加藤誉樹

今夏に中国で開催されたワールドカップにおいて、フリオ・ラマスが率いる日本代表とは別に日本を代表してコートに立った男がいる。日本初のJBA公認プロレフェリー、加藤誉樹だ。これまでも多くの国際大会を担当していたが、今回のワールドカップでは世界から選抜された56人に入り、7試合を担当。『もう一人の日本代表』となった加藤にワールドカップでの経験を聞いた。

『もう一人の日本代表』、加藤誉樹がプロレフェリーとして体験したワールドカップ

「何事もなかったかのようにプレーを続けられる」

──日本代表はワールドカップで5戦全敗に終わりました。フィジカルの差が大きな敗因であり、Bリーグではその差を埋めることが難しいという議論もあります。レフェリーの加藤さんから見ても、フィジカルの差は大きいと感じられましたか?

皆さんが漠然と感じていることは『FIBAの笛とBリーグの笛』というディスカッションだと思います。これはセンシティブな問題なので、あくまで個人的に感じたことをお話しします。

コンタクトが起こった際のファウルの判定に限定して話すと、強豪国はコンタクトを起こされた選手が何事もなかったかのようにプレーを続けられるケースが多いと感じました。私は日本の試合を現地で担当していないので、私が担当した試合はコンタクトが起こった後、何事もなかったかのようにバスケットに向かったり、パスをさばいたり、シュートを打つ、自分のプレーができるシチュエーションがすごく多かったなと思います。

──確かに、世界トップクラスの選手は笛が鳴ろうがプレーを中断しないシーンが多いですよね。また地力があるチームほどフロッピング(オーバーリアクション)が少なかったです。

フロッピングの話が出ましたが、我々審判の言葉で言うと『フェイク』と言います。フロッピングはディフェンスが相手に当たられたと見せるために倒れることを言い、フェイクの一つとなります。例えば、オフェンスで倒れなくても身体の違う場所にコンタクトが起こって顎が上がるのも、状況によってはフェイクの一つになります。

──その一連の動作がフェイクという用語なんですね。あくまで主観ですが、Bリーグも含め、日本はこうしたリアクションが多いように思えます。

Bリーグでプレーをしている選手全員がフェイクをしようという意図があるとは思いませんが、同じコンタクトがあった時によろけてしまうのか、そのままプレーできるのか、という違いはあるかもしれないです。

加藤誉樹

求められる審判と選手双方のスキルアップ

──前述の話と少しかぶる部分がありますが、「Bリーグでは審判の笛が軽い」といった声が少なからず聞こえてきます。その点についてはどう思われますか?

FIBAもBリーグもルールは同じです。その中でそう思われてしまうのであれば、我々審判がスキルを上げる必要もあるし、選手にも頑張ってもらわないといけません。

コンタクトを起こした選手がいて、起こされたことで影響が生じた選手がいたら基本的に我々は笛を吹かないといけません。正当にプレーしていて起きたコンタクトであれば、もちろんその人に責任はありませんし、私たちはファウルとして扱いません。ただ、コンタクトを起こされた選手がバランスを崩したとなると、ファウルとして笛を吹く条件がすべて揃っているので、私たちとしては吹かざるを得ないんです。それをノーコールにしていくと、今度はケガのリスクが増えてきたり、感情がだんだん高ぶってきて、皆さんの望まない争いが起きる可能性もあります。

選手に倒れないようにプレーしてくださいというのもおかしいですし、審判が頑張れることはないのか、ということになります。これはコーチや選手、クラブに責任があるとは思いませんし、審判としても絶対に取り組んでいかないといけない課題もあると思います。

──審判を欺くフェイクという行為は、時に技術として支持される場合もあると思います。加藤さんが言う審判側のスキルアップというのは、そうした行為を見破るということですよね。

それもありますね。そもそも触れ合いが起こっていないのに、ファウルを吹いているシーンがあったらそれについて考えないといけないですし、正当にプレーしているのにコールしているケースがあれば、見直さなければいけません。

繰り返しになりますが、日本代表が強くなるためには、絶対にみんなで取り組んでいかないといけません。その責任の一部はもちろん審判にもあるし、でも審判がすべてではないとも思うので。大前提として、両輪で取り組んでいくことが必要ではないかと思います。

加藤誉樹

「一つの選択肢として審判もお勧めしたい」

──では最後に、これから審判を志す人だったり、選手以外の道を模索している人へアドバイスをお願いします。

私が審判を始めて思ったのが、こんな世界があるんだということなんです。プレーヤーとしても真剣に打ち込んできましたし、一時はコーチをやらせてもらった時期もあったので、バスケットに関しては詳しいと思っていました。

しかし、審判に携わった時に、知らなかったバスケットの世界がこんなにもあったんだということを知りました。審判ってこんなにもたくさん約束事があって、こんなにもシステマチックに示し合わせたかのように仕事をしているんだと感動しました。もし選手や学生コーチなど、審判以外の立場としてのキャリアを終えてこれからバスケットにどう関わっていこうかと思っている方がいるとしたら、その一つの選択肢として審判という道もお勧めしたいと思います。

私たち審判ができることは、プレーが行われている現場に足を運んで一つひとつのプレーを冷静に真摯に判定していくことに尽きます。絶対にパートナーをなくして良い仕事はできないので、仲間を大事にして、マナーとリスペクトを持ちながら、充実感を持って取り組んでもらえればうれしいです。