ライジングゼファーフクオカ

文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫

試合前に状況説明、ウォーミングアップなしでプレー

4月9日に発表された来シーズンのクラブライセンス判定結果で、ライジングゼファーフクオカには「停止条件付でのB2ライセンス」しか交付されなかった。B1ライセンスが交付されなかったために、B1残留のために戦っていたチームは突如として目標を失ってしまった。

その翌日、ホームの照葉積水ハウスアリーナでの大阪エヴェッサ戦。アリーナは一種異様な雰囲気に包まれていた。大阪の選手がウォーミングアップを続ける中、福岡の選手が出て来ない。試合前に選手に鼓舞の声を掛けようとロッカールームからコートへの通路に集まったファンも当惑の色を隠せない。結局、選手がコートに出てきたのは18時50分、試合開始の15分前だった。

選手たちはBリーグの担当者からクラブライセンスについての説明を受けていた。ケガでこの試合を欠場したキャプテンの山下泰弘は「今後どうするかの話し合いがあり、いろいろな意見がありました」と、そして小林大祐も「情報が入ってこない状況だったので、試合前の説明をお願いしました」と明かす。説明を聞いて頭をクリアにしなければ、とてもプレーできない状況だったのだろう。

山下は言う。「最終的には今日の試合、ホームゲームでボランティアスタッフの方々がコートを作ってくださって、スポンサーの方々の協力で試合ができる。そしてブースターが来てくれている。この人たちのために戦おうと話しました」

だが、ただでさえ低迷するチームがこれだけのハンデを背負っては、苦戦は免れない。心身ともに準備が整わないまま試合開始を迎え、開始5分あまりで2桁のビハインドを背負った。その後は少なくとも互角の戦いを演じたのだが、この10点前後の差を詰められず、71-80で敗れている。

小林大祐

小林「疑問を感じることは多々ありました」

レギュラーシーズンを戦い終えることなくB1からの陥落が決まった状況でも、この水曜ナイトゲームには2000人を超えるファンが駆け付けた。それでも小林は「ブースターの熱い思いはありがたい」と前置きした上で「問題の本質はそこではない」と続ける。

「福岡にバスケットボールを根付かせるためにやってきたのがこれなのか、という思いはあります。今回の資金繰りのこともそうですし、お金の遅配も現実にありました。その中でモチベーションを保つ、この先チームがあるのか、ライセンスが取れるのか、というのをこの3年間感じていました。バスケットに集中できる環境だったかと言えば、違ったと思います。そこを選んだ自分にも責任があります。逆に起こさせてしまった、自分たちがやってきたことが本当に正しかったのか、疑問を抱いています。3年間、悪いことばかりじゃないですが、疑問を感じることは多々ありました」

山下もいまだショックから抜け出せていない。「3年前に帰ってきた時には希望に満ち溢れて、何としてでも最短でB1だと強い気持ちを持って。最初の2年間はたくさんの人たちに支えられて結果を出すことができました。充実していました。そして今シーズン、晴れの舞台で準備段階からミスしてしまったことには悔いが残ります」

「それぞれ間違ってはいないんですが、それを一つに導けなかったと思います。そこはキャプテンをしている自分がもっとチームをまとめなければいけなかった。そこは力不足です」

石谷聡

石谷「成績がついてきていないのは僕たち現場側の責任」

この日の試合後会見は異例の長さに及んだ。この時点でB1残留の可能性が消滅したのはライセンスが交付されなかった結果なのだが、ヘッドコーチのボブ・ナッシュの采配、勝てないことへの責任を問う声や、選手への「なぜ勝てないのか」という質問も相次いだ。

福岡で10年プレーする石谷聡は、「ここまで56試合、成績がついてきていないのはライセンスどうこうは関係ない、僕たち現場側の責任です」と語る。

「そういった苦しい状況の中でもたくさんのファンがいて、アウェーまで足を運んで応援してくださる方もいます。ライセンスが今後どうなるかは分かりませんが、存続さえすれば応援すると言ってくださるファンもいます。そういった方のためにも、戦う姿勢は失ってはいけない。このまま沈んで終わるのは僕ら自身も……。難しいと思いますけど、戦っていくしかない」

指揮官ボブ・ナッシュは「選手たちの失望が見えた。しかし、プロの世界では何が起きてもおかしくないし、プロとしてやるべきことをやらなければいけない。クラブがどんな状況であれ、チームは戦わなければいけない。やるべきことに集中したい」と語る。

キャプテンの山下は、このような決意とともに会見を締めくくった。「このような状況になって、残りわずかなところで戦術とかを変えても変わらない。あとは一人ひとりがプライドを持って、福岡のためにという気持ちを持って40分間ハードにプレーすることが大事だと思います」

試合後、選手たちが去ったコートでは、神田康範社長が今の混乱についてファンに謝罪し、「下を向いていては始まらないので、Bリーグよりいただいた約20日間、1億8000万円を拾いに、必死で走ってまいります」と、最善の形で事態を収拾することを約束。「僕はここにいますので、質問などあれば話し掛けてください。隠すことは何もありません。何でも聞いていただきたいし、文句も僕に言ってください」と、ファンにも対応した。

戦わずしてB1からの降格が決まったのはライジングゼファーフクオカにとって痛恨の出来事だ。だが、まだできることはある。あと2週間、彼らの戦いを見守りたい。