NBAファイナルの視聴者数は昨年に比べ約半分に
新型コロナウイルスの感染を避けるためにオーランドのディズニーリゾート内に設けられた隔離エリア『バブル』でNBAは再開し、レギュラーシーズンの試合数は減らされたものの、プレーオフは通常通り行われた。遠征が必要ないため試合間隔は短く、カンファレンスファイナルまではほぼ毎日、何らかの試合が行われていたことになる。
レギュラーシーズンではデビン・ブッカーを擁するサンズの8勝0敗、デイミアン・リラードのトレイルブレイザーズの脅威的な粘りがあり、プレーオフに入ってもルカ・ドンチッチの支配力、クリス・ポールの卓越したバスケIQ、ドノバン・ミッチェルとジャマール・マレーの点の取り合い、ケガに苦しむヤニス・アデトクンボの苦い表情とタイラー・ヒーローのドヤ顔、そしてレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスの戴冠と、印象に残るシーンの連続だった。
だからこそ、今回のファイナルの視聴者数が激減していた、というニュースには驚かされる。しかも、昨年から半減という衝撃的な内容だ。『Bloomberg』によれば、レイカーズとヒートが争ったファイナル6試合の平均視聴者数は750万人で、昨年のファイナルに比べ51%減少したとのこと。
主な要因は新型コロナウイルスの感染拡大によりスケジュールが大幅に後ろ倒しになったことだ。NBAのプレーオフは通常は6月に始まる。だが今回は9月から10月の開催となり、NFLや大学フットボール、MLBのプレーオフなど他のプロスポーツイベントと重なってしまった。特にNFLが開幕したことで、スポーツファンの関心がそちらに移ってしまったものと考えられる。
そもそも、アメリカ全体でのテレビ視聴者数が減少しているのも一因だ。NBAファイナルの5試合が行われた期間の全テレビ視聴者数は7620万人で、昨年よりも9%少なかった。
さらにはアメリカ大統領選も影響した。CNN、FOX News、MSNBCなどのニュース専門チャンネルの視聴者数はNBAファイナルの期間中に大幅増となったというデータがある。しかし、ただでさえ人々の関心は大統領選に向いているのに、今回はドナルド・トランプの新型コロナウイルス感染に納税問題と『キャッチーな話題』が続いた。
また『Black Lives Matter』運動は、その意義はともかく視聴者数という意味ではマイナスに作用したようだ。『バブル』でのシーズン再開に際して、NBA選手会は人種差別への抗議、社会正義の実現に向けた活動にフォーカスし、リーグもこれを受け入れた。選手たちはジャージーの背中に『Black Lives Matter』関連のメッセージを入れるなど政治色を強く押し出したが、スポーツを純粋に楽しみたい層から敬遠されることになった。
もっとも、『Black Lives Matter』運動自体が大きな反発を招いたわけではなさそうだ。NBAファイナル視聴者の人種構成は例年と比べて変化はない。人種差別に対する抗議活動が少なかったNHLでも、スタンリーカップ決勝の視聴者数は61%と大幅に減少しており、政治色が強いことが問題なのではなく、そもそもどのスポーツにとっても強い逆風が吹いているようだ。
秋になってアメリカの新型コロナウイルス感染者数は再び上昇に転じており、今はスポーツバーに通うファンも激減しているようだ。ひとまずはシーズンを無事に終えたNBAだが、来年1月の2020-21シーズン開幕までに状況が落ち着いている可能性は低いと言わざるを得ない。『バブル』は感染者を出さない機能を十分に果たしたが、どんなに工夫をこらしたところで練習試合の雰囲気を抜け出せない。それぞれのフランチャイズにアリーナがあり、そこに観客が詰め掛けてこそ『本物のバスケットボール』であることは否定できない。安心な試合運営と興行、そして一度離れてしまったファンを取り戻すための戦いが、またすぐに始まることになる。