイントガードであり続けている。『ロブ・シティ』と呼ばれたクリッパーズで長く活躍し、2017年に加わったロケッツ、そして2019-20シーズンにはサンダーでも突出したパフォーマンスを見せている。
年齢を重ねることで身体能力は下り坂に差し掛かりつつあるが、もともとアスリート能力で勝負するタイプではなく、その影響は最小限に留まっている。今シーズンも長期欠場を一度もせずに72試合中70試合に出場。70試合以上に出場した選手の中ではリーグ9位の平均プレータイムは31.5分と鉄人ぶりを見せている。試合の流れを読んだゲームメークとアシストはもちろん、相手ディフェンスのギャップを突くミドルレンジからのプルアップジャンプシュートも今なおリーグトップクラスの技術だ。プレーオフではファーストラウンドでロケッツを最後の最後まで苦しめた。優勝候補を相手に若いサンダーがここまで戦えたのも、ポールのゲームメークによるところが大きい。3勝4敗で敗れたにもかかわらず『プレーオフでチームを勝たせるポイントガード』としての評価はむしろ高まったと言える。
そんなクリス・ポールの周囲には移籍の噂が絶えない。どのチームも『プレーオフでチームを勝たせるポイントガード』を欲しがっている。そしてサンダーは、来夏にフリーエージェントになる権利を持つポールをもう1年保有するより、このタイミングでトレードすることで、数年後に強いチームを作ることができる。最大の障壁は4100万ドル(約43億円)という高額年俸の負担だが、そこさえクリアできれば大枠の利害は一致し、あとはディテールというわけだ。
有力な移籍先候補の一つがセルティックスだ。2008年を最後に優勝から遠ざかっているが、ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンの若き2人のエースを中心に戦力は整っている。勝負どころで力を発揮できなかったケンバ・ウォーカーに代えてポールを加えることで、優勝の可能性はグッと高まる。ポールと一緒にプレーすることはテイタムとブラウンにとってリーダーとしての成長を促すことにもなるだろう。ポールが役割を終えた時に、2人が名実ともにチームリーダーへと成長していれば、レブロン・ジェームズとステフィン・カリーの時代を引き継ぐ『王朝』を打ち立てることも不可能ではない。将来への投資という意味でも、ポールの獲得は『アリ』だ。
そしてセブンティシクサーズ。ベン・シモンズをポイントガードからフォワードにコンバートするプランは失敗に終わったが、それはポイントガードを任せるシェイク・ミルトンの経験不足が大きい。ここにポールを据えることは、シモンズとジョエル・エンビードを並び立たせるプランとしては最善だろう。シモンズとエンビードのどちらかをトレードに出せばチームは解体となり、優勝はしばらく遠のくことになる。それよりも『今すぐに勝つ』ならポールの獲得だ。新たなヘッドコーチに就任したドック・リバースはクリッパーズで長らく一緒だった指揮官であり、球団社長に就いたダリル・モーリーはロケッツにポールを連れてきたGMである。彼らとともに果たせなかったNBA優勝を狙うことは、ポールのモチベーションを奮い立たせるに違いない。
シクサーズはドアマットチームだった時代に指名権をかき集め、シモンズとエンビードを手に入れた。だが、そこから先の補強戦略は失敗続き。首脳陣が入れ替わった今回、同じ失敗は許されない。中途半端な補強ではなく、チームを勝たせられる選手を獲得しなければ、シモンズとエンビードの全盛期を『プレーオフ進出がやっと』の立ち位置で過ごすことになる。
レイカーズでレブロンと一緒にプレーする、バックスでアデトクンボと強力なコンビを形成するという説もある。35歳のポールがこれだけ強豪の関心を引き付けるのは、今シーズンの彼のパフォーマンスがそれに値するものだったからこそ。優秀なポイントガードはいくらでもいるが、『プレーオフでチームを勝たせるポイントガード』はほんの数人しかいない。まだしばらくは、クリス・ポールの周辺は騒がしくなりそうだ。