並里成

琉球ゴールデンキングスは2年連続の西地区優勝で2019-20シーズンを終えた。それでも成績は18チーム中5位と『東高西低』が激しいB1において圧倒的な存在とは見られていない。本来であればチャンピオンシップで東地区の強豪を打ち破ることでその状況を覆したかったが、新型コロナウイルスの影響でシーズンは途中で終わり、その機会は訪れなかった。琉球のポイントガード、並里成はその悔しさを胸に秘めつつ、新シーズン開幕に向けてすでに始動している。地元のキングスをさらなる高みに引き上げるため、そして自分の目標を果たすため。『努力の人』は自分磨きに励む。

「いつでも行けるつもりで準備しています」

──最後の公式戦から3カ月が経過しました。新型コロナウイルスの影響があるオフをどんな感じで過ごしていますか?

自粛中は家の中でトレーニングしたり、庭でボール突いたりとかそういう感じでした。今やっと体育館が使えるようになって、バスケができるようになりました。ずっと身体は動かしていますよ。去年の夏は股関節をちょっと痛めて、あまり動くことができなかったので、今年はやっておこうと思って。自粛の間も家でかなりやっていたんですが、自粛が解除されてからは外でもいろんなトレーニングに挑戦しています。陸上だったりボクシングだったり、ウエイトトレーニングもいろいろやっています。

──ボクシングをやっているとは意外です。

やっぱりやるからにはプロに教えてもらいたいなということで、元プロ選手に教えてもらっています。ボクシングはパンチを打つ時に身体がブレるとカウンターを食らいやすかったりするので、体幹を強くするトレーニングがあります。前後に動いてパンチしたり、カウンターを狙ったりするフットワークも、すごく理に適っていると感じるし、バスケに似ている部分もあります。ボクシングではガードしなきゃいけないので腕を上げなきゃいけないじゃないですか。バスケもディフェンスにシュートと腕をずっと上げるので、肩のトレーニングにもなって、すごく面白いです。

トレーニングになるのはもちろんですが、違うスポーツをすることですごくリフレッシュになります。身体を鍛えてリフレッシュできるというのが僕の中でも新鮮で、それは今の時期にしかできないことなのかなと思います。

──琉球の2019-20シーズンを振り返りたいのですが、27勝14敗で西地区で優勝しました。チームの強みはどこにありますか?

組織の中で自分たちのバスケットをやり通すという点でキングスは徹底できています。個の力が合体して、大きな力になっている。それで昨シーズンも今シーズンも西地区1位をキープできたんだと思います。キングスは毎年メンバーが大きく入れ替わって、毎回がゼロからスタートする感じですけど、今シーズンはヘッドコーチの交代もありケガ人もいて苦しい状況でしたが、それでも一人ひとりが責任を持って、西地区の優勝やチャンピオンシップに向けて一丸になろうとする、そういう姿勢が今まで以上にあったと思います。シーズンを戦う中では東地区の強豪にあまり勝てなかったし、自分の中でも正直に言えば相手が一歩上だと感じていましたが、シーズン終盤にかけて僕らもケミストリーが出てきていたし、戦い方次第だとも思っていたので、チャンピオンシップまでやれなかったのは残念でした。

来シーズンはメンバーに大きな入れ替わりがなくて、ゼロからケミストリーを作っていくわけじゃないので、新加入選手をチームに上手く馴染ませながらやっていくことになります。これまで以上に楽しみですね。当然そこには結果もついてくるだろうと思うし、個人的にもいつでも行けるつもりで準備しています。開幕に向けてちゃんと自分自身を作り上げられる自信があります。

並里成

「天才だとは思っていないですよ(笑)」

──昔から『ファンタジスタ』と呼ばれて天才肌のイメージがありますが、身体が大きいわけではないし、派手でトリッキーなプレーが目立つけどファンダメンタルもしっかりしていて、実際は『努力の人』なんじゃないかと感じます。

自分を天才だとは思っていないですよ(笑)。やるべきことはちゃんとやらなきゃいけない。でもその上で、人よりイメージする力は豊かだと思っています。相手がこう来た時に自分はどう対処するのか、どんな動きができるのか、そこに自分の味をどう出していくかを考えながらバスケットをするようにしています。

バスケをやっている時に限らず、普段の生活にもそんなイメージを取り入れて、いろんなことを研究している感覚ですね。自分でイメージしたプレーを実際にするには基本的なことは絶対必要だから、そこは最低限やっておかなければいけない。それができた上で「こういうことができるよね」というイメージが作れます。それはオフェンスだけじゃなくディフェンスも同じで、自分の中でイメージを膨らませては整理していく、それを繰り返しやっています。

プレー自体は派手かもしれないし、「並里にしかできない」と言われますが、その場その場でひらめいたプレーをしているわけじゃなくて、自分の中でフォーカスしているのは「基本的なことをしっかりやること」なんです。そこからイメージを広げていく考え方は、これからチームにも伝えていきたいと思っています。

──Bリーグになって4シーズンが経過しました。プロキャリアを続ける中で、以前より成長した部分はどこですか?

メンタルの部分ですね。完璧じゃないと自分でも分かっているので、毎年毎年メンタルを強くしなきゃいけないと思っています。バスケットに対する考え方は、ヘッドコーチやチームメートなど周囲にいる人たちだったり、YoutubeやSNSでも学びながら成長できると思っているので、何でも取り入れたいです。それに加えて身体の面でも、今まではオフコートでは適当だったりしたので、そろそろ本当の意味で本領発揮しなければいけないと感じています。

それは自分の持つ力を出すことでもあるし、キングスの力が試されることでもあって、特にここ何年かはそういう時期だと感じています。だからモチベーションに不足はないし、もっともっと自分を磨いていく必要もあるし、向上心がすごくあります。

僕は周囲の人たちに本当によくサポートしてもらっていると感じているし、バスケが個人競技じゃないのも理解しているので、好き勝手はもうできないです。ただ、バスケットで勝つには優しいだけじゃダメで、ずる賢さとか闘争心も必要です。僕自身、日本人の中では闘争心がかなりあると思っているので、チームにそういうプラスになる存在でありたいです。

──昔は外国籍選手が相手であっても、つたない英語でもトラッシュトークを仕掛けていましたが、今も変わりませんか?

今でもしてますね。だいぶやってます(笑)。でも、トラッシュトークって僕の中では悪いことじゃなくて、競争する上で相手をリスペクトしているからこそトラッシュトークができると思っています。それは今でも相変わらずやってます。ただ、僕とトラッシュトークの応酬をしたくない選手もいっぱいいるのが分かっているので、そういう場合は触れないようにしています(笑)。並里が調子コイてると思われるかもしれませんが、そこはリスペクトを持った相手との駆け引きだし、自分への鼓舞でもあるんです。

並里成

「キングスを強くすることが僕の第一のステップ」

──並里選手は昔から海外志向が強く、アメリカへの挑戦もしていました。この夏に31歳となり、子供もいて、地元の沖縄でプレーしていて、プロバスケットボール選手としての目標はどこに置いていますか?

僕はNBAでプレーしたくてバスケットをしているので、今も僕の中ではNBAがゴールということに変わりはないです。ただ、今まで挑戦してきて段階があるとも思っています。NBAは目標ですけど、今の僕の使命は日本で誰にも文句を言われないぐらいのNo.1チームを作って、Bリーグで優勝することです。そこはまだ道半ばなので、まずはキングスを強くすることが僕の第一のステップです。次に来るのが日本代表で世界を相手に戦って、チームを引っ張って勝利に貢献すること。それができたら次がNBAです。

向こうに行けば何とかなるだろうという考えだったんですけど、いろんな経験をした上でプロセスが大事だと思うようになって。でも、子供がいるから何かをあきらめるというのは全然ありません。逆に子供がいるから自分の背中を見せたくて、まずは自分の国でやるべきことをやる姿を見せたいと思います。

僕はシングルファーザーで、滋賀にいる時には子供を沖縄に預けてプレーしていました。子供に会えなくてすごく寂しい思いを経験しているので、今こうして一緒にいて、成長を一日一日見守ることができて、試合があれば息子に見せられることがどれだけ幸せなのかが分かります。そこはより大きな舞台でパパのプレーする姿を見せたいという気持ちがあります。それと同時に、息子に対して僕じゃできないことがたくさんあるんですよ。そこは親だったり身内に頼っていて、助けてもらっているとも感じているので、その感謝の気持ちを持ってプレーしていきたいです。

──Bリーグになって日本代表の合宿に一度呼ばれましたが、正式に招集されたことはありません。

もちろん自分に何が足りないのかは分かっています。アウトサイドシュート、あとはコンスタントに自分の力を出す部分が足りないと代表のスタッフから指摘されています。良いプレーはあるけど、それができない試合だったり、やらない試合がある。そこは僕自身も理解していますし、毎試合上手く出せるようにしなきゃいけないと思っています。

それと同時に、僕ならこういうことができる、リーダーシップも発揮できる、という思いはあります。もちろん日本代表に入りたい欲はありますが、そこは紙一重のところがあって、僕のプレーをコーチが気に入るかそうじゃないかもあるし、チームにフィットするかしないかで大きく変わってくるので、そこは何とも言えないですね。

──いずれにしても、まずは琉球を強いチームにすることですね。最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

長いシーズンには良い時も悪い時もありますが、いつもファンの皆さんがチームに寄り添ってくれて、一緒に戦ってくれることには本当に感謝しています。チャンピオンシップでの僕らのバスケットを見ることができなかったので、シーズンが終了してしまったのは残念でした。来シーズンも長く厳しい戦いになって、アップダウンがあると思うんですけど、チームのみんなで強いキングスを皆さんに見せていきたいです。個人としても、もっとチームから頼られる、皆さんから頼ってもらえるかけがえのない存在になりたいと思っていますので、新シーズンにそうなれるように今は自分を磨いて、日々を生きていきます。