ヘッドコーチは辞任、代表も「続投の意図はありません」
衛藤晃平ヘッドコーチの暴力行為により、Bリーグから制裁を受けた香川ファイブアローズが8月9日に会見を行い、制裁の対象となった衛藤ヘッドコーチ、村上直実代表、津田洋道エグゼクティブコーチが処分を受け入れ、謝罪した。
事の発端は2018年1月、衛藤ヘッドコーチの指導方法に問題がある旨の匿名の情報提供がBリーグにあったこと。Bリーグからの確認に対し、クラブは調査の上で「そういった事実はない」と回答している。その約1年後の今年3月、JBA内の『インテグリティ委員会』に情報提供があり、2度目ということでリーグが調査を開始。これで事実が明るみになり、制裁が決まった。
大きな問題は、最初の調査で隠蔽と見られても仕方のない報告がなされたこと。村上代表によれば、衛藤ヘッドコーチが暴力行為を否定したことに加え、選手に確認した際の回答が「厳しく指導は受けているが、それは自分たちが成長するためであり、特に変わったことではない」とのことで、「暴力行為はなかった」とリーグに報告していた。会見の席で村上代表は「フロントとチームのコミュニケーション不足、風通しが良くなかった」と悔いている。
衛藤ヘッドコーチは暴力行為について「良くないことだと真摯に受け止めております」と謝罪。実際に暴力行為、パワハラに至った背景をこう語る。
「シュートを落としたとかミスをしたことで手を出したわけではありません。大変期待をしていたり、特に私とコミュニケーションが取れている選手、そういう選手が当該選手となっていますが、各々の選手の課題、技術的な部分ではない部分での課題。例えば言動であったりとか、この業界でずっと活躍していってほしいという私の強い希望があり、『そのためにこれだけは改善しよう』という課題がありました。それに対して『これはやめようね』と言っていた行動を起こした際に手を出したのが事実です」
こうした事態になったことを衛藤ヘッドコーチは「情けない話ですが、パワハラだという意識がすごく薄かったというのが本音です」と悔いる。またこの制裁を受け、衛藤は辞任している。
村上代表も「代表である私に大きな責任がある。私自身、出処進退は考えているところで、続投の意図はありません」と、事態の幕引きとともに退任することを表明した。
「まだ声が届いていないところがあるのは残念」
香川にとってはフロントと現場それぞれのトップが辞任する事態となり、チームの混乱はもちろん、クラブ運営、経営面でも危機に瀕することになる。また、暴力行為、パワハラの根絶を強力に推進していたはずが、長期間に渡り表に出ないところで行われていたという事実が『氷山の一角』でないとは現状では言い切れない。
『暴力暴言根絶』を目指して今年3月に立ち上げられたインテグリティ委員会は早速機能したわけだが、プロクラブからこの問題が出たことはBリーグにとって頭の痛い問題だ。
「これだけみんな変わろうとしている中で、まだ声が届いていないところがあるのは残念」と、Bリーグの大河チェアマンは語る。
バスケ界の勢いを削ぐ事件に、大河チェアマンは憤りを隠せなかった。「勝った負けただけでなく、クラブという企業の成長を地道にやるしかない。そのためにクラブライセンス制度があります。ですが、だいたい財務の悪いところでこういうことが起きる。ガバナンスがないから起きるんです。そういう経営指導をやっていくことが、すなわち選手やスタッフも含めたコミュニケーションのレベルアップに繋がると思います。常日頃から我々の向き合い、クラブが選手やコーチと向き合っていくこと自体をレベルアップさせたい」
「衛藤コーチの暴力行為は選手の間で有名だった」
今回の会見で、村上代表も津田エグゼクティブコーチも問題となるような現場は見ていないと語ったが、本当かどうかは疑わしいと言わざるを得ない。日常的な指導の中でパワハラがあったにもかかわらず「見ていない」というのは、それはそれで責任が大きい。もともとバスケットの現場では暴力、パワハラが横行していた。それが許されない時代になっても変われない指導者は今もなお少なからず存在する。特に若年層を教える指導者にそれが顕著であることは公然の秘密とも言える。
日本バスケットボール協会はインテグリティ委員会を立ち上げて『暴力暴言根絶』への意気込みを示している。今回の件が『氷山の一角』だったにしても、こうして恥ずべき行為として制裁、糾弾されることは『見せしめ』として大きな効果をもたらすはず。バスケ界の誰もが襟を正し、今このタイミングで変わらなければいけない。