二宮有志

「ハンデだとは思わず。同じ土俵に立っている気分で」

和歌山南陵は一昨年5月に教職員が給与未払いを理由にストライキを行い、学校法人が経営改善の措置命令を受けるなど揺れに揺れた。生徒募集が停止され、多くの生徒が学校を去る状況で、バスケ部は昨年にインターハイとウインターカップにそれぞれ3度目の出場を果たした。それでも3年生が卒業した後に残った部員は6名のみ。去年から先発で試合に出ていた二宮有志とアリュウ・イドリス・アブバカが中心となるが、6人ではタイムシェアができない。この状況で県予選を勝ち抜いただけでも快挙だが、昨日行われたインターハイ1回戦の延岡学園戦では、文字通りの『シックスマン』となった中村允飛が26分出場し、6人で戦い抜いて75-67と競り勝った。

6人全員がほぼ出ずっぱりの状況で、『走らないバスケ』を選択。キャプテン二宮とアブバカのセットプレーでの連携を軸に、じっくり守ってじっくり攻めるバスケを展開した。走る展開に持ち込まれて消耗すれば勝ち目はない。その展開を作り出そうとする延岡学園と、応じまいとする和歌山南陵のせめぎ合い。前半は33-33とどちらも得点が伸びなかったが、それも和歌山南陵の和中裕輔ヘッドコーチによれば「良いペース」であり、後半は「10点ぐらいリードして、私たちのゆっくりしたペースを維持するのが理想だったので、そういった試合ができて良かった」と振り返るものだった。

6人という厳しい状況を戦い抜く選手たちのメンタリティについて和中ヘッドコーチは「ハートが強いわけではないのですが、6人だから『僕らがやらないと』という気持ちがあって、人任せにする選手がいません」と説明する。

去年のキャプテンだった松本和也が自らのドライブでズレを作り、自らシュートを打つ選手だったように、今年キャプテンを務める二宮も自分のプレーを起点にオフェンスを組み立てるが、難しいのは走る展開に持ち込むのがご法度ということだ。それでも「自分がやらないと、という気持ちで常にやっています。そこは気持ちで負けないように」と、前向きな気持ちを積極性に繋げてプレーしている。

彼らを支えるのは「自分たちのペースに持ち込めば勝てる」という信念だ。「自分たちのスローペース、走らないバスケを徹底したら勝てるという感じでやっていました。ファウルは少し多かったですが誰も退場しなかったし、自分たちのペースでやれたと思います」と二宮は語る。

そして、大きなトラブルを抱えてプレーするチームを支えるのは、ファンの声援だ。遠征費用はクラウドファンディングで賄い、窮状に屈せず戦うチームの事情を知った観客が、他のどのチームよりも和歌山南陵に大きな声援を送った。

「そこはハンデだと思われちゃうんですけど、自分たちはハンデだとは思わず同じ土俵に立っている気分でやっています」と二宮は言うが、他のチームにはない大歓声の後押しがありがたくないはずはない。「明日も強豪(八王子学園八王子)と対戦しますが、決勝までしっかり頑張りますので、応援よろしくお願いします」とキャプテンは語った。

6人での戦いではあるが、観客に支えられる和歌山南陵は今日の2回戦でもサプライズを起こせるか。他に類を見ない彼らの戦いぶりに注目したい。