文=大島和人 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

『祭りの後』に迎えたホームゲームで攻守に大活躍

彼が名前と「ざっくばらん」と掛けた言葉遊びから時の人になったのは、1月25日朝のことだった。

「息子が小学校からもらってきたプロバスケチームのチラシに、すごくいい名前の選手がいた」という何気ないツイートが猛烈に拡がり、2万7000近いリツイートを集める。本人が夕方にこのツイートへリプライを送ると、こちらも現在2万9000リツイート。

プロにとって認知度アップは喜ぶべき話で、本人とアルバルク東京はこの『祭り』に喜んで乗っている。ザック・バランスキーはこう振り返る。「みんなが盛り上がっている中で、それをプレッシャーと感じるのでなく、楽しさにとらえてやろうと思っていた」

そして1カ月ぶりのホームゲームとなった4日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で、彼は大活躍を見せた。

攻撃の中心だったセンター、トロイ・ギレンウォ―ターが1月31日に契約解除となり、インサイドの一人ひとりに掛かる負担はどうしても大きくなっている。ただバランスキーはこう言う。「そんなにマイナスにはとらえていないし、逆に自分はチャンスだなと思う。チームとして最初からいたメンバーでそのまま優勝したかったんですけれど、プロの世界ではこういうこともある。自分に与えられた役割を徹底的にやるだけです」。どんなことも前向きに受け止めて試合に臨む。それがバランスキーの姿勢だ。

今季の先発はまだ1試合だが、24歳の彼はシックスマンとして欠かせない役割を果たしている。この日は第1クォーターの残り5分12秒に、アンドリュー・ネイミックに変わってコートに入った。

名古屋のジェロウム・ティルマンを封じつつ残り3分3秒、残り2分5秒と立て続けに3ポイントシュートを決める。そして残り53秒にはギャレットのスティールから菊地祥平のパスを受けてレイアップ。彼は第1クォーターだけで8得点を記録し、5点リードで出だしの10分を終える立役者になった。

44-45とA東京が1点ビハインドで迎えた第3クォーターも、バランスキーは4分8秒の出場で8得点を記録。オフェンス面ではチームに流れを引き込む勝負強さを発揮し、試合全体では23分12秒のプレータイムで18得点を記録している。

リバウンドでの貢献もあった。A東京の3点リード、第4クォーター残り12秒という勝負どころ。バランスキーは外から勢いよくリバウンドに飛び込み、オフェンスリバウンドを獲得した。あわせて張本天傑のファウルも誘い、勝負を決定づけた。

ヘッドコーチの評価は「得点以上に『良い判断』ができる」

伊藤拓摩ヘッドコーチは彼の活躍を、違う角度から評価する。「すごい判断が良い選手。得点もそうですけれど、得点以上に『良い判断』ができたと思う」

特にディアンテ・ギャレットの連携は素晴らしかった。バランスキーはこう説明する。「ギャレットはチャンスを作るのがすごく上手いし、シーズンを通してお互いにやりたいことが分かってきた。彼がドライブしてディフェンスが寄ってきたら、僕が3ポイントシュートを打てたりする。逆に僕がハンドオフに行ったらギャレットが空きます」

ギャレットは攻撃の主役で、彼に気持ち良くプレーさせることもバランスキーの役割だ。バランスキーが『出しやすい場所』『出しやすいタイミング』に動くことで、お互いの持ち味を引き出し合っている。この試合はギャレットが6つのアシストを記録しているが、そのうち3つはバランスキーへのパスだった。

数字に残らない貢献は見逃せない。彼自身のリバウンドは4つにとどまったが、それ以上の存在感を発揮していた。彼はこう説明する。「まずはリバウンドで身体を張って、ボックスアウトをして相手を跳ばせないことが大事。自分が取れなくても誰かに託すくらいの気持ちでやっている」

バランスキーは24歳にして、既に職人の趣がある。193cm94kgという体格は、B1の4番ポジション(パワーフォワード)を任される選手としてはかなり小柄。彼は自分より大柄の外国籍選手とマッチアップすることが多く、この試合も198cm108kgのティルマンに対応していた。

そんな選手に対してしつこく身体を張れるところが、バランスキーの持ち味だ。相手に素晴らしいシュートを決められること、高さやパワーに屈することはある。しかし彼はどんなことも前向きに受け止める思考回路の持ち主だ。

「ゴール下でやられる部分は出てくるけれど、そこを引きずったって仕方がない。やられたら切り替えるしかない。ツーポイントをやられても、スリーポイントを決めれば僕の方が1点多い。そういうことを考えれば僕の方がミスマッチを生かせるチャンスはある。相手が大きくても、どうプラスにとらえるかを考えている」。実際にこの試合で彼は3ポイントシュートを5本放ち、3本決めている。

リーグ登録は日本人選手だが、日本代表入りは考えず

バランスキーは日本生まれ。10歳の再来日後から大学まで日本の教育を受けており、Bリーグの登録上は日本人選手の扱いだ。ただし代表でプレーする資格はない。彼は「(帰化選手の制約を受けない)16歳の時に一回『帰化するか』という話になった」と振り返るが、そのためにはアメリカ国籍を放棄する必要があった。

「どうしてもアメリカの国籍を捨てたくないと思って、その時『代表に入れないなら自チームで頑張ろう』と思った。今もチームメートに代表がいて抜けることはあるけれど、その時にどうチームを崩さないように頑張るか、自分に何ができるかを考えている」

彼はそれだけA東京と深くかかわることができる。1月末の代表合宿にはチームから竹内譲次、松井啓十郎、田中大貴の3選手が参加した。しかしバランスキーは「普段出られない選手にもチャンスがあるということ。そこでチーム力を上げられたら、チャンピオンシップにつながる。マイナスにはとらえていない」と言い切る。

バランスキーには攻守で周りを引き立てる渋い働きとタフさがあり、3ポイントシュートという武器もある。加えてどんな物事もプラスにとらえる発想力は、苦しい状況にあるチームの支えとなるだろう。『ざっくばらん祭り』は、今まで過小評価されていたバランスキーの存在感が等身大に追いつくいい機会だったのかもしれない。