膠着状態を断ち切るゲームメーク、米須玲音の『存在感』
1月3日、川崎ブレイブサンダースがホームで三遠ネオフェニックスと対戦。持ち味の3ポイントシュートが入らず得点が伸びない中でも我慢強くディフェンスを続け、第4クォーターに突き放して78-68で粘る三遠を振り切った。
前日にエアリアス・ハリスが負傷した三遠は、この試合で外国籍がロバート・カーター1人となるが、その結果30分以上のプレータイムとなった太田敦也が身体を張り続け、日本人選手が足をよく動かす粘りのディフェンスを続けゴール下で簡単に得点を許さない。これに川崎の3ポイントシュートが入らないこともあってロースコアの展開となり、サーディ・ラベナが自陣からの超ロングスリーをブザービーターで沈め、第1クォーターは13-13で終わる。
第2クォーターも両チームとも得点が伸びない。「インサイドにアドバンテージがあるのに、ゲームコントロールをしないで空いたらポンポン打って入らない。重い展開になっていました」と佐藤賢次ヘッドコーチが振り返るように、川崎にとっては嫌な流れだった。
そんな膠着を打ち破ったのは特別指定選手の米須玲音だった。投入された直後にパブロ・アギラールの3ポイントシュートをアシストした米須は、テンポ良くパスをさばいてオフェンスの潤滑油となり、川崎のチームオフェンスを向上させた。第2クォーター最初の4分半で2得点だった川崎は、米須投入後の5分半で17得点を挙げる。期待の新星の活躍によって、川崎が10点リードで試合を折り返した。
外国籍選手はカーター1人の三遠、太田敦也を中心に粘りのバスケを展開
ただ、三遠もよく粘った。インサイドを突く川崎に対し、ニック・ファジーカスをこのクォーターでフィールドゴール8本中2本成功に抑えるなど、質の高いチームディフェンスでよく守る。そこからロバート・カーターの個人技、トランジションからサーディ・ラベナも得点を重ねるなど、走る展開に持ち込んでサイズの不利を覆すオフェンス爆発で一気に逆転する。
第4クォーター、川崎はここまで沈黙していた3ポイントシュートに当たりが来ることで盛り返し、オフィシャルタイムアウトで川崎の61-60と接戦になる。しかしこの勝負どころで、ここまで勝ち切っているチーム、そうでないチームの決定力の差が出る。
川崎3点リードの残り約3分、三遠はラベナがフリースローを2本外すと、川崎は直後に藤井祐眞がドライブからバスケット・カウント。2点差に詰められるチャンスが逆に6点差に開く。その後、藤井、ニック・ファジーカスと中心選手がここ一番でシュートを決め切った川崎が競り勝った。
川崎の佐藤ヘッドコーチは三遠の激しいプレッシャーに苦しみ3ポイントシュートが33本中9本成功と不発に終わった中での我慢の勝利を振り返る。「非常に難しい試合でした。ハリス選手が出なかったことで準備してきたものと全然違うゲームになり、三遠さんのディフェンスの強度が素晴らしくプレッシャーをアタックできない重い展開になりました」
「ただ、オフェンスが上手く行かなくてもディフェンスの集中力を保つ点で、ちょっと切れかけた時もありましたけど、声を掛け合って我慢していたのは成長したところです」
「早い展開を作れて得点にも繋げられたことは自分でも評価できると思います」
冒頭でも触れたが、前半の重い展開を打開する立役者となったのが米須だった。今シーズンのデビューとなった12月24日、25日の大阪エヴェッサ戦はともに試合残り10秒のみの出番だったが、その後12月29日の茨城ロボッツ戦、今節の三遠と3試合連続で第2クォーターから登場。勝敗が決した後の『顔見せ』ではなく、「ご覧の通り、戦力として機能している手応えがあります。今日は彼が出ている時間帯が一番、流れを作れていたかなとも思います」と指揮官が語るパフォーマンスを見せている。
大学1年生にしてリーグ制覇を狙う強豪チームでプレータイムをつかんでいる若き司令塔について、佐藤ヘッドコーチは将来に向けた育成といった視点は全くなく、純粋な戦力として起用していると強調する。
「昨年の積み重ねがあっての今年でフィットするのが早く、ディフェンスの強度は本当に上がっています。非常に成長を感じていますし、もっとステップアップできるようにしたいと思います。ただ、これは競争で他のメンバーも含めてしっかりアピールしていいプレーをしている選手をコートに送り出すことを続けていきたいです」
米須本人は、このように自身のプレーを総括している。「自分はトランジションオフェンス、早い展開を作ることが求められていると思います。この2試合は第2クォーターから出場させてもらい、早い展開を作れて得点にも繋げられたことは自分でも評価できると思います。ディフェンスでもボールマンへのプレッシャーでアタックするように指示があって、遂行できたと思っているので、これからプレータイムが伸びても、チームの力になれるように頑張ります」
川崎にとってオフェンスのテンポを変える貴重なオプションになりつつある米須だが、大学1年生の彼はシーズン最後まで川崎に帯同することはなく途中で大学に戻る可能性が高い。リーグ優勝を至上命題に掲げる川崎にとって、チャンピオンシップで起用できない選手をローテーションに組み込むチーム作りをすることの是非は難しいところ。だが佐藤ヘッドコーチは「特に気にしていないです」と即答する。
「今いるメンバーで今の目標に向かってベストな選択をしていく。彼がいなくなったら残ったメンバーで最善を尽くし、しっかり準備している選手がコートに立っていく。ただそれだけです」
これは見方を変えれば、川崎が目の前の試合で勝つための戦略に、米須が組み込まれていることを意味する。2日後の天皇杯でアルバルク東京、週末にはサンロッカーズ渋谷とリーグでも有数の強度の高いディフェンスを仕掛けるチームを相手にしても米須は起用されるのか。その場合はどんなプレーを見せてくれるのか、さらに注目が高まる米須のプレーだった。