田中大貴

4年目のBリーグはチャンピオンが決まらないまま幕を閉じたが、リーグ最高勝率を残したのは過去2シーズンの王者であるアルバルク東京だった。馬場雄大がアメリカ挑戦でチームを離れ、故障者が相次ぐ苦しい状況ながら、それでも崩れることなく白星を重ね、中断前には32勝9敗の高勝率をマークした。そんなチームを変わらず支えたのは田中大貴だ。ディフェンスでは1対1の鉄壁のマークを見せ、視野の広さを生かしたピック&ロールからのクリエイターとしてオフェンスを引っ張った。スタッツとしてはフィールドゴール成功率47%、3ポイントシュート成功率39.4%、フリースロー成功率88.7%を記録。トップシューターの目安の一つ『50-40-90』に迫る抜群の働きを見せた、リーグ随一の2ウェイ選手に話を聞いた。

「自分たちがやってきたことは評価できる」

──不要不急の外出を控えなければいけないこの時期、何を意識して過ごしていますか?

なるべく同じ流れで過ごしたいと思っています。いつも決まった時間に起き、トレーニングも時間を決めてやるようにしています。今は体育館も使えない状況で、バスケットボールのスキルを磨くのは難しいので、自分の身体を見つめ直しています。フィジカルやバランスをより意識して、見ている動画もそういったトレーニング系が多いです。

──BリーグやNBAなど、バスケットボールの試合はあまり見ないですか? マイケル・ジョーダンの『The Last Dance』は?

バスケットの映像を全く見ないわけではありませんが、シーズン中より回数は減っています。『The Last Dance』はまだ序盤のエピソードしか公開されていませんが、あのレベルまで行くとプレーを参考にするより、一ファンとして見ている感じです。試合以外のロッカールームの話、どうやって準備しているかの発言を見られるのはすごく面白い。そういったところにも注目して見ています

──中途半端な形で終わってしまいましたが、今シーズンをどう振り返りますか?

リーグ3連覇が掛かったシーズンで、開幕前にはアジアチャンピオンカップを優勝し、自分のコンディションも問題なくすごく良い形でシーズンに入ることができました。途中、何人かケガを負って問題はありましたけど、残ったメンバーで戦えていました。ここから大事になってくるぞ、というところでシーズンが終わってしまったのは残念です。しかし、自分たちがやってきたこと、準備してきたことは評価できると思います。

田中大貴

「今シーズンは全試合に出ることも目標だった」

──故障者が続いて少ない人数でローテーションを回していた時期は、どういう思いを抱えながら戦っていましたか?

ウチのチームは、メンバー一人ひとりにそれぞれ役割があります。誰か一人がいなくなると、バランスが崩れて難しい状況になる。残った選手にどんどん負荷が掛かっていく感じでした。ただ、そこで途中からチームに加入して支えてくれた選手もいますし、彼らに対してはとても感謝しています。

自分としてはワールドカップが終わった後でしたが、タフな状況になって疲れてパフォーマンスを落としていったら、それまでの選手になってしまうと言い聞かせてきました。そこは安藤(誓哉)も同じだったと思いますが、僕たちは絶対に崩れてはいけない。どんなにキツくても、何としても打開してやろうと思っていました。

──個人的なパフォーマンスをどう評価していますか?

年始に2試合、ケガで出られなかった試合がありました。ここ何年も同じケガで抜けていて、今シーズンは全試合に出ることも目標だったので残念でした。ただ、3月は東地区内での試合が多く、そこでどんなパフォーマンスを発揮できるのかがシーズンの評価だと考えていました。それがないのでどう判断するか難しいですが、終了した時点で東地区の1位にいたことは評価できます。

──無観客試合など新型コロナウィルスに関する出来事以外で、何か印象に残っていることはありますか?

シーズン序盤の試合も大事ですが、やはりチャンピオンシップに向けてどう調子を上げ、最後にどんなパフォーマンスができるか。そこを意識して戦ってきたところはあります。それがなくなってしまったので、特に印象深い場面はないかもしれないです。

──タフな時期を乗り越えて、最終的には勝率1位となった要因はどこにあると見ていますか?

ある程度コアのメンバーは今シーズンが3年目で、ずっと積み重ねてきたものがあります。それが大崩れしなかった理由に挙げられます。そして本当にヘッドコーチを始めとしたスタッフ陣のしっかりした準備のおかげだと思います。

田中大貴

「バスケがなくても影響力を与えられる人間に」

──過去2年間、シーズン終了後は仲の良い小島選手との対談形式で優勝記念インタビューをしてきました。今年の小島選手について、どう見ていますか? 故障する前ですが、ヘッドコーチのルカ・パヴィチェヴィッチは例えばアジアチャンピオンズカップでMVPの働きと言い成長ぶりを称えていました。

アジアチャンピオンズカップではおっしゃる通りの活躍をしていました。身近にいる安藤が代表に呼ばれたことを、ちょっとは意識しているとは思います。簡単な話、安藤より良いパフォーマンスをすれば代表を狙える選手であると周囲も分かります。それがモチベーションになっていて、今シーズンは大きくステップアップする年にすると彼が意気込んでいたことは自分も近くで見ていて感じていました。だから、なおさら今回のケガは残念でしたね。

──シーズン終了後、チームと共同で募金活動をスタートさせました。この取り組みを行うにあたっての思いを聞かせてください。

シーズンがこういう形で終わり、バスケットボールができない状況が続いています。バスケがなくなった時、一人の人間として自分にどんな価値があるのか、何ができるのか。そう考えると無力さを感じる部分はあります。普段より時間があるので、いろいろなことを考えます。それこそ他の競技のアスリートとも連絡を取りますし、彼らがどのような活動をしているのかも気になります。

そんな中で、自分も何か少しでも社会の力になれないかとチームに相談して、今回の活動を始めました。やはり、バスケがなくても影響力を与えられる人間になりたい。ただ、黙って何もしない状況は良くない。自分だけではなく、他のチームの選手もいろいろなことを発信しています。Bリーグの中でも、もっといろいろとアクションを起こしていかなければいけないと思います。

──それでは最後に、ファンの方にメッセージお願いします。

まずはこの状況が早く終息するように、今はアスリートとかファンの皆さんとか関係なく、みんなやれることは同じで、気を付けて過ごしてもらいたいです。これを乗り越えてファンの皆さんの前でバスケットボールができる時のために、プロのアスリートである以上、どういう状況になろうが良い状態を作っておかなければいけない。今は先が見えない難しい状況ですが、それでも乗り越えられる日は来ると思うので、そのための準備を続けていきます。