文=丸山素行 写真=鈴木栄一

勝負を決める『20-0のラン』の狼煙を上げる

天皇杯決勝では千葉ジェッツがシーホース三河を89-75で下し、2年連続優勝を成し遂げた。

前半はどちらも譲らず拮抗した展開となった。それでもギャビン・エドワーズが前半で14得点を挙げ、千葉の5点リードで迎えた第3クォーターに試合が大きく動いた。ダニエル・オルトンと比江島慎に3ポイントシュートを決められるも、いずれも小野龍猛が3ポイントシュートを決め返し、敵将の鈴木貴美一ヘッドコーチをして「小野くんにポンポンと返されたのは想定外だった」と言わせる。さらに石井講祐の2本のフリースローを挟み、小野は早くもこのクォーターで3本目となる3ポイントシュートを沈め、点差を2桁に乗せた。

「これで行けるとは感じなかったですけど、自分が乗ったというのは確信しましたし、これでチームに良い影響が与えられたとは思いました」と小野はその時の心境を振り返る。自分の好調を「チームに良い影響が与えられる」と自然に転じられるのが『龍猛らしさ』だ。

そんなキャプテンのパフォーマンスに呼応するかのように、千葉のトランジションバスケットが猛威を振るう。激しいディフェンスからターンオーバーを誘発。焦りから早打ちするシュートのリバウンドを拾っては速攻に転じた。

「変な言い方ですけど、ここで(三河の)炎が切れるんじゃないかと思ってプレーしていました。そこを逃さず、この炎を消そうとたたみかけました」。その小野の言葉どおり、三河はちょっとしたパニック状態に陥っていた。アイザック・バッツのシュートが決まるまでスコアが凍り付いた6分間で、千葉は20もの得点を積み上げた。

小野は第3クォーターで13得点を挙げ、結果的にこの20-0のランが勝敗を分けた。三河を相手にそれだけ走れたということは、何か特別な策があったに違いない。だが小野は「特別なことはしてないです」と否定する。「しっかりスクリーンをかけて味方を生かすセットプレーをして、僕が空いただけです。自分たちがやりたいプレー通りでした」

見応え抜群だった金丸晃輔とのガチンコ勝負

第3クォーターで貯金を得ても、相手は百戦錬磨の三河だけにセーフティーリードはあってないようなもの。実際、第4クォーターにはバッツのインサイドなどで流れが行きかけた場面もあり、13-21と点差を詰められた。

それでも連続得点を許さず、安定感のあるディフェンスでリードを保ち続けた。特にリーグ屈指のスコアラーである金丸晃輔を1試合を通じて13得点に封じたのは一つのポイントだった。その点でも小野が一役買っている。「彼の嫌な部分を自分が突いて、彼を波に乗らせないっていうのが僕の仕事だと思っていました」と、いつも以上に得意のポストプレーを仕掛けた。

「身体をぶつけて体力を削る狙いでしたし、ディフェンスの時も身体を当てたりとか、彼の嫌なことを一つでも多くしようと。彼もすごい良い選手なので負けないように頑張りました」。フェイスガードでの徹底マークに加え、ディフェンス面でも負担を掛け続けたことがボディーブローのように効き、金丸にその恐るべきパフォーマンスを発揮させなかった。

「チームとして戦わなければ、ウチは並のチーム」

千葉は天皇杯ファイナルラウンドが行われる前にアルバルク東京に2連敗を喫した。得意のトランジションを封じられロースコアゲームに持ち込まれての敗戦。高いレッスン料を払ったが、良い教訓が得られた。「しっかりチームとして戦わなければ、ウチは並のチームだと感じた2試合でした」と小野は言う。

その敗戦がチームバスケットの意義をあらためて見直す機会を提供してくれた。またファイナルラウンド直前に富樫勇樹がいなくなるという状況がチームの結束力を高めた。「もちろん彼がいればもっと速い展開だったり、彼の得意なピック&ロールができるんですけど、不安はありませんでした。勇樹もしっかりサポートしてくれましたし、そういったところもチームとしてこのカップ戦を戦うことができたと思います」と小野。

富樫が42得点を挙げてもA東京に敗れた試合もあった。誰か一人に頼るバスケットは千葉のスタイルではないということだ。チームとして戦った結果で手にした連覇であることを小野は強調する。この天皇杯で『並のチーム』から脱却したことは間違いない。