ハッサン・ホワイトサイド

文=神高尚 写真=Getty Images

スタッツでは圧倒も、絶対的な存在にはなれず

平均失点がリーグ4位と堅守を武器とするヒート。その中心にいるのはハッサン・ホワイトサイドですが、シーズン中にプレータイムへの不満を漏らせば、シーズン後にはトレードの噂も浮上するなど、チームの中心選手としての立場に疑問が生じています。ブロック王やリバウンド王にも輝いたことのあるリーグトップクラスのディフェンシブセンターであるホワイトサイドと、ヒートのディフェンスは岐路に立っています。

センターらしくリムプロテクトで強みをみせるホワイトサイドは、リーグ6位の11.4リバウンド、リーグ8位の1.7ブロックと、昨シーズンもゴール下で変わらぬ強さを発揮しました。ポジション取りでパワー負けせず、リバウンドやブロックの読みも良くて堅実なプレーぶりが光り、リーグ屈指のセンターとして自己主張するだけの結果を残しています。

しかも25.3分という短いプレータイムで稼いだのですが、逆に言えばこれだけの数字を残しておきながらチームの中で絶対的な存在になれませんでした。

スピードへの対応に優れたバム・アデバヨの台頭

プレータイムが短くなった背景にはルーキーのバム・アデバヨの台頭がありました。アデバヨは19.8分のプレータイムで5.5リバウンド、0.6ブロックと数字としてはホワイトサイドに大きく劣り、優れたリムプロテクターとは認識されがたい成績でした。

しかし、アデバヨが出ている時間はチームとしてディフェンスレーティング、ディフェンスリバウンド確保率が最も高くなっており、個人の成績がホワイトサイドより低くても、チームへの影響力は非常に大きかったのです。その特長は当たり負けしないパワーとアウトサイドでも守れるスピードを併せ持ったところで、ガード相手のマッチアップになっても守り切ることができるのです。

スイッチを促しスピードのミスマッチを作るオフェンスが主流となり、またヒートはチーム全体では高さがないため、全員がハイプレッシャーをかけることを求めており、対戦相手次第ではリムプロテクト能力の高いホワイトサイドよりも、スピードのあるアデバヨが重用されました。

この違いはプレーオフでエンビートのいるシクサーズを相手にしたことで明確に出てしまいました。初めの2試合でエンビートを欠いていたシクサーズは、スモールラインナップの高い機動力で勝負してきたため、ホワイトサイドがゴール下にポジショニングする前に速攻でシュートを打たれてしまったり、速攻を止めても3ポイントシュートを狙ってくる選手にアウトサイドまで引き出され裏を取られるなど、スピードのミスマッチを利用されたのです。一方でエンビートが復帰するとゴール下で勝負を繰り広げ、高さやパワーに対して強い部分を見せました。

ヒートはディフェンスを武器とするチームだからこそ、対戦相手のオフェンス次第でホワイトサイドとアデバヨを使い分けたのです。

ホワイトサイドを主軸にしたシステム構築が必要

ホワイトサイドもこの状況は理解しており、ただ不満を漏らしたのではなく、自分と同じようなビックマンを起用しながらスピードにも対抗できるチームがあるのだから、ヒートもより自分自身を生かすようなディフェンスシステムを取り入れてほしいという、「不満」よりも「要望」に近いものでした。オフにも話し合いをしており、チームとの関係性が悪いわけではありません。

ホワイトサイドの発言にも一理あり、同じようなタイプながら最優秀ディフェンスプレイヤーに選ばれたルディ・ゴベアーのいるジャズのように、リムプロテクターを中心にするディフェンスシステムを採用するチームはあります。しかし、ヒートは強力なウイングディフェンダーであるジョシュ・リチャードソンを中心に『個人を守る強さ』をベースにディフェンスを構築しており、相手をホワイトサイドのところへ誘い込むような形は採用していません。

またジャズもゴベアーがスピード負けするケースは多々あり、それをオフェンス面で取り返すことで補っています。オフェンスで高さを生かして得点することで、攻守トータルでゴベアーの優位性を使いました。ヒートはホワイトサイドだけでなく主力にケガが多いシーズンとなってしまい連携を深められず、オフェンス面でホワイトサイドの高さを活かせなかったことも響いてしまいました。アデバヨもまたオフェンス面で存在感を示せていないので、個人としてもチームとしても、オフェンスの改善は必須です。

ホワイトサイドの問題は単に個人の問題ではなく、チームとしての戦い方にもかかわってきます。チーム全員がディフェンス意識の高いヒートは、スピードもあるアデバヨを加えたことでスモールラインナップへの対応も向上しました。ベンチメンバー全員を起用して戦うヒートだからこそ、ホワイトサイドに合わせたシステムにしていない一面もあり、「ホワイトサイドをどうしても起用したい」という大きなメリットがなければ、システム変更へ方針転換しない可能性もあります。
岐路に立っているヒートのディフェンスとホワイトサイド。そのカギを握るのはオフェンスでもホワイトサイドが存在感を発揮できるかどうかです。