「ダイスとは昔からいつか代表で一緒にやりたいねと言っていた」
2月13日、日本バスケットボール協会は男子日本代表の桶谷大新ヘッドコーチの就任会見を行った。桶谷ヘッドコーチは、オファーが来た時の心境を「まずはびっくりしました。ただ、代表ヘッドコーチはずっと目標の1つでした」と振り返る。
そして今回の代表スタッフにおいて、大きな注目を集めている吉本泰輔アシスタントコーチについては、「ダイス(吉本)とは昔からの仲で、昔からいつか代表で一緒にやりたいねと言っていて、ついにこのタイミングが来たねという話しをしました」と旧知の仲であると語る、
吉本コーチは長らくNBA屈指の名将トム・シボドーのアシスタントコーチを務めてきた。シボドーはNBAにおいても堅守の構築に定評があり、桶谷ヘッドコーチも「NBAで『ディフェンスといえば……』と言われてきたコーチの下でずっとアシスタントをやってきた彼のエッセンスをディフェンスに取り入れる。そこに日本人が得意とする勤勉さ、規律を保ってディフェンスをしっかりと作り上げていきたいです」と信頼を寄せる。
そして、もう1人のアシスタントコーチを務めるライアン・リッチマン(シーホース三河ヘッドコーチ)は、主にオフェンス面を担うことになると桶谷ヘッドコーチは語る。「彼はBリーグで戦っている相手として、各選手の個性を生かしたプレーを作るのがうまく、セットプレーも多彩です。三河はオフェンスレーティングでリーグ上位で、そういう部分で代表に力を貸してほしいです。そして(元ウィザーズのアシスタントで)NBAの世界を知っている経験も代表に加えてほしいです」
オフェンス、ディフェンスの頼もしい参謀の知見を桶谷ヘッドコーチが集約していくのが新たな日本代表の戦い方となる。世界と比べてサイズが劣る日本は、指揮官が変わってもスピードと3ポイントシュートを生かしたスモールボールを推し進めていく基本路線に変わりはない。だが、その中でも桶谷ヘッドコーチは、次のポイントを大切にする。
「ディフェンスではシンプルにトランジション、ペイント内で簡単に得点されない。日本は世界の中でサイズが小さいですけど、それでもペイント内をしっかり抑えた後で3ポイントシュートを消しにいく。リバウンドを取り切るのは難しいと思うので、そこで相手のミスを誘うような仕掛けも必要となってくる。そこはダイスと話しながら作戦を入れていきたいです。オフェンスはいかにターンオーバーをしないでシュートに繋げていけるか。それができればディフェンスでも優位に立てると思います」

「自分の役割を全うし、日本人の若いコーチたちに繋いでいく」
直近の日本代表はフリオ・ラマス、トム・ホーバスと外国人コーチが率いていた。それが今回は伊藤拓摩強化委員長の下、新たな強化体制を推し進める中で日本人である桶谷ヘッドコーチが選ばれた。
久しぶりに日本人コーチが、男子代表を率いることの責任を桶谷ヘッドコーチはこう語る。「今、Bリーグには世界から素晴らしいコーチたちが来ていて、日本人コーチが少なくなっているのは事実です。ただ、その中でも戦っている日本人コーチもまだまだたくさんいます。今回、僕が代表ヘッドコーチを引き受ける中で、自分が1つのミッションとしているのは自分の役割を全うし、日本人の若いコーチたちにしっかりと繋いでいくことです。だからこそ、日本人コーチでも結果を出せることを見せていかないといけないです」
今回、桶谷ヘッドコーチが男子日本代表の新たな舵取り役を任せられた大きな理由に、周囲のスタッフの力をうまく引き出し1つにまとめる能力がある。そして、ここまで4年連続でBリーグファイナル進出という結果を残してきた見事な歩みにおいて、大切にしてきたキーワードが『用意周到』だ。
「自分が結果に繋がっていると思うところでいえば用意周到です。勝負どころでどういうプランを取るのか、タフな状況でどういう声がけをするのか、どういうプレーを使うのか。ここ一番でしっかりやるためのメンタルスキルも含めて、準備はすごく大切にしています。選手たちにもそういったところを伝えていきたいです」
また、桶谷ヘッドコーチを語る際に重要な鍵となるのは、豊富なコーチ経験だ。現在48歳とコーチとしては中堅にも入っていない年齢だが、プロチームのヘッドコーチ歴は今年で20年となる。多くの勝利だけでなく、敗北や挫折を味わう中でも常に現場の最前線に立ち続けてきた圧倒的な経験が、百戦錬磨のコーチとしての深みをもたらしていることは間違いない。
日本初のプロバスケリーグであるbjリーグ初年度に大分ヒートデビルズのアシスタントコーチとして、2005年にプロコーチのキャリアをスタートし、2006年1月からヘッドコーチに昇格する。そして2008年にbjリーグ加入2年目の琉球の指揮官に就任。前年リーグ最下位に終わったチームを奇跡のリーグ優勝に導くと、在籍4年間で2度の優勝を含めすべて3位以内の成績を残した。その後、琉球と同じく当時リーグ参入2年目だった岩手ビッグブルズのヘッドコーチに就任すると、3シーズン目にチームをファイナル4に導いた。
順調に実績を積み重ねてきた桶谷ヘッドコーチだが、岩手を去った後は厳しい経験を味わう。2015年から指揮を執っていた大阪エヴェッサではチームの成績を上げることができず、2018年から3シーズンに渡って率いた仙台89ERSでも至上命題であるB2からB1への昇格を果たすことができなかった。それだけに2021年秋、前年までチャンピオンシップのベスト4に3年連続で進出していた琉球のヘッドコーチに復帰した時は懐疑的な声も少なくなかった。しかし、琉球の選択が正しかったことはこれまでの結果が雄弁に物語っている。
「僕が結果を出すことができたのは、人よりもたくさんチャレンジをさせてもらってきたからで、そのおかげで勝利という結果に辿りつけたと思っています」
このように桶谷ヘッドコーチは、経験の大切さをあらためて強調する。だからこそ「若い指導者たちもどんどん経験していくことで、僕よりも素晴らしいコーチになっていくと思います。そのためにも僕はしっかり前を走っていけるように頑張っていきたいです」と、後の世代の日本人ヘッドコーチの可能性をより広げる強い思いも持って、代表ヘッドコーチの重責を引き受けた。
選手としての実績はなく、全くの無名から叩き上げのコーチ人生で20年をかけ、目標としていた代表ヘッドコーチに到達。「今まで人がやってきていないことをやることは、人生の中で大切にしていることです」と語る指揮官に、日本代表を新たな高みへと引き上げてもらいたい。
