クリス・ポール

「プレーすること以上に僕が好きなものはない」

昨シーズン、クリス・ポールのNBAキャリア19年目は困難ばかりが続いた。優勝を勝ち取るためにウォリアーズに加わったが、傾いていく『王朝』の中で彼も翻弄された。ステフィン・カリーに続く2番手のポイントガードとしてベンチスタートを初めて受け入れ、ウォリアーズに新たな攻撃のアクセントを加えたが、司令塔としての本領を発揮できないままプレーイン・トーナメントでチームは敗れ、彼にとってのプレーオフ連続出場が14で途切れることにもなった。

シーズン終了の時点で「すべての選択肢をオープンに受け入れる」と語った彼は、ウォリアーズが2年契約の2年目を破棄したことで自由にチームを選べる立場となった。そうして選択したのがスパーズとの1100万ドル(約17億円)での1年契約だ。

ビクター・ウェンバニャマを擁するとは言え、スパーズは昨シーズン22勝60敗の再建チームで優勝争いができるのは数年先。39歳の彼とはタイムラインが合わない。それでもスパーズでの加入会見に臨んだポールは、自分の選択の理由を「プレーしてチームに貢献し、得点を奪う。それ以上に僕が好きなものはない」と説明した。

若いチームに経験をもたらすことが彼の目的ではない。39歳となった今もポールは主役を演じるつもりだし、一人のプレーヤーとして成長することを貪欲に求めている。

「若いチームに良い影響を与える責任に、僕はこれまでも真剣に向き合ってきた。でも僕はコーチじゃない。つまり、僕も学ぶんだ。これまでも若いチームに所属して、キャリア2年目のシェイ・ギルジャス・アレクサンダーから学んだし、同じようにデビン・ブッカーやミケル・ブリッジズから学んできた。僕の知識を若い選手に伝えるのは当然だけど、今は若い選手から僕が何を学べるかに興味津々なんだ」

「それは僕がいまだに子供っぽい部分を持ち合わせているからだと思う。4歳か5歳の頃から今に至るまで、毎日バスケをするのが僕の生き方だ。そして育成年代のバスケも関与していて、来週には子供たちのチームを率いて大会に参加する。中学や高校のバスケも見るし、15歳の息子と12歳の娘の父親でもある。いろんな意味で僕たちはバスケを通して繋がっている。そのすべてにおいて、僕は『もっと上手くなりたい』と思っているんだ」

クリス・ポールとともにスパーズに加わったハリソン・バーンズは、アメリカ代表でグレッグ・ポポビッチの下でプレーした経験がある。「ポップ(ポポビッチの愛称)は選手それぞれに合わせた方法でコミュニケーションを取る。彼のそんなところが好きだから、スパーズに来れて良かった」とバーンズは言う。ポールもポポビッチについて「ちょっとした会話なら、いつでもどこでも彼とは交わしてきた。彼とそのコーチングスタッフから学べるのが楽しみだ」と語った。

スパーズが優勝争いをするのは時期尚早かもしれないが、新シーズンに大きな躍進を遂げるだけのポテンシャルは十分に備えている。昨シーズンの主力を放出せず、なおかつ将来のドラフト指名権を犠牲にすることもなく、ポールとバーンズというベテランを獲得。ポイントガードはクリス・ポールが先発し、ベンチからトレ・ジョーンズが出てくる。スモールフォワードはバーンズとケルドン・ジョンソンの併用。これで48分間を通して戦うための選手層が一気に強化された。

ベテラン2人を加えたが、それでも選手の多くは20代前半で多くの伸びしろを残している。24歳のケルドン・ジョンソンとトレ・ジョーンズ、23歳のデビン・バッセル、21歳のジェレミー・ソーハンにマラカイ・ブランナムといった若手の成長スピードは新シーズンに大きく加速し、それはそのままスパーズのレベルアップに繋がるはずだ。