カイリー・アービング

写真=Getty Images

エースの働きを見せるも「アービング不在のほうが勝てる」

セルティックスは開幕前こそ東カンファレンスの優勝候補に挙げられていましたが、残り試合が30試合を切っても5位と苦しんでいます。昨シーズンは若い選手が中核を担いながらもカンファレンスファイナルまで進んだチームに、カイリー・アービングとゴードン・ヘイワードが復帰して強力なメンバーが揃ったのですが、いまだに最適な起用法を見いだせず悩んでいます。

シーズン前半は大ケガからの復帰であることに加えチームオフェンスに慣れていなかったヘイワードの不調と、主力が代わるがわるケガで離脱したことで一貫した戦い方ができなかったことが響きました。それでもディフェンスが良く、ゲームメークに優れたマーカス・スマートをポイントガードのスターターに固定してからは、28勝14敗と次第にチームは上向きました。

「若手がチームの約束事を守っていない」とチーム内の揉めごとが外に漏れ伝わることもありましたが、多くの選手のシュートタッチが戻ってきたことで、どこからでも得点できるスタイルを取り戻しました。特に若いジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンがインサイドでもアウトサイドでも得点を伸ばしたことが大きく、セルティックスはオールスター直前の15試合を12勝3敗と、一気に勝率を上げました。

しかし、大きく上向いてきたチーム状況の中で違う問題も発生し始めました。この15試合でアービングがいた試合は6勝3敗で、いなかった試合は6戦全勝と「エース不在のほうが勝てる」という状況になっているのです。

チームが勝てていなかった時期、アービングの個人成績は素晴らしく、単に得点が多いだけではなく、フィールドゴール成功率49%、3ポイントシュート成功率42%、そしてアシストも6.9本とエースとして明確にチームを牽引していました。課題だったディフェンスも改善され、プレー中の得失点差は6.0点と間違いなく最重要選手になっています。

しかし、それが勝利に結びつかないジレンマが今のセルティックスにはあります。

アービングが不在の試合でのオフェンスは、突破するきっかけを作れないことがあっても、その代わりにパスがよく回り、ディフェンスを動かしてズレを作るシーンが目立ちます。得点自体は伸びないものの、時間をかけて全員が絡むオフェンスとなり、シュートの成功率が向上しました。それ以上にじっくり攻めて落ち着く時間が作れるからか、ディフェンスへの切り替えが早くなり、相手に速攻を出されることが減りました。エース不在で得点力は落ちたものの、チームのケミストリーは向上した雰囲気があります。

数字の上ではアービングがいたほうがオフェンスは強力なのですが、アービング不在でバランスの取れたオフェンスがより勝利に繋がる。これがセルティックスの抱えるジレンマになっています。シーズン前は契約更新を決めたような報道も流れていたアービングですが、その先行きも不透明になってきました。

そんな中でオールスター明けにヘッドコーチのブラッド・スティーブンスが選んだのは、アービングが中心であることをより明確にした起用法でした。これまで複数の選手にプレータイムをシェアする形を選び平均33分に満たなかったのが、2試合続けて41分プレーさせるなど『アービング中心のオフェンス』を強調したのです。

ところが、またもアービング本人は活躍したにもかかわらず、バックス、ブルズを相手に連敗。続くラプターズ戦ではアービングが7点に終わり大敗を喫しました。ブレイザーズ戦にも敗れ、オールスター明け4連敗と再び停滞してしまったのです。バランスの良いオフェンスになったウィザーズ戦に勝利し、やっと連敗を止めましたが、苦しい状況は続いています。

強力な得点力を持つアービングはセルティックスが優勝するための最重要ピースです。だからこそ再びアービング中心に舵を切ったオールスター明けでしたが、それが結果に結びつかないとなればチームに迷いが生じます。

ヤニス・アンテトクンポを絶対的な中心として機能させるバックスや、チームオフェンスの中で異質な存在として得点を取るカワイ・レナードのラプターズ、スター選手を揃えて個々の強さを押し出すシクサーズ。ライバルに比べるとエースをチームバスケットの中で機能させる術を欠いています。かといってペイサーズのような強烈なチームワークも発揮できていないのが、今のセルティックスです。

シーズンが残り30試合を切った短い期間の中で、セルティックスがどんな形でチームをまとめてプレーオフを迎えるのか。バランスの取れたオフェンスにするのか、それともアービングの個人技を前面に押し出すのか。戦力的には充実しているだけに、その行方が東カンファレンスの動向を左右しそうです。