レギュラーシーズン終盤、大混戦となった西地区の2位争いを制したのは大阪エヴェッサだった。シーホース三河、名古屋ダイヤモンドドルフィンズを相手にゲーム差がほとんどない状況で競り合い、新型コロナウイルスによる試合中止など難しい状況に直面しながら、チーム一丸の戦いで乗り越えた。ポイントガードの伊藤達哉は今シーズン中盤からベンチスタートに回ったが、それを機にコントロールするスタイルへとシフト。ディージェイ・ニュービルを始めとする個性を引き出し、チームとしてまとめる重要な役割を担った。チームにとっては初めて挑むチャンピオンシップ、伊藤は「優勝しか狙っていません」と気合い十分だ。
「コントロールするプレーヤーもチームには絶対に必要です」
──大阪エヴェッサ加入1年目は左手の骨折があり、新型コロナウイルスの影響でシーズン自体も途中で終わってしまいました。仕切り直しの2年目に向けて、どのような準備をしてきましたか。
チームとしてはメンバーも入れ替わってゼロからのスタートになりました。コロナの影響で外国籍のディージェイ(ニュービル)の合流が遅れて、それはどこのチームも同じような状況だったと思いますが、それでもやるバスケは変わらないので、良いところを継承しつつ準備は始めました。開幕から負けが先行するスタートになったんですけど、ディージェイの合流があって試合を重ねる中でケミストリーも少しずつできていきました。
波の大きなシーズンになりましたが、それでもチャンピオンシップに進出できたのは、誰が抜けても戦える準備をしていたからです。日本人エースの橋本拓哉選手、合田怜選手が抜けたことは本当に大きかったんですけど、その穴をルーキーたちが埋めてくれたのが一番ですね。
──伊藤選手はシーズン序盤は先発で、そこからベンチスタートに回りました。シックスマンとしての役割をどう受け止めていましたか。
僕自身、微熱が続いたことで6試合ぐらいチームを離れた時期があって、そこで中村(浩陸)選手が昨シーズン以上にたくましくなってくれました。彼の良さは思い切ったプレーで、それこそ僕が京都にいる時にヘッドコーチから「思い切ってやれ」と言われてやっていたプレーでした。そうなると僕はもうちょっと落ち着いたプレーをしようと。コントロールするプレーヤーもチームには絶対に必要ですから、今シーズンはそこにフォーカスしようと思いました。
先発のこだわりが全くないわけじゃないですが、チームが勝つためには自分のエゴは捨てなきゃいけないし、自分にできることは何かと考えた結果なので、嫌だとは思いませんでした。それに僕は大学の時には控えで出ることが多くて、途中から出て試合の流れを変える役割は経験していて、自分自身が試合を読むことのできる選手だと思っています。
──伊藤選手は思い切りの良い、攻め気のあるガードというイメージです。プレースタイルはスムーズに変えられましたか。
経験があるとはいっても、プロでできるかと言えばなかなか難しいところだと思います。でも、いざその仕事をやると決めたらスムーズに行きましたね。それはプレーどうこうよりもハートの部分だと思います。「やってやるぞ」という姿勢を周りに見せて、良い影響を与えていく。それを見てルーキーたちがもっと頑張らなきゃと思ってくれれば一番です。試合に勝ちたいのはいつものことですけど、このコロナの状況であっても本当にたくさんの人たちが僕たちを応援してくれているので、勝つことで恩返ししたいという気持ちが今シーズンはすごくありました。
「今シーズンはそれぞれのプレーがチームとして噛み合っている」
──プレーメークに重点を置く上で、どんなことを心掛けていましたか。
まずは全員を走らせることですね。ディージェイはどちらかと言えば個の技術で点を取ってチームを勢い付かせるプレーヤーなので、僕は真逆のことをやろうと意識しました。自分で点を取りに行くことも忘れないんですけど、全員を走らせること、気持ち良くプレーできていない選手を乗せること。例えば角野(亮伍)選手がボールを欲しそうにしていたら、彼に打たせるフォーメーションを使ったり。また(ギャレット)スタツのところでミスマッチができればそこを使ったり。
『走るバスケ』は同じでも、昨シーズンはずっと走っていたと思うんですけど、今シーズンはディージェイが持てば少しスローなテンポになって、僕が持てばプッシュする。この緩急が相手にとっては守りづらくなっていたと思います。そういう意味で今シーズンはそれぞれのプレーがチームとして噛み合っているんじゃないかと思います。
──ニュービル選手は今のBリーグでも突出したシュート能力を持った選手です。彼の能力を生かしながらも彼だけに頼らない、チームとしてのバランスを取るのは伊藤選手の仕事だと思います。何か意識していたことはありますか。
どっちがボールを運んでどっちが走るのか、そういった部分で最初の方はちょっと苦労したんですよ。でもコーチも僕が出ている時は僕がプッシュしてディージェイが走るように指示してくれていますし、僕自身もっとボールを持っていたい気持ちはありますが、彼を上手く生かすのが大事ですからストレスなくプレーできるよう気を配っています。彼はディフェンスでもすごくプレッシャーを掛けることのできる選手なので、2人で出ている時はそこがかなり強みになっていると思っています。
──エヴェッサはコロナの影響を最も受けたチームの一つです。チャンピオンシップ進出を争うシーズン終盤に1カ月も試合ができませんでした。あそこで失速してもおかしくなかったのに、再開後は6勝2敗と勝ち続けられた理由はどこにありますか?
本当に2週間は何もできなくて厳しい状況でした。それぞれ家でもトレーニングしていましたが、練習を再開した時にはキツかったです。全員が準備をちゃんとやっていたから勝てたと思うんですけど、再開した後の試合内容は全然良くなくて、それでも何とか勝ったというのが事実です。あそこで負けていたらどんどん落ちていってもおかしくなかったので、内容はともかく勝てた、ダメな中でも勝つことができたのが良かったですね。
「せっかくこのプロの世界でやっているからには優勝したい」
──エヴェッサにとっては初のチャンピオンシップ進出です。伊藤選手は2017-18シーズンに続いて2度目となりますが、あの時を振り返って今回に生かせる経験はありますか?
チャンピオンシップに出て感じたのは、出だしの勢いが本当に大事だということですね。今回は川崎と対戦するんですけど、出だしで川崎の勢いに飲み込まれたら、そのまま2試合行かれてしまうと思います。そうならないように準備はしていますが、まずは川崎のプレッシャーに負けないように自分たちが勝ち取るという気持ちで行くこと。2連勝で決めるという強い気持ちが重要だと思っています。
──その川崎戦で流れをつかむポイントはどこになると思いますか。
川崎のハードなディフェンスにどう対応するか。レギュラーシーズンを見ていても、川崎のプレッシャーに惑わされて自分たちのプレーができずに負けてしまったチームは多いと思います。そこで一番重要なのはポイントガードで、僕だったりディージェイだったり中村選手だったり、そこで負けないことがカギになります。
──どちらも強力な帰化選手を擁して、いわゆる『オン3』で戦うチームです。そこでエヴェッサが上回る自信はありますか。
同じビッグラインナップでも、ウチと川崎は全く違っていますよね。僕たちはスピードで相手を上回ることができる、川崎は堅実にハイローを攻めたり相手のギャップを攻めるイメージなので、どちらが上というよりはどちらの特徴を出せるかだと思います。そこは見ている人にも楽しんでもらえる部分ですよね。
川崎は天皇杯で優勝した実力のあるクラブで、それは僕たちももちろん分かっているので、出だしから相手を上回る気持ちでやっていくつもりです。今シーズン、川崎とは第2節で対戦しただけですが、僕はその時のプレッシャーがどのようなものだったか分かっているし、気持ちは強く行きますけど考えすぎずにプレーしたいと思っています。
──チャンピオンシップ進出という目標は果たしました。次の目標はどこに置いていますか。
ここまで来たらてっぺんを取るしかないですよね。正直、京都の時もチャンピオンシップに出ることが目標で、アルバルク相手に良い試合はできたんですけど、もっと高い目標を持たないとそれ以上先には行けないと思いました。もともとエヴェッサもチャンピオンシップ進出が目標でしたが、もう僕の心の中では優勝しか狙っていません。せっかくこのプロの世界でやっているからには優勝したい。それは誰もが思っていることなので、全員でてっぺんに向かってチャレンジしていきたいです。
ホーム開催はできたんですけど、ファンの皆さんの前でプレーできないのは残念です。でもシーズンを通してたくさん応援してもらったので、チャンピオンシップでは恩返しする気持ちで戦って、ファイナルまで勝ち進みたいです。僕個人としてはオフェンスでもディフェンスでもとにかく走り回って、相手に「こいつ、嫌だな」と思われるプレーを全力でやりますので、応援よろしくお願いします。