渡邊雄太

渡邊の能力を最大限に生かすプレースタイルは『強いチームの3&D』

渡邊雄太はネッツとの契約が満了となり、フリーエージェントとして今オフを迎えている。NBAでの5シーズンでグリズリーズ、ラプターズ、ネッツと3チームを渡り歩いてきたが、ここまでその立場は常に安定していなかった。5年目の今シーズンでさえ、ネッツに加わった時には無保証のキャンプ契約だった。

年俸以外の待遇も、必ずしも良いものではなかった。ラプターズでの2年目は序盤戦にローテーションに食い込む良い働きを見せ、2ウェイ契約から本契約を勝ち取ったが、その後に出場機会を失った。チーム戦術の方向性が変わった影響が大きく、必ずしも渡邊がパフォーマンスを落とした結果ではないのだが、チーム内での居場所を確立したと思ったらガベージ要員に転落する厳しさを味わっている。

昨シーズンのネッツでも『3&D』としてローテーションに入り、シーズン前半戦は3ポイントシュート成功率で一時はリーグトップを争う大活躍を見せたが、カイリー・アービングとケビン・デュラントの退団という激変がチームに起こる中で、またも出場機会を失うことになった。

しかし、ネッツでの活躍により彼の評価は一変した。それまでフリーエージェントでも、その動向が取り上げられるのは各チームがほぼロスターを固めた後だったが、今回はフリーエージェントの交渉解禁のタイミングで、サンズとレイカーズという優勝候補が彼に興味を持っていると報じられている。

サンズはデビン・ブッカーにデュラント、ブラッドリー・ビールを擁するNBA最大のタレント集団となった。レイカーズはレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスを軸に、今年2月のトレードで獲得した八村塁と新契約を結んで残留させようとしている。どちらも優勝を狙えるだけの戦力を擁しているものの、サラリーキャップには余裕がなく、『安くて使える選手』で層を厚くする必要がある。チャンスメークはスター選手が担うので、求められるのはそのチャンスを決める3ポイントシュートとディフェンス、つまり『3&D』だ。

『3&D』の価値は、ペース&スペースが常識となったNBAでは数年前から確立されているが、本当に優秀な『3&D』は数が限られる。そして渡邊は、この役割のフリーエージェントのトップグループに入っている。シュート力は昨シーズンに証明済み。ディフェンスは強靭なフィジカルを持つ相手にゴール下まで押し込まれると苦しいが、フットワークを生かす堅実なディフェンスは評価されている。

噂になっているサンズとレイカーズには真の『3&D』がいないため、渡邊は是非とも獲得したい選手だろう。他にも、例えばジョーダン・プールを放出してクリス・ポールが加わったウォリアーズは、セカンドユニットのシュート力を落とさないという意味で渡邊に関心を持ちそうだ。

ただ、優勝候補のチームがミニマム以上の条件を渡邊に提示することはない。次がNBAでの6シーズン目で、10月には29歳になる渡邊にとって、今オフは良い契約を得る千載一遇のチャンスであり、ミニマムよりも良い年俸を、単年ではなく複数年契約を欲しいのが本音だろう。再建中のチームはもっと若い選手に経験を積ませたいと思うだろうが、中位に位置するチームは渡邊により良い条件を出す可能性がある。例えば指揮官ナースの退任とともに転換期を迎えたラプターズはフレッド・バンブリートを始め主力が去ることが予想され、サラリーキャップには空きが出る。2年1000万ドル(約14億円)ほどの契約で渡邊を呼び戻しても不思議はない。『3&D』を探すチームは、必ず一度は渡邊に注目するはずだ。

それでも先に述べた通り、スター選手がお膳立てしたチャンスを確実に決め、ディフェンスでハードワークしてスター選手の負担を軽減する『強いチームの3&D』が、渡邊の能力を最大限に生かす役割になる。

今の彼はフリーエージェントとしてオファーを選べる立場にあり、彼が何を優先するかによって移籍先は変わってくる。それでも一つ間違いないのは、彼の評価が上がったことで、去就が例年よりも早く決まるということだ。補強は評価が上の選手から、玉突きのように順番に決まっていく。これまで彼はそうやって上から順番にロスターが決まっていくのを待つ立場だったが、今夏は先に選ぶことができそうだ。フリーエージェントとの交渉解禁とともに新天地が決まっても驚くには値しない。