文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE
1958年5月31日、京都府生まれ。2015年にサッカーのJリーグから新リーグ創設を目指すバスケ界へと舞台を移して組織再編を手掛け、川淵三郎初代チェアマンの後にチェアマンに就任。現在は「BREAK THE BORDER」をキーワードに、新たなプロリーグの盛り上げに尽力している。日本バスケットボール協会の副会長も兼任し、立ち遅れたバスケットボールの環境整備、強化に邁進する。高校生までバスケ部。

「少なくともファイナルは地上波での生中継を実現させたい」

──Bリーグ2年目のシーズンが終了しましたが、手応えはいかがでしたか?

B1全試合のおよそ40%が満員試合になりました。琉球のようにほぼ100%満員というチームもあり、満員のアリーナでバスケットボールを見ていただく雰囲気はかなり作れました。鮮度が落ちやすい2年目に入場者数が11.8%伸びたというのは高く評価できると思います。

──気になるのはテレビ中継が増えないことです。ファイナルも地上波では録画中継しかありませんでした。メディアでの露出、特にテレビについてはどう受け止めていますか?

若者に向けたSNSがうまく行っている一方で、上の世代が中心となるテレビでは苦戦しています。試合を中継してもらうこと、報道番組で取り上げてもらうことの2つがあって、後者については健闘しました。問題は試合中継ですね。ネットの時代になった今も、テレビの影響力は抜群です。BSでは中継していただいていますが、地上波には出ていない。これはコンテンツとしての力不足と受け止めなければいけません。

少なくとも王者の決まるファイナルは地上波での生中継を実現させたい。しかし、今日言って明日変わるものではありません。我々としてはBリーグのファイナルの盛り上がりを今後も続けて、チャンスを待たなくてはいけない。爆発的なフックになる可能性が一番高いのはやはり日本代表です。日頃からメディアの皆さんとコミュニケーションを取りつつ、日本代表をきっかけに注目度が上がった時に「挑戦してみよう」と思ってもらえるコンテンツである必要があります。

横浜アリーナのファイナルの雰囲気はテレビ中継の先の視聴者にも伝わると思っています。ただ、地上波での中継を当たり前のものにするには、今の集客を増やすだけじゃなく、良いアリーナができるとか代表が活躍するとか、そういった要因との合わせ技が必要だと思っています。

リーグの仕組みは「2020年以降に向けて議論を進める」

──過去より未来ということで、気が早いですが3年目のシーズンについて聞かせてください。来シーズンはスケジュールをぎゅっと詰めて平日開催を増やすという話ですね。

これは副産物的なところがあって、FIBAの国際大会に参加するクラブがあることを予定しており、スケジュール確保の観点。あとは代表の強化を考えると、リーグ戦は5月中旬に終わらせたい。リーグと代表は両輪で、リーグの都合だけを優先させられません。その中で現行の60試合をやるには、平日開催を増やさなければいけない。

B2は代表戦と同時でリーグをやったり、開幕を前倒すことも可能です。でもB1は平日に試合を組んで、そこで新しいお客様を取りにいこうという考えです。平日の試合観戦も、ある程度は理解されてきたと思います。今後を考えても月に2回ぐらい水曜日に開催するぞ、というコンテンツへと一歩を踏み出したい。それを世の中にアピールしていきたいです。

──最終的にはNBAのように曜日にこだわらないスケジュールにしたいですか?

やりたいです。それはアリーナを使う自由度が高くないとできないですよね。ただ、試合数については増やしたいというクラブもあるし、今でも多すぎると考えるクラブもあります。それは時間をかけてじっくり議論するつもりです。

──試合数や3地区制、チャンピオンシップの仕組みなど、ルールの大枠については「議論してより良い形を求めていく」という話でした。これはどんなスケジュール感で進めますか?

新しいリーグができて1年や2年では分からないことが多いので、仕組みをコロコロ変えるという想定はしていません。石の上にも3年と言いますが、それぐらいやって結果を見たい。まずは発足当初時点で中期と捉えていた2020年を一区切りとして、そこに向けて議論を進めていくつもりです。とはいえ、この夏から秋に2019-20シーズンの会場を押さえないといけない事情もあります。2020年以降、5年目のシーズンから何かを変えるのであれば、まさにここから1年の間に仕組みを決めていく必要があります。

──例えば、3地区制は今後も続けていきますか?

東中西の地区制についても議論がないわけではなく、一つの地区で総当たりでも良いのではないか、という意見もあります。ただ、それはJリーグが一度取り入れたチャンピオンシップと同じで、レギュラーシーズンの総当たりで優劣が決まってしまうわけで、そこでもう一度チャンピオンを決める意義があるのか。その意味では地区制は維持したいと思っています。

じゃあチーム数、B1で18チームという枠組みは本当に良いのか。ここ数年で変化しているアリーナ事情、クラブの売上規模によって再編成すべきだ、という大きな変革の意見もあります。ただ、これを2020年にやるのはさすがに乱暴で、やるにしても2023年のワールドカップ以降になると思います。ちょうど新設のアリーナが出来上がるのがこの時期が多く、集客を最大化する要素が増えてきます。B1とB2の差は戦力格差ではなくアリーナ格差になる、そんな時期が来るのではないかと個人的には考えています。

サラリーキャップやドラフトの可能性も将来的にはありますが、日本人選手の年俸がJリーグの半分しかないBリーグがその議論を今やってどうするんだ、というのが私の強い思いです。戦力均衡よりも、まずは伸びるクラブを圧倒的に伸ばして、そこがJリーグのトップチームに並んだ後に議論すればいいと思っています。

オン・ザ・コートルールの変更は日本人選手強化のため

──来シーズンからの大きな変化として、オン・ザ・コートルールの変更があります。これはどういう意図で決まったか教えてください。

もともとはホームチームが「1-2-1-2」、アウェーチームは「2-1-2-1」の固定でスタートしよう、という意見もありました。それを言っていたのは川淵(三郎)さん一人でしたが(笑)、それぐらい普通じゃない、エキサイティングなことをやろう、というメッセージでした。

今回の変更については、日本バスケットボール協会の中にある『トップリーグ向上部会』で1年ほど議論して決定したものです。我々リーグの事務局、東野智弥技術委員長だけでなく、チームのヘッドコーチ、クラブの社長も数名入っています。ポイントはいくつかありますが、フリオ・ラマスやルカ・パヴィチェヴィッチからはオン「1」か「2」かでクォーターごとにゲームのあり方、戦術が大きく変わるのは絶対におかしいとの指摘がありました。

外国籍の強力な選手が2人いて、日本のガードはそれをかわして得点を奪いに行く。日頃からそれに慣れないと成長がない。お互いにオン「1」で日本人ビッグマン同士がマッチアップしているのでは、これもまた成長になりません。

常にオン「2」で外国籍選手を2人起用できるとしても、2人とも40分間プレーさせるわけにはいかない。そこで日本人ビッグマンがどれだけ存在感を出し、プレータイムを勝ち取っていけるか。もちろん、そこの工夫にヘッドコーチの手腕、戦略も問われます。日本人と外国籍ビッグマンのマッチアップは必然と増え、そこで戦う選手が本当の意味で鍛えられていく。そんな議論を続けてきた結果としてルール変更を決断しました。

──今回のルール変更で割を食うのは実力不足の日本人ビッグマンであって、実力のある日本人ビッグマンはプレータイムが減らず、より厳しい競争に身を置かれる、ということですね。

そうです。例えば永吉選手や張本選手のプレータイムは減らないんじゃないかと思います。彼らのような日本人ビッグマンに成長してほしいし、そうじゃない選手はB1の下位チームやB2に行って、そこの競争で実力を磨き、また日本代表やB1の上位クラブを目指してほしいです。

帰化選手についても議論は相当ありました。1人しか保有できないFIBAルールには準じますが、帰化選手は日本国籍を持っていて、原則として彼らは日本人なんですから。

──ちなみに1年目の『歴史的開幕戦』、代々木第一でのアルバルク東京vs琉球ゴールデンキングスのように、開幕節の1試合だけを前倒して実施する試みはもうやりませんか?

まさにやりたいと考えているところです。10月第1週にリーグ戦を始めますが、1試合だけ木曜と金曜で始められればと。クラブの主管試合に、リーグも演出で加わるような形を考えています。だからそこにフォーカスして、メディアの方々にも取り上げていただければと。

──ファイナルを3戦方式、5戦方式にすることは考えていませんか?

3戦先勝方式で最大5試合とすることも検討はしていますが、ファイナルはもうしばらくは一発勝負でやるつもりです。今年は地上波、テレビ東京さんでのディレイ中継になりましたが、地上波の生中継が叶えば圧倒的なので、もう1回か2回チャレンジした上で結論を出したいです。

我々はいろんなことを議論していますが、そこは別に隠すつもりはなく、オープンに議論していきたいと思っています。こういう取材で現状をお話することで、またメディアやファンの皆さんの意見も聞いてみたい。そうやって新しいバスケットの形を作っていくつもりです。