取材=古後登志夫 構成=鈴木健一郎 写真=古後登志夫、B.LEAGUE

この春に福岡大学附属大濠を卒業する井上宗一郎は、4月から筑波大に進学することが決まっている。それでも、ウインターカップを終えて高校バスケを『卒業』した後の数カ月を充実したものにすべく、ライジングゼファー福岡に特別指定制度で入団した。大学バスケに進む前にプロの世界に触れることは、18歳の井上にとってまたとない経験となる。

200cmのサイズを誇る井上は、ライジング福岡への入団が決まって早々の1月20日にデビューを果たし、ここまで9試合でプレー。この週末に行われる仙台89ERS戦をもってチームを離れることになる。U-22日本代表のスプリングキャンプと並行する過密スケジュールとなったが、井上は自身が望んだ『濃密な日々』を過ごしている。

「がむしゃらにやるのも大事だけど質も追求する」

──濃密な日々を過ごしていると思いますが、プロの世界はどうですか?

フィジカルに加えて高さも出てくるので、「まだまだだな」と思わされる部分しかないです。日本人選手よりも外国籍選手次第でチーム力が変わってくる印象です。個人としては、やはり高さで勝てなくなってきます。皆さん良くしてくれるし、練習環境もすごく良いし、レベルが高いのでやっていて勉強になることばかりです。

──プロチームを経験して、現在はU-22日本代表のキャンプにも参加しています。カテゴリーが上がったことで初めて知ったことはありますか?

練習前の準備や練習後のケアが違いますね。高校生だとチーム全員が同じことをやっていましたが、一人ひとりが自分の足りない部分をトレーニングしてから練習に入っています。代表だとトレーナーと相談しながらメニューを作って体幹などをやっていて、その意識が全然違います。

あとは代表のキャンプで聞いたシューティングの話です。僕はすごく数を打って、そのことに自信を持っていたのですが、「シューティングは量より質だ」という話を聞いて。一つひとつを打つ中で、ズレをどう修正するのか確認していく。フォームが身体に馴染んできたら試合のタイミングで打つ。シューティングだと試合よりもゆっくり打つイメージでしたが、それは違うと聞いて今のままじゃダメだと思いました。シューティングに限らず、がむしゃらにやるのも大事だけど質もしっかり追求すれば違うんだなと。

「あの地獄があったから今の自分がある」

──現在の経験が自分のレベルアップにつながっているという実感はありますか?

去年の春、高校3年になったばかりの時に東京遠征をして、筑波大とか専修大を回って試合をしたんですが、その時と比べるとU-22のキャンプで自分がレベルアップしていることが実感できました。1年前に比べればフィジカルはもちろん強くなったし、スクリーンのかけ方はライジングで教えてもらったことが役に立ちました。

パワーとシュート力はまだまだ足りないと痛感したのですが、ライジングでもU-22代表でも素晴らしいコーチたちに指導してもらっています。フィジカルの強化も、自分の得意とするポストアップやそこからのステップも、しっかりワークアウトで学んでいます。この練習を続けていけば絶対にフィジカルも強くなるし、やっていけると思います。

──今こうした経験ができているのも、高校3年間の積み重ねがあったからだと思います。福岡大学附属大濠の片峯聡太監督からは何を学びましたか?

難しいですね。多分、僕が一番怒られてきたので。まずは走れなかったんです。1年生の頃はセンターとのポジション争いをする上で、自分の武器がありませんでした。それでひたすら走っていたんです。あの時は「なんでこんなに走らなきゃいけないんだ」と思いましたが、あの地獄があったから今の自分があるわけだし、やり続けられたのは片峯先生を信じていたからです。それは間違ってなかったです。

やり残したのは日本一ですね。インターハイでは優勝しましたが、僕の中では『仮の日本一』なんです。ウインターカップで負けたら真の王者とは言えないので。片峯先生は「インターハイは全国大会の新人戦」と言っていました。僕たちはそこで一度優勝しただけなので。

「自分が目立つよりもチームを支える支柱に」

──U-22代表では来年のユニバーシアードが目標となります。生き残りへの自信は?

センターとしては高さもフィジカルも足りないです。あとは自分を選んでもらうための武器が必要だと思います。ミドルシュートや3ポイントシュート。そこは他のセンターにはない武器なので、磨いていきたいです。そこで目標にしているのがアキーム・オラジュワンです。ほとんどオフェンスしか見ていないですが、ああいうプレーができればフィジカルに関係なく外からでも得点できます。それができれば大きな強みになると思っています。

大学の次はもうプロなので、その準備として4番ポジションの動きも必要になると思います。日本代表の試合を見て思ったのはディフェンス力です。体格も高さも負けるので、ダブルチームという考え方が一番最初に出てきます。相手を一人で止めるというディフェンス力がないのは確かですよね。

僕の場合はインサイドプレーヤーというよりインサイドエリアを守る、という考え方です。例えば厄介な選手とのマッチアップでその選手の得点を減らしたり、外から得点することで引っ張り出したり、自分が目立つよりもチームを支える支柱になりたいんです。そういう意味ではメンタルでもチームを支えられると思います。頑張って身体を張って勇気を与えるとか、コートで声を張るとか。前の選手は後ろが見えないから、後ろの選手が黙っていたら不安じゃないですか。そういうリーダーシップは必要だと思っています。

──A代表はもう視野に入っていますか?

僕はそんなにすごい選手ではないし、身体能力もあるわけじゃないので、焦らず一つずつ段階を踏んでいって、まずは大学1年からU-22代表に定着したいです。そこから来年、再来年に向けてレベルアップしていけたらと思います。

僕の高校バスケは負けて終わりました。そこで残った課題に加えて、ライジングで将来のことを考えられたし、U-22代表では次にやらないといけない課題がまた見えました。大学に行ってまた年上の選手とやるのは大変ですが、これまでのように「絶対にやられない」という負けん気でやっていくつもりです。