
キャプテンとしてチームを牽引する榎木璃旺と勝又絆。下級生ながらエースとして脚光を浴びる本田蕗以と白谷柱誠ジャック。福岡大学附属大濠は豪華なタレントを擁するが、『大濠らしいチーム』である上で重要な存在なのが、村上敬之丞と吉岡陽という2人の『仕事人』だ。流れが悪い時に投入されれば、全力でチームプレーをこなしてリズムを作り、スタメンへと引き継ぐ。ベンチスタートではあっても片峯聡太コーチから信頼され、自分たちの仕事にこだわりを持つ2人に、ウインターカップへの意気込みを聞いた。
「挑戦的なプレーをやらないとチームが勢いに乗れない」
──村上選手と吉岡選手、まずは自己紹介と大濠に入った理由をお願いします。
村上 岡山県出身の村上敬之丞です。日本人だけで戦うカッコ良さにあこがれて大濠を選びました。
吉岡 福岡県出身の吉岡陽です。小学校の頃、牧隼利さんの時代の大濠を見たのがきっかけで、素直に「カッコ良い」と思って大濠に入ることを目指しました。
──それではお互いに、オンコートとオフコートでの良いところを教えてください。
村上 一番に思うのは真面目で頼りになるチームメートだということです。しっかりやるべきことをしっかりやるし、賢くプレーするのでメンタル面もブレることがないし、そういう部分で頼りになる選手です。
吉岡 敬之丞はチームが苦しい時にエナジーを出して、こちらが影響を受けるぐらいのハードワークをやってくれます。雰囲気が悪い時に「これぐらいやらなきゃいけないんだ」とプレーで感じさせるのはすごいです。誰とでも仲良くできて、人としてもすごく出来が良いですね。
──ウインターカップの県予選で福岡第一に負けたのが11月3日で、その2週間後にU18日清食品トップリーグでリベンジしました。この試合の最初にチームを盛り上げる得点を決めたのが村上選手でした。吉岡選手も攻守にいつも以上に気持ちの入ったプレーでした。
村上 11月3日に福岡第一に負けたことで自分たちは福岡の1位ではなくなり、追い掛ける立場になりました。挑戦的なプレーをやらないとチームが勢いに乗れないと考えて、まずは僕が最初に力強いプレーをすることを意識しました。県予選でも蕗以やジャックのような能力のある選手へのマークが厳しかったので、まずは自分が行くつもりでした。
吉岡 2週間前の負けは、ただ負けただけじゃなく負け方が本当に悪かったです。それを先生にも指摘されていたので、ここで3年生がまた気持ちの強さを出せないようなことは絶対あってはならないと思っていました。
「あとは試合で勝つための練習を積み上げていくだけ」
──11月3日に福岡第一に負けた後、3年生はしばらく練習から外されたと聞きました。U18日清食品トップリーグの東山戦のロスターにも入っていませんでした。この時期に外されるのは相当キツいと思いますが、その時期をどう過ごしましたか。
村上 何の説明もなく練習から外されたので、正直「バスケを辞めたい」という気持ちにもなりました。片峯先生から3年生の覚悟、責任感が足りなかったとのお話をいただいたのがトップリーグの福岡第一戦の数日前で、本当に直前だったんですけど、そこで「まだまだ突き詰められるものがある」とあらためて話し合いました。キツかったですが、あの2週間はチームに何が足りないのかを客観的に見て、自分と向き合えた時間だったと思います。
吉岡 自分たちの練習の動画を見て、何が足りないかを見ました。足りないところを言葉で言うのは簡単ですが、行動で示すことができていなかったです。そこからは3年生が中心となって、福岡第一のプレッシャーに負けないぐらいの強度で練習しました。それがトップリーグの優勝に繋がったと思います。
村上 2週間前に負けた福岡第一にああいう試合をして勝てたのは、練習の強度が上がったこともあるし、一番はチームワークが良くなったからだと思います。今まではダメなところを指摘し合うだけで、そこから良い方向に持っていくコミュニケーションが取れず、ただ雰囲気が悪くなっていました。でもトップリーグの最終戦では、流れが悪くなった時に互いに目を合わせて話し合って解決に持っていくことができました。そこはあの2週間で意識したところで、目を合わせるだけでも表情を見て安心感が得られる、チームとしての一体感を得られるので、そこでチーム力が向上したと思います。
──そんな苦労や成長があって、1カ月後にはウインターカップを迎えます。今のチームはどんな雰囲気ですか。
吉岡 トップリーグで3冠の一つを取って、それを取れた理由が明確に分かっているのは大きいです。チームが強くなるために何が必要なのか、僕たち3年生が本当に理解できていて、あとは試合で勝つための練習を積み上げていくだけだと感じています。
──組み合わせも発表されました。リスペクトも含めて気になるチームはありますか。
村上 僕はインターハイで優勝した鳥取城北を意識しています。自分たちがウインターカップで優勝した時の決勝の相手ですし、今年は先に結果を出されています。U18日清食品トップリーグの対戦でもあまり良いプレーができずに悔いが残っているので、鳥取城北と当たるまで負けずに勝ち上がって、鳥取城北を倒して決勝に行きたいです。
吉岡 気になっているのは、3回戦で当たる可能性のある開志国際です。開志国際もインターハイに出れなくて、夏からすごく追い込んできたはずです。その部分で福岡第一にやられたことを忘れずに、大会の流れを決める大事な試合をしっかり勝ちきりたいです。

「後からチームに勢いを与えられる役割を果たしたい」
──大濠には各ポジションにタレントが揃っています。その中で2人は自分の役割やプレースタイルがどうあるべきだと思っていますか。
村上 僕はエースと呼ばれるような選手ではなくて、それは自覚しています。エースが攻めることができない時に自分が行くというスタイルで、後からチームにどんどん勢いを与えられる役割を果たしたいと思っています。
吉岡 蕗以やジャックのように能力があって中に強く行ける選手は揃っているので、僕は中に行きながらも外の選手を意識した合わせを意識して、ディフェンスを混乱させるようなプレーをしたいです。
──村上選手は「僕はエースと呼ばれるような選手ではない」と言いましたが、2人ともそれを受け入れるのに葛藤はなかったですか。
村上 僕も負けず嫌いな性格なので、メディアで取り上げられるような選手がいても「試合では負けない」、「俺はもっとできる」という気持ちは持っていました。エースに託す部分は託すのですが、パスして終わりではなく自分のエゴというものは持っていたいと3年間ずっと思っています。
吉岡 僕は同じポジションに僕よりずっとすごい選手がいて、それでもプレータイムを確保するには自分のやりたいプレーをアピールしてもダメだと思いました。ハードワークの部分、繋ぎのプレーを的確にこなすこと、ディフェンスだったり要所での3ポイントシュートだったり、現実的に考えてどんなプレーをできる選手が必要とされるかを考えて、そのプレーをしっかり磨く取り組みをやってきました。
──これを聞くのは少し早すぎるかもしれませんが、大濠に入学してからの3年間で特に印象に残っていること、自分が変わるきっかけになった出来事はありますか。
吉岡 僕は1年生のウインターカップでメンバーから外れて、その理由を自分なりにすごく考えました。あの頃はミスしないことばかり考えてプレーしていて、自分でも「そんな選手は使えないな」と思って。逆にどんな選手だったら使いたいかと考えたら、自分にできるプレーを自分にできる最大の力でやる選手だと思いました。メンバーから外されたのは悔しかったですが、そこで学べたことは僕にとって大きな成長だったと思います。
村上 僕はガードとしてあまり試合に出られなくて、その時に片峯先生から言われた「璃旺が先に試合に出ているけど、璃旺の代わりになろうとしなくて良いぞ」という言葉が印象深くて、そこで「自分の良さとは何か」をすごく考えました。去年は(湧川)裕斗さんの代わりで出ていたのですが、自分が裕斗さんの代わりではなく、何を求められているのか理解した上で、自分のプレーができるようになりました。上のカテゴリーに行ってもチームの色によって出すべき自分の良さは変わってくるはずで、それを高校で学べたのは良かったと思います。

「頼れる3年生としてチームを優勝まで引っ張っていく」
──そうやって取り組んできた成果を見せる場がウインターカップになります。
吉岡 連覇が懸かっていますが、自分たちの代である今年は負けの方が多いというか、インターハイだったりウインターカップの県予選だったり、やり直しの利かない試合で負けてきました。だから挑戦者の気持ちで大会に臨んで、これまでやりきれなかった悔しさを今回は残さず、最後まで戦い抜きたいです。
村上 1年生の時は準優勝、去年は優勝を経験させてもらって、決勝の舞台で見る天国と地獄を味わいました。今までは下級生で、先輩の背中を見てプレーすれば良かったのですが、今回は自分たちのウインターカップだと思っています。後輩には能力の高い選手がたくさんいますが、その中でも頼れる3年生としてチームを優勝まで引っ張っていきたいです。
──後輩に見せたい背中は、具体的にどういう姿になりますか。
村上 1年生は優勝を経験していないので、まずは1年生に優勝の喜びと達成感を味わってもらいたいです。僕は後輩にあまり強く言えないタイプで、言葉で言う役割はキャプテンの絆や璃旺がやってくれるので、行動で示していきたいです。誰にでもできて、当たり前にやらなきゃいけないけど、怠ってしまいがちな部分があると思うので、自分はそこを突き詰めていきたいです。
吉岡 2年生は特に能力が高い選手が多いので、身体能力で解決できることが結構多いのですが、それでも球際だったりコミュニケーションだったり、最後しっかり勝ちに繋がる泥臭い部分は大事です。最後に勝敗を決める場面はもちろん、その過程にある細かいところで負けないチームが本当に強いチームだと思うので、そこを当たり前にやる大切さを伝えたいです。
──それではウインターカップに向けた抱負で締めてください。
村上 ウインターカップは3年生の力がすごく重要です。まずは「自分がやり遂げる」という強い気持ちを持って、最後までプレーしていきます。
吉岡 ウインターカップでは多くの観客の前でプレーしますが、別にカッコ良いことをしようとするのではなく、チームにどうやって貢献できるかを考えてプレーしたいです。
