「今、どれだけ素晴らしい気持ちなのか、言葉で表現することはできないよ」
広島ドラゴンフライズは、Bリーグファイナル第3戦で琉球ゴールデンキングスに65-50と勝利し、第2戦からの連勝によって今シーズンの頂点に立った。
広島の逆転劇に欠かせなかった人物がドウェイン・エバンスだ。リーグ屈指のオールラウンダーであるエバンスだが、初戦は22分37秒の出場で7得点2リバウンド2アシストと本来の力を出せず、チームも敗れた。しかし、第2戦、第3戦と30分以上コートに立ち、第2戦は16得点6リバウンド5アシスト、第3戦も13得点9リバウンド3アシストと、攻守でチームを支えた。セミファイナルの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦第3戦での28得点7リバウンド6アシストも含め、大黒柱として広島を頂点へと導く原動力となった。
32歳のエバンスは、「プロとしては初めての優勝だ。今、どれだけ素晴らしい気持ちなのか、言葉で表現することはできないよ」と笑顔を見せる。そして、次のように勝因を語る。
「スイッチディフェンスで相手のオフェンスを機能させなかったことで、試合全体のリズムが変わった。チームは自信を持ってプレーし、たとえシュートが入らなくてもディフェンスとトランジションバスケットをしっかりと遂行していた。僕たちはシーズン中も第4クォーターに強さを発揮し、この2試合でもそれができた」
今シーズンの広島は、序盤は黒星先行で苦しんでいた。さらに3月頭にはエースガードの寺嶋良が故障離脱するなどさまざまな困難に直面したが、終盤になって一気にパフォーマンスを上げ、頂点まで駆け上がった。
「今シーズンは、成長するための痛みを伴った1年だった」とエバンスは振り返る。「新しい役割を理解し、これまでとの違いに対応するのに時間がかかった。ただ、それぞれが自信を持ってアグレッシブにプレーできるようになることで、皆さんが見たように素晴らしいプレーができるようになった」
さらにエバンスは、チャンピオンシップで大きな飛躍を遂げた山崎稜と中村拓人を次のように讃えた。
「リョウはスナイパーだ。彼は(3ポイントシュートで)試合の状況を一気に変えてくれる。ドライブした時、彼がコートのどこにいるのかいつも探していたよ。彼は何度もビッグショットを決めてくれた。バスケットボールを良く知っていて、気持ちが強い。彼のステップアップには驚いていないよ」
「タクは闘犬のように気持ちの強い選手だ。ディフェンス、オフェンスと何でもできる。特に今シーズンは3ポイントシュートをより打つようになった。彼はこれからのキャリアで長期にわたって成功を収めることができるよ」
「自分にとって、これ以上ない物語となった。正直に言って本当に感動している」
今回のファイナルは、エバンスにとっていろいろな意味で特別なシリーズだった。対戦相手の琉球は、日本での最初のシーズンとなる2020-21シーズンから2年間在籍した愛着ある古巣だ。ファイナルのコートに立つのは琉球時代の2022年に続く2度目となるが、前回は宇都宮ブレックスに連敗した苦い思い出しかない。
自身が加わる前から地区王者でリーグ上位だった琉球に対し、2022-23シーズンに加入した広島は前年まで勝率5割の中位チームだった。エバンスは「自分がチームをポシティブな方向に導く新しいチャレンジをしてきた」と、リーダーとしてチームを引っ張ることに取り組んできたと話した。
「自分にとってキングスは、もちろんただの相手ではないよ。沖縄で本当に素晴らしい2年間を過ごすことできた。そして広島に来た時、チームはアンダードッグだった。そういうチームがファイナルで彼らを破ることができた。自分にとって、これ以上ない物語となった。正直に言って本当に感動している」
「数年前、ファイナルに行ってブレックスに敗れ、こうしてファイナルに戻ってこられたことは特別だった。今回、チャンピオンシップを獲得することなしに帰ることはまったく考えていなかった。コートですべてを出し切り、チームメイトのためにできることをすべてやった。優勝できたことを本当に誇りに思う」
こう思いの丈を打ち明けた後、エバンスは感極まった。エバンスは「(この涙には)喜び、安堵、興奮、愛と全てが詰まっているよ」と語った。
エバンスといえば流暢な日本語に象徴されるように、日本への敬意を強く感じさせてくれる選手だ。「日本に来る前、正直に言って今の状況をまったく想像していなかった。日本語を話せるようになるとも、チャンピオンになれるとも思っていなかった。想像以上に素晴らしいことになっている」と、良い意味で想定外の事態になっていると明かしたエバンスは、改めて日本への愛を強調する。
「日本のことは大好きだ。この4年間、本当に素晴らしい日々を送れているし、これからも日本で過ごせたらと思っている。より文化を知り、この素晴らしい国で自分のエナジーを発揮し、コートでも成功を収めることができている。これ以上のことはないよ」
ちなみに今、彼が最も好きな日本語は『優勝』だ。さまざまな困難、新しいチャレンジの末につかんだタイトル奪取の喜びに今は浸ってもらいたい。