「シュート成功率は16%でしたが、その確率のままで終わる選手ではない」
11月7日、川崎ブレイブサンダースは富山グラウジーズに87-74で勝利した。前半で2桁リードを許すなど出だしは苦しんだが、後半に川崎らしい人とボールが動くチームオフェンスで富山を翻弄し、見事な逆転劇を達成した。
勝利の立役者はシーズンハイの36得点に5リバウンド3アシストを挙げたニック・ファジーカスだ。チームメートとの巧みな連携でシュートチャンスを次々と作りだしては高確率で沈める得意パターンで試合を支配した。
ファジーカスは勝因を語る。「前半はすごく重たい展開になってしまいました。特に自分たちが向こうのペースに合わせてバスケットボールをしている感じでした。ハーフタイムで後半はペースを上げようと話しをしました。それがしっかりとできて、自分たちで主導権を握る戦いができたと思います」
そして、この試合の前まで25本中わずか4本成功と低調だった3ポイントシュートが、6本中4本成功とようやく当たりが来たことに焦りはなかったと続ける。ここまで40%を超える成功率をコンスタントに残した自身のシュート力を信じ、確率は収束すると考えていたからだ。
「シュート成功率は16%でしたが、その確率のままで終わる選手ではないと自分自身で分かっていました。これから打っていけば確率は戻ってくると思っています。だからシュートが入っていない時にこそ、打たないといけない。今日のように良いリズムで打っている時は入ってくれると思っています」
この勝利で川崎は開幕節以来となる2連戦での同一カード連勝を達成した。これで8勝3敗とし東地区トップタイの位置をキープしている。まだシーズン序盤であるが、強豪揃いの地区争いを制するためには、一戦必勝で勝ち星を積み重ねていく必要がある。だからこそ佐藤賢次ヘッドコーチは「地区優勝するために絶対に落とせない試合」と、この一戦を位置付けていた。
ファジーカスも「シーズン中に連勝を続けていくことで、結果に繋がっていきます」と、序盤の劣勢を跳ね返して連勝できたのは大きいと語る。そして、リーグ制覇を達成するためにも、地区優勝を果たすことで得られるホームコートアドバンテージの重要性を強調する。
「昨シーズンはクォーターファイナルで大阪に行き、そこからセミファイナルも宇都宮とのタフなアウェーゲームでした。それによって長距離の移動、いつもと違う食事、慣れていない環境で睡眠をとらないといけなかったです。アウェーでは不確定要素の部分が増えてしまいます。ホームなら自分のリズムで試合に臨めるので、優勝するためにホームコートアドバンテージは必須だと思っています」
「他の外国籍選手は僕が36歳であることをありがたく思ってほしい(笑)」
今回の2連戦、ファジーカスは初戦が31分53秒、2戦目が34分27秒とフル稼働だった。自身のことを「おじさん」と呼ぶように、36歳となった今はBリーグ誕生当時に比べ、運動量やフィジカルの低下は否めない。そして、Bリーグの発展に伴って外国籍選手のレベルは右肩上がりとなっており、必然的に対戦相手がファジーカスを狙ってオフェンスで積極的に仕掛けてくる場面も増えている。
だが、そんな中でもここまで1試合平均22.4得点、8.6リバウンドといつも通りの存在感を見せている。「僕が言えるのは、リーグの他の外国籍選手は僕が36歳であることをありがたく思ってほしいです(笑)。もし、もっと若ければ今よりも大きなダメージを与えている自信はあります」
笑顔を見せながらこう語るファジーカスは、30分以上の出場が続いてもコンディション管理には自信を見せている。「佐藤ヘッドコーチ、スタッフがしっかりと僕のコンディショニングのことを考えてくれています。あとはリカバリーが大事で、自分が何をすれば高いパフォーマンスをできるのかに着目してケアをしています」
余談だが、男子日本代表の新指揮官に就任したトム・ホーバスとファジーカスは旧知の仲だ。コロラド州出身で高校時代は同州を代表するスター選手として活躍、東芝でプレーするなど共通点が多い両者で、「ホーバスはマイガイです」とファジーカスは語り、盟友に次のようにエールを送っている。
「彼とはすごく仲が良いです。僕が代表にいた時、彼は女子代表のヘッドコーチでナショナルトレーニングセンターの中で顔を合わせて話しをしたこともあります。日本はヨーロッパや他の海外に比べてサイズは小さく、パワーで劣りますが、他の部分での強みは絶対にあります。そこをしっかり生かして、日本人にあったバスケをするのが成功する鍵になるという話しをしました」
フィジカル、パワーで劣っていても他の強みを生かせば成功できるのは、今のファジーカスの姿そのものだ。来日当初に比べると身体能力が落ちたかもしれないが、卓越したテクニックで欧州でも活躍してきたビッグマンを凌駕する。川崎が悲願のリーグ制覇を果たすにはチーム全体の底上げが絶対条件であることが大前提だが、その上で強さとは多彩であることを示すファジーカスが引き続き川崎のキングとしてコートを支配していくことも欠かせない。
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