田中大貴

「徹底できなかったところをどう修正するか」の勝負

アルバルク東京と京都ハンナリーズの対戦、10月19日の第1戦のスコアは93-100。A東京にとっては負けたことと同じぐらい、イージーな得点機会を多数与えたことが課題となった。20日の第2戦を前に指揮官ルカ・パヴィチェヴィッチは、ディフェンスが悪かった映像を選手たちに見せることで課題を認識させ、ディフェンスの遂行力を上げるよう求めた。

結果としては100あった失点が53へと半減。ディフェンスで勝利した試合を、田中大貴はこう振り返る。「昨日(第1戦)は点数の取り合いで、それはウチの求めている試合展開ではないですし、その反省をどう生かすかという試合でした。開幕から連勝している京都は良い勢いで臨んできているし、両外国籍選手はオフェンス能力が高くタフな相手です。でも、今日の点数を見れば分かるとおり、昨日の反省を生かして勝つことができました」

「1戦目は相手もタフなシュートを決めてきたと思うんですけど、それ以上にビデオを見ると簡単にスコアを許していました。ギャンブルに行ってレイアップを打たれたり、ヘルプに行きすぎて空けてはいけないKJ(松井啓十郎)に簡単に打たれたり。あくまで自分たちのルールをどれだけ徹底できるかです。それでも決められたら相手に力があるということで仕方ない。徹底できなかったところをどう修正するかでした」

ディフェンスで隙を見せずに相手が根負けするのを待つ。昨日の試合はまさにその展開となった。ジュリアン・マブンガとデイヴィッド・サイモンは恐るべきオフェンス能力を持つが、激しいディフェンスに手を焼くうちにフラストレーションを溜め、納得できないジャッジへ意識が向き始める。集中が切れればミスは増えるしハードワークは続かない。こうして京都は失速した。

「京都は選手のプレータイムが偏ります。どっちが激しくやれるかを考えたら負けられないという意識がありました。最初の10分、次の10分は拮抗しても、40分間やり続けるのはウチだと。そこはよく我慢してプラン通りにやれました」と田中は自分たちのパフォーマンスを誇った。

田中大貴

「もっと賢く、うまく対応できる力を身に着けたい」

一方、81得点を挙げたオフェンスでも田中の果たした役割は大きかった。今シーズンの京都はサイモンと永吉佑也がビッグマンにつき、マブンガがその長いウイングスパンを生かして日本人選手のキーマンを守るスタイル。この2試合、マブンガは田中を守った。田中のピック&ロールからズレを作るA東京の攻めを封じる狙いだった。

田中の得点はわずか4。開幕から続いていた2桁得点が途切れたが、オフェンスで仕事をしていなかったわけではない。「マブンガ選手が自分についたからではなく、そういうディフェンスが来た時にチームとしてどう対応するか」を考えてプレーしたと田中は言う。

「自分が仕掛けるとスイッチされてボールが止まってしまうと思ったので、逆に自分がボールを運んで、他の空いた選手から攻撃がスタートすることで良いシチュエーションができると考えました。その中で(安藤)誓哉が良いアタックをしてくれた。個人としてマブンガ選手だからと特に意識はしませんが、試合の中でもっと賢く、うまく対応できる力を身に着けたいです」

京都にとってマブンガは守備でもストロングポイントとなる。田中はこのマッチアップに固執せず、攻撃の起点となった。田中は8アシストを記録しているが、それ以上にスタッツに残らない『演出』でチームオフェンスを機能させたことが大きい。

田中大貴

「今やるべきことを100%でやることが一番大事」

今夏のワールドカップでは田中も悔しい思いをした。来年のオリンピックに向けて、Bリーグでの戦いの中で大きくステップアップすることがすべての選手に求められているが、田中はあくまでA東京での戦いに集中すると語った。「今はこのチームと契約している選手ですし、このチームの勝利、目標のためにハードワークするのが仕事です。そこを突き詰めて毎日しっかりとした時間を過ごせるかが代表にも繋がるし、成長にも繋がる。頭のどこかではオリンピックを意識しなきゃいけないんですけど、今やるべきことを100%でやることが一番大事だと思います」

そこで揺らぐことがないのは、フリオ・ラマスの前に期間限定ながら日本代表のヘッドコーチを務めたルカ・パヴィチェヴィッチの存在があるからだ。「自分はルカを信用しています。ワールドカップが終わってオリンピックまでにどうしなきゃいけないかを2人で話したこともありますし、彼の下でしっかりと力を発揮していければいいと思います」

ケガ人が多数出ている苦しい状況について、「ケガ人が出るとどうしても苦しい展開になるし、口で言うのは簡単ですが実際にみんなでカバーするのは大変です」と田中は言うが、その姿勢は決して後ろ向きなものではない。

「一番辛いのはケガした本人たちです。彼らが帰ってくるまで残ったメンバーがステップアップして、一つひとつ成長できるように戦い続けるだけです。過去2回優勝しているチームのプライドが自分たちにはあります。個人的には苦しい状況の中でも良いパフォーマンスができるようになる機会だと思っています」

Bリーグで、そして日本代表で屈指のタレントとなった田中大貴だが、見据えるのはもっともっと上のレベル。始まったばかりのシーズン、彼は迷うことなく自分の道を突き進む。