文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

どの試合でも全力を尽くし、善戦はするものの勝ちを拾えない展開が続いた末、逆転でのB2降格。過酷なシーズンの最後に最悪の結果を突き付けられた秋田ノーザンハピネッツの田口成浩だが、すでに意識は切り替えられている。持ち前の明るさを取り戻した田口は、1年でのB1復帰を絶対的な目標に据え、それに向けてモチベーションを高めている。

これはもう這い上がるしかないなと思いました

──降格の心理的ダメージは大きかったと思いますが、新シーズンに向けて真っ先に秋田との契約を更新して残留を正式に決めたのは田口選手でした。田口選手については「移籍しないだろう」とファンの大多数が思っていたとはいえ、内心どこかに不安もあったはずです。

はい。クラブもそうでしたが、自分からも早く発表したいとお願いしました。本当に暗いニュースしかなかったんですよ。だから自分が残ることが決まれば少しでも喜んでもらえる、安心してもらえるかなと思って、早く発表させてもらいました。

──B2でプレーすることについて迷いはありませんでしたか?

結局、こんな形で「自分が1部でやりたい」という理由で秋田を離れたらカッコ悪いし、逃げじゃないですか。これは他の選手には全然関係ないことですけど、自分にとっての秋田はそういう存在だと思っています。地元にたくさん支えてもらったのに、一人だけ綱をもらって上がるのは逃げだと。これはもう這い上がるしかないなと思いました。

──ただ、やっぱり残留することで失うものもあります。この1年、日本代表候補にもなってオールスターでも目立って、「秋田の田口」から「全国区の田口」になりつつある部分もありました。秋田への気持ちはブレないにしても、それで失うものについて少しは考えましたか?

もちろん、全然考えなかったわけではないです。代表のこともそうですし、良い経験を積んで自分のレベルを上げなければいけない、という思いもあります。でも、それ以上に強いものがありました。「B2でバスケができる」と思えば、それもすごく良い経験になると思います。

これで1年で上がれなかったら本当に最悪ですし、そうなれば経験を積むとは言ってられなくなりますが、これでしっかり勝って1部に復帰するのであれば、単に来シーズンB1でやるより良い経験になるかもしれない。1部から降格したチームは仙台と自分たちだけです。一番最初に降格したので、一番最初に1部に復帰したい。そういう思いでやれば、良い経験になって力が付くはずです。

──良い感じで自分の中で消化できているみたいですね。

そうですね。今はポジティブなことをどれだけ取り入れられるか、という感じです。でもシーズンが終わって最初の2週間ぐらいはポジティブな言葉が受け入れられなかったですよ。3日間は完全に引きこもっていました。人の顔は見たくないし、声も聴きたくない。久しぶりに外に出た時はまぶしかったです(笑)。

──立ち直るきっかけはあったんですか?

秋田県知事への表敬訪問があったので、家から出なきゃいけなかったんです(笑)。あとは地元の高校の仲間とかが本当に心配してくれて、勝手に家に入ってきたり。久しぶりに自分から外に出た時も「行くぞ、出なきゃダメだろ」と連れ出されたんです。それで寒風山という山に行って、その近くにある海を見に行って、そこでボーッと海を眺めて。完全に学生ノリですけど、仲間って最高ですね。それをきっかけに明るくなってきました(笑)。

間違っても変なプライドは持たず、しっかり戦いたい

──再出発にあたり、秋田はペップ・クラロスが新たなヘッドコーチになることが決まっています。どんなコーチかご存知ですか?

面識はないのですが、芯のある人で、自分の考えを突き通すコーチだと聞きました。自分のスタイルを持っている厳格なコーチというイメージはあります。

──降格したこともあり、去就が決まっていない選手もいます。彼らと話していますか?

真面目な感じで話すこともありますが、それぞれ考えることもあるので、僕から「残れ」という言い方はしたくないです。でも、自分の思いは伝えました。「どこに行っても覚悟を持ってプレーしてほしい」とも言いました。あとは本人が決めること。みんな若いし、たくさんの夢があると思います。それに向かって頑張れと伝えています。

──新シーズンのB2東地区は東北6県のクラブが集まり、熱い展開になりそうです。とはいえ秋田はB2では実力が頭一つ抜けている印象です。B2ではぶっちぎるイメージですか?

そんなことはないです。bjとNBLの差があると言われる中で、自分たちは最初のシーズンを戦いましたが、栃木にも東京にも千葉にも勝っています。「前評判で決まることはないな」というのが、そこで得られた実感です。

2部に行っても同じで、今度は僕たちが1部でやってきたチームということで追われる立場になります。そこでもう一度チャレンジャーの気持ちになれるかどうか。フラットな状態で始まる、むしろ降格した自分たちはそれ以下だと。追いかける気持ちを持ってすべての試合に臨もうと思います。間違っても「ウチは1部でやってきた」みたいな変なプライドは持たず、しっかり戦いたいです。

シュートだけじゃないプレーを増やすことができた1年

──結果的に降格はしましたが、チャレンジャーの気持ちで戦い続けたこともあり、キツかった反面、すごく良い経験もできたシーズンだったと思います。田口選手個人として、Bリーグでの1年で「ここは成長した」と言える部分はどこですか?

うーん……ピック&ロールからの3ポイントシュートだったり、ポケットパスだったり、シュートだけじゃないプレーは若干増やすことができたと思います。精度はまだまだ低いですが、後半戦になって自分の武器になっていたので、そこは成長だと言えます。

それ以上に強くなったのはメンタルですかね。本当に、ほとんどすべての試合にチャレンジャーの気持ちで臨んだし、それで倒せたチームや選手もいました。そこはすごく自信になりましたし、こういう気持ちでやればうまく行くんだ、という手応えが得られました。

──特に旧NBL組で、マッチアップして驚いた相手、面白かった相手はいますか。

オフェンスに関しては金丸(晃輔)さんですね。ただただ「すげえな……」って(笑)。やっぱりシューターなので、外しても打ち続けるとか、そういう基本的な気持ちの持ち方は似ていると思うんです。ただ、その精度がすごい。とにかく点を取ります。マッチアップしている最中に「すげえな、この人……」って自然に思っちゃいましたね。本物のオフェンスマシーンです。

──その金丸選手とマッチアップすることで、盗むというか得られたものはありますか?

ないなあ、すごすぎて(笑)。でも、ファウルのもらい方だったりインサイドからの得点は参考になる部分で、そこは盗んで自分のプレーにしたいとは思いましたね。