吉田亜沙美

「ファンの方にバスケットボールをしている姿を見てもらえるのはすごく幸せなこと」

1月14日、女子日本代表がホワイト、ブラックの2チームに分かれて紅白戦を実施した。ホワイトは赤穂ひまわり、山本麻衣、林咲希、馬瓜エブリン、木村亜美が先発で吉田亜沙美、薮未奈海、絈野夏海がベンチスタートに。ブラックは髙田真希、平下愛佳、星杏璃、野口さくら、本橋菜子が先発で東藤なな子、川井麻衣、朝比奈あずさがベンチスタートというメンバー構成だった。試合は序盤からリードを奪ったホワイトが72-63で勝利している。

各選手が持ち味を発揮した中でも大きな存在感を放っていたのは、昨秋に2度目の現役復帰を果たし、約4年ぶりの代表活動となる吉田だ。紅白戦ということで、実際の試合のような激しいコンタクトはなかったとはいえ、巧みなパスさばきで味方のシュートチャンスを次々と生み出した。あらためて、吉田だからこその唯一無二のゲームメークが健在であることを示した。

日本代表としては久しぶりに観客の前でプレーした吉田は「すごく楽しかったです」と振り返る。「OQTに行く前に、ファンの方に自分たちがバスケットボールをしている姿を見てもらえるのはすごく幸せなことです。そして選手たちが楽しいと思える雰囲気をファンの方たちが作ってくださったことに1番感謝しています」

自身が求められる仕事については、次のように続ける。「多分、私の役割は2分、3分出てチームの流れを変える部分だと思います。そこで自分のパフォーマンスがどれだけできるか、そのための体力作りをどれだけできるかが課題としてあります。前からアグレッシブに当たって、攻めていけるかがチームの鍵になってくるので、日々の練習で積み上げていけたらと思います」

また、チームとしてさらなる成長を果たすために、「もっとコミュニケーションを取った方がいいのかなと思いました」と今回の紅白戦で感じた課題を語った。ベテラン、若手と関係なく、各選手が自分の意見をどんどん発信していくことがチームの成長には必要と強調する。

「まだ(合宿が)始まって数日ですけど、それは言い訳にすぎないです。代表でやっている以上は遠慮していると選ばれないですし、自分の役割を徹底してやらないといけない。恩塚(亨ヘッドコーチ)さんのやりたいバスケットボールのシステムが頭に入っている人が選ばれ続けます。もっとコミュニケーションが出てくれば、選手たち同士でもアイデアがどんどん出てくると思います」

吉田亜沙美

「課題はたくさんありますが、こうしていこうと徹底してプレーすることはちょっとずつできてきています」

今回の紅白戦で吉田は、多くの若手と一緒にプレーした。その内の1人は、自身が東京医療保健大でアシスタントを務めていた時、選手として在学していた木村で、かつての教え子と代表で一緒にプレーできたことの喜びをこう語る

「一緒にツーガードで出た時はうれしかったです。同じ東京成徳大高校出身ですし、医療では選手とコーチの立場でしたけど一緒にやっています。恩塚さんのバスケットを大学で2人とも理解していて、やりやすい部分もあります。木村から学ぶべきものもありますし、木村には私から盗んでもらいたい部分もあるので、2人で高め合っていきたいです」

OQTの対戦相手であるスペイン、カナダ、ハンガリーは揃って強烈なフィジカルを備えたチームだ。現役復帰後、吉田はWリーグの試合しか経験していない。国内では感じられない海外勢の激しいプレッシャーをトレーニングマッチで経験することなく、いきなり本番を迎えることになる。

それでも「不安なのと、楽しみなのと半々です」と吉田に動揺はない。「ここにいる選手たちもすごくタフでフィジカルが強いので、ついていくのに必死です。そこに慣れて当たり負けしない身体をもう1回作って行かなければいけないと思います」

日本代表における以前の吉田は絶対的なエースガードだったが、36歳の大ベテランとなった現在は求められる役割も違う。「2分、3分出て流れを変える部分」と言及したように、本人もそれは十分に理解している。だが、代表選手として目指すのは頂点であり、全身全霊を捧げて日の丸を背負う覚悟はこれまでと全く変わらない。「OQTはオリンピックで金メダルを取るための通過点に過ぎないです。どの選手もその覚悟を持ってやってきていると思いますし、そこは私もブレずに変わらないです」

そして、「課題はたくさんありますが、こうしていこうと徹底してプレーするところはちょっとずつできてきています。これを継続して遂行することを極めていきたいです」とチームの成長に手応えも得ている。

恩塚ヘッドコーチは総力戦で戦う上で、代表12名の内、最後の2枠、3枠については「いろいろな要素があり、チームが成熟していく中でどの要素が必要か見極めたいと思います」と、特別な個性を持った選手たちを加えたい考えを示唆している。そして、吉田には日本バスケットボール史上に残る彼女にしかできない唯一無二のゲームメークがある。出番が限定される可能性は高いが、ベルギーで行われた前回のOQT以来となるFIBAの公式戦に出場する吉田をハンガリーのOQTで見られたとしても決して驚きではない。そう感じる紅白戦での巧みなプレーだった。