二手、三手先を読むIQプレーヤー
4年連続でNBAファイナルに進出したウォリアーズにおいて、最も神秘的な存在感を放っている選手こそクレイ・トンプソンだ。ステフィン・カリーとの『スプラッシュ・ブラザーズ』として、短時間に爆発的にシュートを決め続ける能力を発揮することもあれば、カリー、ケビン・デュラント、ドレイモンド・グリーンとの『スーパーチーム』のバイプレーヤーとしてチームを機能させる一面も併せ持っているからだ。
オフェンスだけではなく、リーグトップクラスのディフェンスもトンプソンの武器だ。相手エースを封じる力は年間最優秀守備選手賞に選出されても不思議ではないほどで、攻守両面において、トンプソンは過去3年で2度の優勝に大きく貢献している。
トンプソンのプレーを構成している要素には、正確なシュートと堅いディフェンス以外にも、高いバスケットボールIQが挙げられる。その能力を鍛えたものこそチェスだった。
『Wall Street Journal』によれば、トンプソンはチーム内のトップチェスプレーヤーで、頻繁にチームメートとチェスで対戦し、ほぼ勝利を収めているという。
トンプソンがチェスに出会ったのは、中学1年の頃だった。ポートランドの学校に通っていたトンプソンは、暇つぶしにチェスのクラスを受けてみたという。それからというもの、みるみる盤面の虜になった。
トンプソンは言う。「クラスを受けるようになってから、すごく面白いと思うようになったんだ。友達と1時間くらいチェスを指すクラスで、今まで最高のクラスだったと思う」
すっかりチェスに魅せられたトンプソンは、遠征先にもマグネット式のチェス盤を持ち込み、チームメートたちと対戦。スマートフォンのアプリでもチェスを指すこともあるそうだが、集中できないため盤を使って指す方が好きだという。
トンプソンにとってのチェスは、もう趣味の域を超えている。選手、コーチにもチェス愛好家が多いウォリアーズは、ロケッツとの西カンファレンス・ファイナルを戦う中、チェス最高位『グランドマスター』を史上3番目の若さである13歳と4ヶ月で勝ち取ったノルウェー出身の世界王者、マグヌス・カールセンを試合に招待し教えを請うたというのだ。「ウォリアーズ最強のチェスプレーヤー」とカールセンの前で自己紹介したトンプソンは、アンドレ・イグダーラに勝つための方法を聞き、コツをいくつか伝授されたという。
今も毎日のようにチームメートか友人とチェスを指しているというトンプソン。その二手、三手先を読む能力は、盤面での対局によって鍛えられ、間違いなくバスケットボールに良い影響を与えている。
4年連続の対戦となるキャブズは、ウォリアーズの手の内を熟知しているライバルだ。その相手の戦術をトンプソンが読み切って効果的なプレーを決められるかどうか。今年のファイナルでは、トップシューターによる『頭脳戦』も見どころの一つになるはずだ。