初の日本一を目指す藤枝明誠高校がウインターカップ開幕を心待ちにしている。全国屈指のスコアラー赤間賢人とセンターのボヌ・ロードプリンス・チノンソは前回大会でブレイク。初出場した今年のU18トップリーグではロードプリンスの負傷欠場をバネにメンバーの底上げに成功した。前回大会の準決勝、王者・開志国際に残り3分までリードしながらラスト5秒で決勝点を決められた記憶は金本鷹コーチの脳裏にいまだ鮮明に焼き付いている。今大会は互いに勝ち上がれば準々決勝で激突する組み合わせ。金本コーチはリベンジに燃えている。

生徒の創造性を育みたい

——藤枝明誠の監督になった経緯を聞かせてください。

コーチングを始めたのは鹿屋体育大学時代です。元々教員志望でコーチングを学びたいと思っていたのと、監督がおらず学生のみで運営するチームだったことが重なって、大学2年時から学生コーチとして監督業をスタートしました。その年のキャプテンは月野雅人さん(現岩手ビッグブルズ)で、インカレ初戦で専修大に勝ってベスト16という成績を挙げました。

卒業後、東京エクセレンス(現横浜エクセレンス)にコーチングスタッフ として2年半在籍した後、藤枝明誠のアシスタントコーチになりました。監督に就任したのは去年のインターハイ終了後からです。チームに加わった9年の間には、チームが県ベスト8まで落ちた時期もありましたが、選手たちと一緒にもがきながら、「全国に出て勝ちたいよね」と話しながら、ようやく去年一気に花開いた形になりました。

——高校年代を指導する上で、コーチのエナジーについてどう感じられますか?

エナジーはすごく重要ですね。アシスタントコーチ時代は、ベンチで大きな声を出して選手たちを鼓舞することはすごく意識していました。高校生はコーチの顔色を見る年代なので、「先生に乗っかっていいんだ」と思ってから行動する選手も多いので、「今、頑張る時だよ」、「チームが落ち込みそうな時に頑張んなきゃ」と声をかける必要があるなと感じました。ただ、監督に就任した始めた当初は、戦術的なことやベンチワーク、采配に頭を使って、エネルギッシュなベンチワークができなかったし、選手を鼓舞するところに労力を割けない部分もありました。

——高校年代の指導は、ティーチングとコーチングのバランスを取るのが難しいですよね。

プロや大学生は1から10まで言わなくても分かってもらえますが、高校生はそこがないのでティーチングがとても重要になります。その中でも生徒が自分でクリエイトできるようになってもらいたいので、表現の仕方を工夫しています。具体的に言うと、事あるごとに「あの時にこういう話したのを覚えている?」と紐付けることで、3年生になった時に、クリエイトできるようになっていくという感触がありますね。

1年生の野津洸創や高松悠季は入学当初、迷いながらやっていたので、具体的なティーチングを数多くしました。2年生になると微調整は必要ですが、これまでの経験から次のアクションを引き出せるようになります。3年生の赤間賢人や斎藤佑真は、1を言えば5ぐらいまでできるようになってきましたし、「先生、次これですよね」みたいな顔もできるようになりました。そういう意味では楽しいですし、3年生だなという信頼もありますし、成長を実感します。

ただ、ティーチングの内容、コーチングとのバランスは、選手によって変える必要があります。プリンスはある程度放っておいても自分の考えを持ってできるタイプですが、行きすぎるとチームが崩れてしまうので、そこは手綱を持っておかなきゃいけません。一人ひとりに合わせてアプローチを変えていくことが重要ですね。

——高校での3年間を通じて、どのような人間性を育てたいですか。

社会に出た時に、藤枝明誠で3年間やったことを生かして、自分で考えて上司に提案できるようになってほしいです。バスケットって人生を豊かにするツールの一つなので、大人ときちんと会話ができるような人間性を身につけてほしいです。

ロードプリンスの離脱で他の選手が成長

——この1年は生徒たちとどう向き合いましたか。

去年の3年生は自らクリエイトできる選手が多かったので、あまり口を出さないほうが良いと思っていました。彼らは導火線も火薬も持っていたので、こっちが火をつけるだけという感じでした。悪く言うと喧嘩っ早いというか(笑)。

今年は全くキャラクターの違うチームです。今の3年生は少し物静かというか、口下手というか。人に自分の思いを伝えることに抵抗を持っているのかもしれないですけど、良く言うと賢い。多くを語らなくてもいいタイプ。そのキャラクターと向き合いながら、バスケットを作りました。

去年活躍した賢人とプリンスを徹底的にマークしてくるチームは当然増えました。新人戦は賢人とプリンスを軸に戦い、インターハイはディフェンスのインテンシティを高めていきました。先輩たちが残した結果のおかげでトップリーグに入れたので、この試合をうまく使ってもう一度足腰を鍛え直したいと思っていた矢先に、プリンスがケガをしてしまいましたが、結果的に他の選手たちが伸びてくれました。バスケットの幅が広がったし、ウインターカップに向けて進化できました。

去年とのギャップがある分、もやもやする部分もあって、(総監督の)日下部二郎先生と話をしながら選手たちと向き合う時期もありました。ただ、今は楽しみというか、ワクワクしながら練習できているので選手に感謝していますし、早くゲームがしたいです。

——昨年のウインターカップは準々決勝で福岡大学附属大濠から大金星を挙げたものの、続く準決勝の開志国際戦は76-78で逆転負けを喫しました。

あの試合は勝てた試合で、負けたのは自分の責任でした。今年も準々決勝で当たる可能性がありますが、早く戦いたいです(笑)。

——日本一に向けての強化ポイントは?

プリンスとのコンビネーションが一番です。彼とどう攻めるのか、どう守るのかという役割をもう一度整理しないといけない。今まで下準備してきたことが5人の中で合わさって、チームケミストリーを発揮できるとすごく面白いバスケットができると思います。

先輩指導者を倒すためには選手以上の学びを

——高校界で尊敬している指導者は。

福岡第一の井手口孝先生と、今年亡くなられた仙台大学附属明成の佐藤久夫先生です。特に、井手口先生は高校時代からお世話になっていて、失礼かもしれないですけど、倒したい、追いつきたい、追い越したい相手です。あれだけの成績を残すには、相当の熱意や選手との向き合い方、コーチングフィロソフィーがないと不可能です。そういう部分を学びたい。トップリーグの時も他愛のない話の中でいろいろなことを考えさせられました。

井手口先生に関わらず、全国や世界と向き合うチームや選手と関わっている指導者の話を聞くと、もっと学ばないととても敵わないと思い知らされます。今回のウインターカップで、仮に開志さんに勝てたとしても、おそらく私の指導者としての実力はまだまだ表面的なものだと思います。選手以上にいろんなことを学んでいかないと、本当の意味で諸先輩方に追いつかないのかなと思います。

——最後に、ウインターカップを楽しみにしている方々に向けてメッセージをお願いします。

チームとして希望と感動を届けたいです。藤枝明誠の試合を見たから明日の仕事を頑張れる。そんなふうに思っていただくには、全力で頑張る姿や、必死にボールを追いかける姿じゃないかと思うので。難しいシュートを決める姿に感動してもらうのももちろんですが、チームとして何を成し遂げたいのかというところにフォーカスして、目の前の役割に全力で取り組んでいる選手たちの姿もぜひ見ていただきたい。

どうしてもスポットライトが当たるのはオンザコートですが、全力で取り組む姿は、ベンチメンバーの立ち振る舞いや、応援席の部員の表情にも現れるはずです。まだまだ成長途中のチームですが、そういう部分を見ていただけるとうれしいし、バスケファンのみなさまにはぜひ一緒に「藤枝明誠」というチームを育ててもらいたいです。