Bリーグ開幕から常にリーグ上位の勝率を残し、天皇杯連覇など見事な実績を残している川崎ブレイブサンダース。Bリーグ王者のタイトルはあと一歩で届かずにいる中、Bリーグ創設以前に所属していたNBL時代から変わらないコアメンバーには高齢化の波が押し寄せている。常に結果を求められるトップチームならでの重圧を受け止め、さらなる進化を目指す北卓也GMに、昨シーズンの反省と新シーズンへの意気込みを聞いた。
「シーズンの最後にいかにベストメンバーで戦えるかは重要なポイントになります」
――まずは、1年を通して故障者に苦しめられた昨シーズンの振り返りからお聞かせください。
佐藤(賢次)ヘッドコーチも年数を重ね、勝たなければいけないというプレッシャーが段々と増す中、昨シーズンはマット(ジャニング)が開幕直後に離脱といきなりプランが狂ってしまいました。仕方がない部分はありますが、同じことを繰り返してしまうことは避けたいです。この経験を今シーズンに生かすことが一番大切だと思います。不可抗力のケガはありますが、筋肉系の故障についてはある程度プレータイムをコントロールすることで防げる部分もあると思います。
チームというのは長い時間をかけて出来上がっていくものです。運やケガといった要素がありながらも、最終的に最もシーズンを通して強くなったチームが優勝するんだと思います。レギュラーシーズン上位に入ってチャンピオンシップ(CS)に行くためには目先の勝利も大事ですが、チームを成長させることと勝ちに行くことのバランスという点では昨シーズンは難しかったところはあったかなと。ベストメンバーが組めない中でも勝たなければならないので、外国籍選手を長く出しすぎた試合もありました。そういった昨シーズンの経験を生かし、どういう起用法をしていくかが今シーズンは大事になってきます。
――Bリーグ創設時から川崎は安定してリーグ上位の成績を残しています。昨シー ズンも40勝20敗、勝率67%と好成績ではありましたが、一部では勝率70%を下回ったことで『どうしたんだ?』という声も挙がりました。人気チームゆえの大変さがあると思います。
ファンの皆さんがBリーグ優勝を期待してくださっているのはありがたいことです。その中で優勝はできていないですが2021年、2022年と天皇杯優勝、昨シーズンも中地区優勝と何かしらの結果を残し、無冠でないところは評価しています。Bリーグは年々、拮抗したリーグになっています。その中で主力がケガをした時に、天皇杯や代表活動の影響による過密スケジュールをどう乗り越えていけるのか。そういった部分も含め、シーズンの最後にいかにベストメンバーで戦えるかは重要なポイントになります。
——ベストメンバーが万全のコンディションでCSに臨むためには、プレータイムをある程度分散させる必要があるかと思います。ただ、川崎は勝負どころでプレーする選手がNBL時代からほとんど変わっていません。
中心メンバーの年齢が上がってきているので、チームを活性化させるという意味でも若い選手たちの台頭は求めるところではあります。ただ、年齢が上がれば上がるほどケガのリスクが増え、疲れも取れにくくなりますが、彼らはプロですので年齢を理由に起用法を変えることはないですし、育成のためにと無条件でプレータイムを与えることはあまりしたくないです。 プレータイムは自分で勝ち取るもので、試合に出て貢献できれば自然と次の試合の出番に繋がっていく。新しく来る選手たちには『まずはチーム内競争だよ』という話をしています。
今のチームはニック(ファジーカス)、(篠山)竜青、(藤井)祐眞にハセ(長谷川技)が長く在籍していますが、彼らに大きな衰えがあるかと言ったらそうではないです。ですから、彼らの強みを出しつつ、若い選手を使っていくことが重要だと思います。とはいえ、練習だけで伸びるのは難しく、試合に出ないとなかなか成長していかないというのは、かつてヘッドコーチをやっていた経験でよく分かります。佐藤ヘッドコーチには勝利と育成の両方にしっかり取り組んでほしいですし、昨シーズンにうまくいかなかったことは改善してほしいとコミュニケーションを取っています。
「安心安全の戦い方だけでは強くなれないし、勝ち続けることはできない」
──シューターのジャニング選手とマイケル・ヤ ングジュニア選手が去り、今シーズンは初のBリーグとなるトーマス・ウィンブッシュ選手、昨シーズン新潟アルビレックスBBのエースだったロスコ・アレン選手が加入しました。川崎に過去在籍した外国籍を振り返ってみると、パスをもらって生きるタイプの選手はうまくフィットしていますが、自らアタックしていき、ファジーカス選手と共に攻撃の起点となれる選手は苦戦している印象が強いです。
ニックが帰化選手である強みを生かした「ビッグラインナップ」(ファジーカス選手と外国籍2人を同時起用する起用法)も考えて3番、4番ポジションをこなせる外国籍を獲得しています。ただ、現在ヨーロッパの各チームは10人ほどでプレータイムをシェアし個々の役割が細分化される傾向が強く、選手たちは自身の役割を一生懸命やっています。ところが外国籍の制限があるBリーグではいろいろな役割をこなすことが要求される。加えて、ニックがいる時、いない時で求められる役割が変わることについても慣れるまでに時間がかかっているように思います。
――そのような背景もあって、最終的にはファジーカス選手が1試合30分以上プレーし、第4クォーターの勝負どころでは彼起点のオフェンスを展開しているわけですが、このスタイルはBリーグ1年目から変わりません。安定したパフォーマンスを続けるファジーカス選手ですが、38歳となりました。彼への大きな依存を変える必要はあると思いますか?
選手起用を決めるのはヘッドコーチですから、ヘッドコーチが目指すバスケットを貫くべきだと思いますが、この点について話し合いをすることはあります。僕がヘッドコーチをやっていた時も1試合約30分ニックを起用していましたが、当時の彼は若かったです。今は年齢を重ねており、平均30分でプレーすると2連戦の2日目に運動量が落ちている様子も見受けられます。勝つために最善の策としてニックを使い続けるのも1つの選択肢ですが、それでチームが強くなっていくのか。安心安全の戦い方だけでは強くなれないし、勝ち続けることはできないので、当然リスクも取らないといけない。長いシーズンの中で何が起こるのか分からないので、何が起こってもいいようにいろいろなオプションを作ってそれを成長させないといけない。目先の一勝のためなのか、先を見据えて戦っていくかでは、最後の結果に違いが出てくると思います。