補強が進まず、レブロンの『譲歩する覚悟』は空振りに
現地7月3日、契約最終年を破棄してフリーエージェントとなったレブロン・ジェームズが、レイカーズと新たに2年1億400万ドル(約160億円)の契約を結ぶと『ESPN』が報じた。レイカーズは2巡目で指名したブロニー・ジェームズともロスター契約を結んでおり、レブロンとの契約でロスターの最大人数となる15人が揃ったことになる。
レブロンの新契約の2年目はプレーヤーオプションで、NBAでブラッドリー・ビールに続く2人目となるトレード拒否条項を持つ。それでもレブロンがこの年俸を受け取ると、レイカーズのサラリー総額はセカンドエプロンを110万ドル超過し、今後のチーム編成で大きな制限を受けるため、最終的にはレブロンが譲歩してセカンドエプロン以下に年俸総額を収める予定だ。
それでも、レブロンの譲歩はもっと大きくなるはずだった。ミッドレベル例外条項やサイン&トレードを活用して強力な補強が実現するのであれば、大幅な減俸を受け入れるつもりだと彼はレイカーズに伝えており、その金額は最大で2000万ドル(約30億円)規模だったという。クレイ・トンプソンがウォリアーズを離れることが決定的になった時点で、レブロンは電話で彼を勧誘したとも言われる。レイカーズはマーベリックスより好条件のオファーを出した。それでもクレイはマブスを選んだ。
レイカーズは17回の優勝経験があり、NBAで最も多くのファンを抱えるチームだが、少なくとも現時点ではパープル&ゴールドのユニフォームにスター選手を惹き付ける力はない。レブロンとアンソニー・デイビスのコンビで2020年の優勝を勝ち取ったが、その力はケガと年齢を重ねることで年々衰えている。オフのたびにテコ入れを図るものの、ダメならゼロからのやり直しを繰り返してばかり。今オフもダービン・ハムは解任したがフロントが責任を取るわけではなく、その後のコーチ人事は迷走し、ディアンジェロ・ラッセルがプレーヤーオプションを選択して残留を決めた途端にトレードに出そうとしている。
スポーツを愛する者は、NBAの『生ける伝説』であるレブロンが息子ブロニーと同じユニフォームを着てコートに立つ歴史的瞬間を楽しむことができる。しかしレイカーズファンは、西カンファレンスの競争が熾烈を極める中で、プレーイン・トーナメント進出チームに大きな補強がないまま、どれだけ戦えるか楽観的ではいられない。
レブロンもそれを理解しているからこそ、大幅な減俸を受け入れる覚悟を示した。しかし有効な補強は果たされず、レブロンは最大額かそれとほぼ同じ延長契約を手に入れた。自分が働きかければ、パリオリンピックには『ドリームチーム』が集まるのに、レイカーズには誰も来ない。この現実を突き付けられては、契約延長もさほど喜べないに違いない。
それでもレイカーズ復活のためには、これが正しい道なのかもしれない。クレイやジョージ、あるいはデマー・デローザンを獲得できていたら、その代償はレブロンとデイビスに続く年俸を取っているディアンジェロであり八村塁でありオースティン・リーブスとなる。コネチカット大のダン・ハーリー招聘に動いた時点で、選手育成に懸ける方針は明確だったはず。今のサラリーキャップのルールで『ビッグ3』は機能しない公算が高い。コービー・ブライアントの現役生活晩年にヤング・コアが台頭したように、レイカーズはスター選手が集まる華やかな球団でありながら選手育成でも結果を出してきた。今の状況であれば、本格的に育成にシフトするのが賢明だろう。
そこで必要なのは『覚悟』だ。レギュラーシーズンで目先の1勝のために満身創痍のレブロンやデイビスがフル稼働するのをやめ、彼らは健康な時だけプレーし、あとは多少負けが続いて批判が渦巻いても動じることなく若手にチャンスを与える。そうやって地力を高めた上でプレーオフに臨む。トップシードは得られず、優勝候補にはならないだろうが、そもそも昨シーズンもレイカーズはそんなチームだった。ファンに夢を見せるのがエンタテインメントだが、チームまで夢を見て現実を直視しないようでは勝利は手に入らない。今こそ、変わるべき時だ。