3人制バスケットボール『3×3』は、東京オリンピックの正式種目となったことで注目度が急上昇するとともに、各国がチーム強化にしのぎを削っている。日本でも代表チームの強化は急ピッチで進められており、今年も各大会で結果を残している。ここから1年後のオリンピックに向けてメダルを狙える位置まで上がっていくか、それともライバルにかわされていくのか。歴史の浅い競技だけに、チームの作り方も戦術も確固たるものがないが、それが難しさであるとともに面白い部分でもある。3×3日本代表の『チームリーダー』の役職で強化を担当する金澤篤志に、その取り組みを聞いた。
「3対3と5対5。両方を一つの日本のバスケットに」
──5人制のプロコーチだった金澤さんが、3×3の世界に入った経緯を教えてください。
もともとは5人制のプロコーチを10年以上やっていて、そこで3×3のアドバイザリーコーチという形で2年間、日本代表にかかわりました。それでオリンピック種目に決まったところで、正式に日本バスケットボール協会(JBA)の一員として3×3の強化担当をすることになりました。私はもともと分析して戦術を組み立てるところを得意としていました。日本の3×3が世界で勝つために1対1中心の戦い方では難しいとの意見がある中で、日本が勝つための戦い方や日本が勝つための戦術を構築してほしい、というのが依頼でした。
この数年で根本的に大きく変わったわけではありませんが、細かいルール変更はいくつもあります。現場のチーム、選手、コーチも含めてどう戦うか、その場その場でアジャストしていくことが一番重要になります。
代表選手を集めた最初のティップオフミーティングで、私が強化担当として必ず言うのは、オンコート、オフコートの自己解決能力をしっかり持ってほしいということです。コート上は風が強いかもしれないし日差しが入ってくるかもしれない。1日に何試合も行われますから、その進行具合によっては試合開始時間もズレたりします。でも、3×3は5人制と異なり、コーチやスタッフが試合中にタイムアウトを取ったり、選手たちの近くでアドバイスしたりすることができませんですから、自分で判断してアジャストして解決できる選手でないといけないからです。選手選考でもその点は考慮されます。
──昨年から流れができつつありましたが、今年になって5人制を主にプレーしてきた選手を積極的に3×3の日本代表に招集しています。選考はどのような基準で行われていますか?
今年の選考は過去の実績も踏まえて、男子が2月、女子も2月と3月の2回の強化合宿でスタートしましたが、3対3と5対5を2つに分けるのではなくて、両方を一つの日本のバスケットとして、選手をピックアップしていきます。3人制と5人制にかかわらず、3×3の日本代表で戦えそうな選手をリストアップして、(トーステン)ロイブルディレクターコーチを含む3×3強化委員のメンバーで合宿に呼ぶ選手を選びます。そこからはトライアウトのようなゲーム形式で、どの選手が良いか、どの組み合わせが良いのかを確認しました。
「日本の絶対的な武器となる機動力は譲れない」
──表現の仕方が難しいのですが、『5人制の代表に残れなかった選手』が3人制に回ってきているわけではありませんか?
そういう見え方をするかもしれませんが、現在の3×3の代表に呼ばれている選手の中には、5人制の代表の候補選手として、そちらでまだチャンスのある選手もいます。要するに、3×3日本代表としては、とにかく呼びたい選手を呼んでいて、『5人制で落ちたから』呼んでいるわけではありません。
ただ、今は掛け持ちができますが、3×3は個人ポイントのランキングが制度として取り入れられていますので、そのランキングを考慮する必要もあって、この6月からは徐々に絞り込んでいきます。それでも国内トップ10に入る選手は常にオリンピックのターゲット選手となります。一部の選手は2月と3月の合宿にも呼んでいますし、その時に呼ばれなかった選手にもこの後に呼ばれる可能性があることは伝えています。今後も東京オリンピックまで、トップ10の選手は確実にターゲットになります。
──極端な話、例えば富樫勇樹選手や渡嘉敷来夢選手を3×3の日本代表に呼ぶ可能性も?
可能性はゼロではありませんし、面白いと思います。一方でポイントの問題もありますし、直前に呼んで急に活躍できるかというと難しい側面もあります。今回のアジアカップがそうでしたが、アジアの国々もグッとレベルが上がっています。そこで3×3の経験が少ない選手が急に来て勝てるのかどうか。それは判断しなければいけません。また、最終的には選手の意思が尊重されるべきだと思います。
──それでは『3×3向き』なのはどんな選手だと考えていますか? 逆に、5人制では評価が高くても3×3に向かない選手はいますか?
日本が世界で3×3で勝つためには機動力とシュート力が絶対に必要です。どんなにサイズがあっても、機動力がなかったら絶対に勝てない。そういう選手は3×3には向きません。逆に機動力があれば、サイズが小さくても戦える。この前のウーマンズシリーズでは2ガード2フォワードの編成、つまり、あえてスモールラインナップで臨みましたが、その機動力で世界を相手に準優勝を勝ち取りました。
もちろんシュート力や自己解決能力は大事ですが、特に日本の絶対的な武器となる機動力は譲れないですね。例えば、先日のウーマンズシリーズでの篠崎澪です。準決勝の中国戦、中国の大会ですから最初は当然のように相手の応援がすごかったんですね。ですが、中国の長身選手を篠崎が何度もドライブでかわして得点を決めるうちに、会場がシーンとなって、そして篠崎のプレーに歓声が上がるようになりました。試合を終えて引き上げる時には握手攻めです。スピードで世界に通用していましたよね。
機動力もアウトサイドのシュート力も個人で高めないといけませんが、個人の努力に加えてチームのケミストリーをこれから作っていけば、2020年に勝って上に行くことは可能だと思います。先日のアジアカップなどで『勝っていくために必要な距離感』を測ることができたのは大きな価値です。
「新しいからこそ魅力的でやり甲斐があります」
──他国のレベルアップという話がありましたが、その脅威もやはり感じていますか。
そうですね。特に5人制で今年のワールドカップに出場していなかったり、オリンピック出場が難しい国は、5人制のエース級を3×3の代表に持ってくる傾向にあります。アジアカップの初戦で男子が戦ったヨルダンのエースガードは5人制のスター選手で、正直、日本はあそこで面食らいました。
他の国でも3×3の場数は踏んでいないけど5人制の代表クラス、エース級が来ています。オーストラリアは5人制の元代表選手4人でチームを組んでいます。女子もそうですね。やっぱり3×3がオリンピック種目になり、バスケットでのメダル獲得のチャンスが広がったのは大きいです。
──前例のない3人制の強化を担当して、難しさと楽しさのどちらをより多く感じますか?
手探りになってしまうのが難しいところですが、新しいからこそ魅力的でやり甲斐があります。日本のように5人制と3人制を一つにして選考する国もあれば、3人制は3人制の専門的な選手で絞る国もあります。いろんな強化の方法があって、何が正解か分からない。そこが難しいのですが、だからこそチャレンジできる。3×3という種目自体にそういう魅力があると思います。それに、オリンピックというのは一番のモチベーションになりますね。
──オリンピックまであと1年。ここから日本代表が大きく伸びるには何が必要ですか?
3人制はもともと土台作りをしてきた人たちがいて、今は5人制からも選手がチャレンジするようになってきました。そこで情報共有をしながら、一緒に作り上げていく。強化体制を協力して作っていく必要があります。もう一つはチーム内で、3×3の経験がある選手と経験の浅い選手が一緒に競争する中で、日本が世界で勝つための戦い方を熟成させることです。
今回、男女ともに開催国枠で3×3のオリンピック出場が認められたのは、これまで3×3を支えて盛り上げてくれた選手や関係者のおかげです。それは本当に強くお伝えしたいです。ただ、ここからは競争でレベルを上げていかなければならない。5人制の選手がたくさん入ってきているし、3×3をずっとやってきて経験値のある選手は絶対負けたくないと思っています。そんな中で誰が良いのか、強いのかを測っています。
「メダルが目標ですが、色は選手が決めればいい」
──オリンピック種目になって、今から3×3を見る人もたくさんいると思います。そんな人たちに3×3の魅力、ここを見てほしい、というものを教えてください。
コート上でのスピーディーで激しい戦いが一番の魅力です。あとはコーチがベンチに入れず試合中に指示ができないのが5人制との大きな違いで、選手が自分たちで課題を見極めて、解決していく戦い方は素晴らしいものです。勝利を目指して主体的に戦う選手のコート上でのやり取り、ベンチにいる選手が状況判断して指示を飛ばしていたり。そんな『選手の戦いざま』を10分間集中して見てもらいたいです。
──ちょっと気が早いですが、東京オリンピックでの目標はどこに置いていますか?
やっぱりメダルを取るのが目標です。色は選手が決めればいいと思います。選手が「金が欲しい」と思うのなら金を目指せばいい。それを強化としてコーチ、スタッフ、そしてJBA組織としても全力でサポートします。もう一つはこのオリンピックを契機に、3×3がどんな種目か、その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいですね。