2018年7月1日、川崎ブレイブサンダースは新たな運営会社となる「株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース」に引き継がれた。1950年から続く東芝バスケットボール部の伝統を受け継ぎ、それと同時に横浜DeNAベイスターズで培ったスポーツビジネスのノウハウを横展開で取り入れることで、川崎はこの数年で大きく変わっていくだろう。どんな狙いを持ってバスケットボールに参入し、何を実現していくのか。新会社の代表取締役社長、元沢伸夫に話を聞いた。
川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫新社長に聞く(前編)「共感される部分は残す」
「何もしなくても売れるとは思っていません」
──新体制でスタートするにあたり、目玉となる有名選手を獲得してくるとか、新しいイメージを打ち出すために選手総入れ替えのようなことをする例があります。そんな大改革は考えませんでしたか?
おっしゃる通り、最初の選択肢としてはありました。最初から「今の体制を残そう」と決めてスタートしたわけではありません。それでも「このまま行くべきだ」というのは即決できました。それは私の感覚ではなく、いろんな話を聞く中での判断です。私自身も北卓也ヘッドコーチ、チームスタッフ、選手と一人ひとりと話して、すごく良いチーム、非常に完成度の高いチームだと感じています。
──社長からチームに何かリクエストしたことはありますか?
先日、チーム練習の冒頭に挨拶して、「一つだけ頼む」と話したことがあります。ファンの気持ちが一番萎える瞬間は何かと選手に質問して「負けることですかね」という回答があったんですけど、勝ち負けじゃないと。手を抜いたり、負けている時に本気で勝とうとしない気持ちがプレーに表れてしまう一瞬で、ファンはスーッと冷めてしまう。そういったプレーを絶対にしないでくれ、というお願いはしました。もともとそういう考えが強いチームだと思いますが、そこはさらに強化してほしいと言いました。あとのことは北ヘッドコーチにお任せしています。
──チケットに関しては早くも新しい施策が発表されています。売り切る自信はあるのでしょうか。
コートサイドなどの人気席は比較的早く埋まっていくと思います。ただ、僕らももっと演出だったり、試合そのもののバリューを高める努力をします。何もしなくても売れるとは思っていないですね。
「子供に強く支持されないメジャースポーツはない」
──チームとしてはタイトル獲得という目標があり、フロントとしては新しいビジネスを軌道に乗せたいところですが、もっと大きな理想像として描いている絵はどんなものですか?
スパッとイメージするのは難しいですけど、とにかくバスケをメジャースポーツに押し上げたいです。川崎ブレイブサンダースがそのメインプレーヤーになれるように頑張ります。5年後ぐらいのタイミングでバスケが野球やサッカーと並ぶメジャースポーツになれている、というところを目指して、それは絶対に達成したいです。
私もプロ野球の世界にいたので、野球のすごさはよく分かっています。超える必要はないですが、並ぶだけのポテンシャルは十分にあると思っています。現実的なところで言うと、キャパシティと試合数の問題で売上で野球を超えるのは難しいです。それでも子供たちが日常的に感じる野球、サッカー、バスケのステータスの差は埋められると思いますよ。
何を指標にするかは難しいですがシンプルな話として、川崎の子供たちに「将来何になりたいか」を質問した時に、「プロバスケットプレーヤーになりたい」と答えてもらうとか、単純に遊びに行くのに「川崎の試合を見に行きたい」と言ってもらうとか。そこで野球やサッカーと同等に挙がるレベルになりたいです。
──子供たちにいかに浸透するかが、元沢社長の中ではかなり大きいようですね。
子供に強く支持されないメジャースポーツはないと私は思います。夢の対象でありたいですよね。もちろん、そこだけではビジネスにならないので、ちゃんと数字を作るのも大事ですが、体感的には子供の間で人気にならないと未来はありません。川崎でミニバスをやっている子供はかなり多いですが、その子たちは今はまだ「プロバスケ選手になりたい」とは言わないと思うので、そこを変えていきたいです。
──DeNAベイスターズは神奈川県の子供に球団ロゴの入ったキャップを配っていますよね。
神奈川県の小学校、幼稚園と保育園の子供たち全員に配りました。あれもベイスターズがビジネスとして収益を上げたからできることです。まさにあれを決める経営会議の場に私もいましたが、当初の予算を大きく超える収入があったので、それを神奈川の子供たちに還元しよう、という話で実現しました。それぞれの市、神奈川県と、行政の方々にすごくお世話になり、相当な人が動いたプロジェクトなので、『オール神奈川』の良い事例だと思います。
川崎では東芝さん時代から行政の方々とはすごく密にやっていますが、DeNA体制になってもう一歩踏み込んで、いや十歩くらい踏み込んで、いろいろな相談をしています。ベイスターズでの知見で川崎でもやりたいことはものすごくたくさんあるので、川崎市さんとは毎週ミーティングするぐらい密に連携しています。これだけ協力していただける行政も珍しいですね。
「新しいアリーナは絶対になくてはならない」
──DeNAの川崎ブレイブサンダースとして、どんなクラブでありたいですか?
『失敗してもいいから、新しいことを率先してやれるクラブ』でありたいです。何か新しい打ち出し方を、新しい施策を積極的にやっていきたいです。「こういうことをやります」と言いたいことがたくさんあるんですけど、相手がある話なので今は明言できないことがたくさんあります。それは開幕までに形にするよう進めていて、どんどん発表していくので期待してください。
──大きな課題としてアリーナがあります。先月行われた事業戦略発表会では新しいアリーナを作りたい、という話がありました。とどろきアリーナではキャパシティに限界があり、それだと売上にも天井があるということですよね。
おっしゃる通りです。競技人口は多いので来場者人口をどんどん増やしていきたいのに、ハコが一杯になってしまう。このジレンマはなかなか厳しいものがあります。そうなる前に解消できるハコを作りたいという思いは強いです。
まだ何も決まっていなくて、まずは場所探しから。これが一番重要で、大変です。建物を作る話はDeNA単体だけでなくいろいろな座組みがあるので、そこはあまり気にしていません。場所をどうするかが最大かつ緊急性の高い課題です。私はベイスターズで、関内の駅を出て目の前にスタジアムがあるのに慣れています。ファンの方に話を聞いても、突き詰めると不満はアクセスなんですよね。他にもいろいろあるけど、一番厳しいのが帰りのアクセスだと。当然、駅から近ければ近いほど良いのですが、それだけの土地があるかどうか。
今はまだ座組みを作る段階ではなくて、行政、鉄道会社や不動産会社の方々にいろいろなアドバイスをいただきながら「ここだったらいいね」みたいなことを考えているところです。ただ、新しいアリーナは絶対になくてはならない。先ほど5年ぐらいで、という話をしましたが、そこから逆算すると時間がないんですね。この1年間で場所を見付けなければいけないと思っています。
──将来的な目標はたくさん聞きましたが、新体制1シーズン目で達成したい目標は何ですか?
まだBリーグで優勝していないので、チームにはそこを取ってもらいたいです。でもこれは「当然狙いに行く」という認識なので、目標ではありません。事業としてはDeNA初年度に土日開催の全試合満員、この一言ですね。2年目には平日開催の試合も満員にしたいです。
──それでは最後に、ファンにメッセージというか、開幕に向けた公約をお願いします。
是非ご期待ください、と言いたいです。新生川崎ブレイブサンダースとして、チームの優勝とエンタテインメントとして来場いただいた方の満足、その両方を約束します。いっぱい期待してもらっていろんな方をお誘いあわせの上、ご来場いただければと思います。