文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

どんな場合でもシュートチェックへと走る

栃木ブレックスは名古屋ダイヤモンドドルフィンズに連勝し、東地区4位に浮上した。「ディフェンスのエナジー、アグレッシブさをずっと出し続けてできたというところが勝因」と指揮官の安齋竜三がコメントしたように、名古屋Dを66点に封じた激しいディフェンスが光った第2戦の勝利だった。

第2戦の最終クォーター残り3分14秒、その栃木のディフェンスマインドの徹底ぶりを表す象徴的なシーンがあった。ターンオーバーからアーリーオフェンスを許し、ローテーションがうまくいかず、中東泰斗にコーナーから3ポイントシュートを打たれたシーンだ。この時田臥勇太は逆サイドのコーナーへのチェックにいっていたが、ボールを回され中東がフリーになるのを予測し全速力でシュートチェックにいった。

中東がボールを手にした時点でシュートブロックが間に合わないのは明らか。それでも田臥はあきらめずシュートチェックに走った。このようなシュートチェックが間に合わないシーンについて「何回もあります」と田臥は言う。「それでも行かないのはディフェンスとは言わないので、当然だと思っています。打たせて良いシュートなんて一つもないです。たとえ簡単に打たれたとしても、少しでも簡単に打たせたくないという思いでやっているので」

そう語る田臥は、このプレーがどのシーンであったかを記憶していなかった。そのことが特別ではない、当たり前のプレーであったことを表していた。

バスケットをある程度しっかりプレーしたことがある人であれば、完全にフリーを作られるシーンを経験したことがあるだろう。間に合わないのであれば、シュートチェックに行かない選択肢もある。走ればそれだけ消耗するからだ。それでも田臥は「そういうことをやれるチームが強いし、上に行くと思っています。去年優勝して感じていますし、他の強いチームとやるとそういうところの違いというのがオフェンス側からするとあります」と最後までプレッシャーをかけ続けることの重要性を訴え、「もし疲れたら交代させてくださいって言います」と笑った。

「一人ひとりの責任も生まれる」選手起用法

昨日の勝因をもう一つ挙げるとしたら、第3クォーター序盤の攻防だ。名古屋Dに連続ゴールを許したが、ライアン・ロシターの連続ゴールで耐え、速攻を繰り出し10-0と走った。そのランの中で田臥は遠藤祐亮の速攻と喜多川修平のアーリーオフェンスからの3ポイントシュートをアシストし、流れを引き寄せた。

だがその約40秒後、田臥は渡邉裕規と交代した。チームに流れをもたらした田臥を外すのは意外だった。これについて「あそこは自分から言いました」と自ら交代を志願したことを明かした。「疲れたというのもあったし、誰が出てきてもやってくれるという信頼は持っているので」

だが流れが来ている状態で他のメンバーに交代するのはリスクが伴う。それでも「そうやってやることで一人ひとりの責任も生まれるし、チームとしてもレベルアップできるチャンスだと思っています。疲れたら代わって、次に出てくるやつがカバーして、みんなでカバーし合うということをヘッドコーチは大事にしています」と選手起用の狙いを説明した。

さらに田臥は流れを引き寄せたのは自分ではなく、チーム全員であることを強調する。「僕があのリズムを作り出したわけじゃなくて、みんなでディフェンスを頑張って、リバウンドを取って、僕はそこでプッシュする役割だっただけです。だからあそこで交代してもナベがしっかりやってくれると思っていますし、生原がその後に出てきても激しくディフェンスやってくれると信頼を持っています」

この信頼関係が栃木のタイムシェアを可能にし、シーズン中に選手を成長させる一助となっているのだった。

「感謝の気持ちを持ってやらないといけない」

昨日で東日本大震災から7年目を迎え、ブレックスアリーナでは試合開始前に黙とうがささげられた。田臥は震災当時を振り返り、感慨深げにこう話す。

「この場で練習してましたので、こうして試合ができることにあらためて感謝の気持ちを持ってやらないといけないと思いました。まだまだ大変な思いをされている方もたくさんいるので、そういった方が元気になってもらえるように、自分たちはバスケットボールで一生懸命戦い続けることが大事だと思ってます」

プロバスケットボール選手としてプレーし続けることは、田臥にしかできない復興活動となる。