
格安契約からの4年6400万ドルは『仕組まれた契約』?
バックスがギャリー・トレントJr.と結んだ4年6400万ドル(約96億円)の契約延長には、発表当初から疑惑の声が挙がっていた。そしてNBAはこの契約の調査に乗り出した。
トレントJr.は2018年のNBAドラフト2順目指名を受け、その日のうちにキングスからトレイルブレイザーズへとトレードされた。3年目の2021年にラプターズに移籍し、そこで3年5200万ドル(約78億円)の契約延長を結ぶ。その契約が満了となった2024年オフ、バックスと1年260万ドル(約3億9000万円)、翌2025年には再び2年760万ドル(約11億円)と格安の契約を結んだ。そして今オフ、トレントJr.はプレーヤーオプションだった契約2年目を破棄し、新たにバックスと4年6400万ドルという大型契約を結んでいる。
バックスと彼の3度の契約は、市場の合理性とかけ離れている。ラプターズでの彼は若手ながらもローテーションに食い込んでおり、ラプターズはそれまでの3年5200万ドルと同規模の契約で彼の残留を望んだが、トレントJr.はそれ以上の契約を望んで移籍したとされる。
2024年オフ、彼はベテラン最低保証額を受け入れてバックスに加わった。この時のバックスはラグジュアリータックスを大幅に超過しており、その条件しか提示できなかった。フリーエージェント市場に打って出たことが裏目に出て、格安の契約を受け入れざるを得ない状況はしばしば起こるため、これ自体は怪しい動きではない。問題はその後だ。
バックス加入1年目の2024-25シーズン、彼はスタメンではなくなったが74試合に出場して11.1得点を記録。ヤニス・アデトクンボの『引力』を利用して3ポイントシュート成功率41.6%を記録し、見事にチームにフィットした。プレーオフではペイサーズ相手に早期敗退となったが、ヤニスとともに得点を引っ張る最高のパフォーマンスを見せた。その彼がベテラン最低保証額に20%のノン・バード昇給を加えただけの契約で残留したのは不可解だ。デイミアン・リラードの契約を解除したバックスは、マイルズ・ターナーの獲得とケビン・ポーターJr.の慰留を優先し、トレントJr.にはその条件しか提示できなかった。
それから1年、2シーズン在籍したことでアーリー・バードの権利を得たトレントJr.は、前年俸の175%かリーグ平均年俸の105%のどちらか高い方まで、サラリーキャップを超えての再契約が可能となり、4年6400万ドルという『大盤振る舞い』の契約が生まれた。
しかし、今のバックスにその必要性はない。アデトクンボをヒートに放出して再建へと舵を切ったところで、サラリーキャップの負担は少なければ少ないほうが良い。しかも、昨シーズンのトレントJr.のパフォーマンスは低調だった。直近の6シーズンで初めて得点が1桁に落ち込み(8.1得点)、一番の強みだった3ポイントシュート成功率は36.0%と平凡な数字。それにもかかわらずトレントJr.に大型契約を与えたのは、1年前、あるいは2年前からの一連の契約構造が『意図的』だったと予想される。
『アデトクンボ体制』が続いていれば、サラリーキャップの制限を無視してトレントJr.を残留させられるメリットは大きかった。しかしアデトクンボは去り、疑惑が正しいとすれば、バックスはトレントJr.との約束を果たす必要があった。
NBAの調査により、この疑惑が『クロ』と認定された場合には、バックスには重いペナルティが科されるだろう。2000年にはティンバーウルブズがジョー・スミスとの契約で、同じようなバード権を利用した『密約』を交わしていたことが発覚し、高額の罰金に1巡目指名権5つの剥奪(後に2つは返還された)、オーナーとGMの資格停止処分が科されている。