内尾聡菜

「苦しい時間帯も我慢することで自分たちに流れに持っていけた」

12月15日、第91回皇后杯の決勝戦が行われ、富士通レッドウェーブが65-55でアイシンウイングスに勝利し17大会ぶり4回目の優勝を果たした。

試合の立ち上がり、富士通は攻守ともに本来のやりたいプレーを体現できなかった。オフェンスでは司令塔である町田瑠唯が徹底したディナイを食らってボールタッチを減らされ、パスの流動性が欠けてショットクロック終了間際のタフショットが多くなる悪循環に陥った。ディフェンスでは、アイシンの大黒柱である渡嘉敷来夢にプレッシャーをかけ切れずに波に乗らせてしまうと、渡嘉敷を起点にパスをさばかれ効果的に3ポイントシュートを決められてしまい29-38で前半を終える。

第3クォーターに入っても劣勢は続く。吉田亜沙美に3ポイントシュートを許すなど、外から効率良く決められ残り約7分には33-45と2桁のビハインドを背負った。それでも富士通はチームの根幹である堅守によってこの悪い流れを変える。ここから第3クォーター終了まで失点をわずか2に抑え、43-47と肉薄した。最終クォーターに入っても富士通は激しいディフェンスを継続。このクォーターだけで8つのターンオーバーを誘発するなど鉄壁のディフェンスで主導権を握ると、残り3分半に江良萌香の3ポイントシュートでついに逆転した。そして残り2分、1分半には内尾聡菜が長距離砲、オフェンスリバウンドからのシュートをねじ込んで流れを渡さず、リードを9点にまで広げて頂点に立った。

この試合、富士通は宮澤夕貴が21得点11リバウンドを記録し、町田が徹底マークに遭いながらも5得点9アシストと、大黒柱がしっかりと仕事を果たした。そして2人と同等のハイパフォーマンスを見せたのが内尾だった。勝利を確定させる連続得点を含む10得点を挙げ、12リバウンドのダブル・ダブルを達成。今大会の富士通は、日本代表のエースシューターである林咲希が故障で不在だったが、内尾のステップアップなどで林の穴を埋めることができた。

内尾は試合後の会見でディフェンスの勝利だったと振り返る。「前半、とても苦しかったですがハーフタイムに、みんなでもう1回我慢しょうと話しました。そして先輩たちがどんどん打っていいよという言葉をかけてくださり、後半はアグレッシブにできたと思います。みんなが言うように今回はディフェンスがすべてです。苦しい時間帯も我慢することで、自分たちに流れに持っていけたのが良かったです」

内尾聡菜

町田「自分のベスト5選出よりもうれしいです」

内尾は59-56と激闘だったセミファイナルのデンソーアイリス戦では大事な立ち上がりで確率良くシュートを決め10得点4リバウンド2アシストを挙げた。また、ベスト8のトヨタ紡織サンシャインラビッツ戦でもチームトップの18得点に加え3リバウンド2スティールを記録と見事な活躍を見せ、当然のように宮澤、町田とともに大会ベスト5に選出された。

ただ、本人にとっては驚きの結果であり、表彰式で名前が呼ばれた時には感極まり両手で顔を覆った。「今年で(富士通に加入して)9年目ですけど、昨シーズンまではベスト5に選ばれた選手を見送ると言いますか、聞いている側でした。この大会もまさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったです」

こう率直な思いを明かした内尾は「本当にすいません……」と彼女らしい謙虚な人柄を見せ、涙を浮かべながらこのように続けた。「チームの目標は(皇后杯、Wリーグとの)二冠なので、今回は通過点です。ただ、個人的な気持ちですが、本当にここまで苦しかったので、素直にうれしかったです。今までのこともいろいろと思い出して、感極まってしまいました」

数年前までの内尾といえば、チーム加入当初から定評のあった守備ではエースストッパーとして頼りになる存在だったが、オフェンス面においては消極的な姿勢も目立っていた。だが、今の彼女はシュート力を確実に向上させ、ここ一番でシュートを決め切る精神的な強さも身につけた。

同じ富士通の生え抜きで、内尾をずっと見てきた町田は「内尾は毎年成長していますけど、今シーズンはより得点面に絡んで、大事なところで3ポイントシュートを決め切ってくれたりしています。内尾なら決めてくれるとパスを出していますし、多分、内尾も自信を持って打ってくれていると思います」と語る。

そして、これまでの努力を知っているからこそ、町田は内尾の勲章を自分のこと以上に喜んだ。「ちょっと前までは、『このタイミングで私が打っていいのかな』という迷いがあってシュートを打たなかったこともありました。それが今は、『私が決める』くらいの気持ちを持って打ってくれていると(横にいる内尾を見ながら笑顔で)思っているので、そこの成長はすごいと思います。今回、こうやってベスト5に選ばれましたが、本当にずっと富士通を支えてくれている選手なので私もいつか絶対に選ばれてほしいと思っていました。私はずっと影のMVPだと思っているので自分のことよりもすごくうれしいです」

今の内尾のことを守備だけの選手をと評する人はいない。得点でも十分にインパクトを与えられる2ウェイ選手へと進化したことを、今回の皇后杯であらためて証明した。