文=鈴木健一郎 写真=吉田武

コートでもベンチでも、勝利のためにやるべきことをする

NBLファイナルの初戦、アイシン三河は70-65で東芝神奈川に勝利した。前半は攻守ともに圧倒され、追撃態勢に入った後も東芝神奈川がタッチ良く3ポイントシュートを立て続けに決め再三突き放される苦しい展開。アイシン三河は耐えるバスケットを展開しながら勝負どころで100パーセントの集中力を発揮し、見事に逆転した。

この試合、アイシン三河のポイントガードである橋本竜馬のパフォーマンスを振り返ってみたい。スタッツは0得点2リバウンド2アシスト、2つのターンオーバーを記録。柏木真介とのローテーション起用で出場時間は18分10秒に留まった。正直、数字としては物足りない。そしてチームが鮮やかな逆転に成功した第4ピリオドは、そのほとんどをベンチで過ごしている(24秒間のみの出場)。

だが、ベンチで一番声を出していたのが橋本であることを見逃してはならない。勝負の第4ピリオド、58-58の同点となり残り5分というところでのタイムアウト。ベンチから真っ先に飛び出した橋本は、コート上のチームメートに手早くタオルを渡しながら、盛んに声を掛けていた。

「外国人選手の2人には、あの時にファウルがこんでいて、これ以上ファウルすると厳しい状況だったので、我慢しながらしっかりと手を挙げてディフェンスしようと伝えました。金丸(晃輔)には思い切って、しっかり試合を楽しんでこいと声を掛けました」

コート上の選手はもちろん、ベンチの選手も戦っている。橋本はその象徴のような選手なのだ。

「ベンチにいても気持ちはコートに置いています」と彼は胸を張った。「そこで自分が気付いたことは、外国人選手にも日本人選手にも伝えるようにしています。迎え入れる側が声を掛けてあげることで、キツい時にも良い環境でプレーしてさせてあげられることになりますから」

第1戦は前半に東芝神奈川の完璧なパフォーマンスに圧倒されたものの、後半からはアイシン三河らしいプレーで流れを引き寄せた。28-36とビハインドで迎えたハーフタイム、ヘッドコーチの指示を受けた後、選手たちはこう確認し合ったそうだ。「みんなでボールを回し、共有しながら全員でオフェンスをしよう。ディフェンスではリバウンドで負けていたので、外国人選手だけに頼るのではなく、自分たち日本人選手もリバウンドに絡もう」

そう声を掛け合う選手たちの中心に橋本がいたことは容易に想像できる。攻守のこの約束事を徹底して実行したことが、まさに逆転劇のきっかけとなった。

「試合を通じてやらなければいけないことをしっかりと集中してやる。コートでもベンチでも、40分間常にそれを考えてやっているつもりです」

初戦は会心の逆転劇。だが、3戦先勝方式のファイナルはまだ続く。「また明日、東芝も全力で向かってくると思います。その相手に対して受け身にならず、積極的にプレーしたいです」と橋本は締めくくった。

ファイナルの第2戦は今日、大田区総合体育館で15時ティップオフ。

積極的なコミュニケーションで仲間を鼓舞し、集中させ、チームとしてまとめる。スタッツには表れないが貴重な役割だ。