伊佐勉

文・写真=鈴木栄一

「これから借金を減らし貯金に転じられるチーム」

サンロッカーズ渋谷のスタートダッシュ失敗は、今シーズン序盤の悪い意味でのサプライズだった。開幕から1勝6敗で指揮官交代。アシスタントコーチからの内部昇格で指揮を引き継いだ伊佐勉は、悪い流れを食い止め、13勝16敗で2018年を終えた。現在、チャンピオンシップ最後の切符となるワイルドカード2位の富山グラウジーズとは3ゲーム差。まだこれからの巻き返しで十分にポストシーズンを狙える位置にいる。

2018年最後の試合となったライジングゼファー福岡との試合後、伊佐に指揮官就任について聞くと、「またいつかヘッドコーチをやりたいとここに勉強しに来ましたが、あのタイミングは全く予想していませんでした。引き継いだ時には1勝6敗だったので、『借金を2つ減らしたい』という話をチームとして、それに向けてどうにか頑張りたい。開き直りと覚悟を決めてやりました」と振り返る。

普通、チームの立て直しを託されるケースでは、勝率5割など区切りの良い数字を掲げるものだが、「借金を2つ減らす」という目標を設定し、実際その通りで2018年を終えたところに、伊佐の大言壮語をしない実直な人柄が出ている。

「年内で借金を返したいとの声もありましたが、やってみないと分からない。僕も大きなことは言えなかったので、それは難しいという話をしました。でも借金を2つは減らしたいし、減らさないといけない。今でも危機感はありますが、さらに借金が増えたらB2降格という危機感が倍増する。最低2つは減らさないと、今後さらに厳しくなるという覚悟でした」

とはいえ、競り負けた30日の福岡戦に勝てば借金1で年始を迎えられた。その点については「人間は欲深いもので、この試合に勝てば4つ減らせることができたとは思います」と言う。そして「年内での貯金は難しいと思っていましたが、指揮を執ってみて、これから借金を減らし貯金に転じられるチームと思っています」と巻き返しの力はあると続ける。

伊佐勉

ビッグラインナップという武器を切り札に

伊佐がヘッドコーチとなったことによる代表的な変化は、サイズ重視のラインアップに固執しなくなったことだ。帰化選手を日本人選手と同様に起用できることで外国籍2人との同時起用が可能となった新ルールの下、帰化選手ファイ・サンバを補強したSR渋谷は、ビッグラインアップを積極的に起用していたが、思うように機能しなかった。伊佐は当初はポイントガードで起用していたベンドラメ礼生を2番ポジションで起用するなど、方針転換を行っている。

「僕が就任する前、一つの武器としてライアン(ケリー)が3番、満原(優樹)と(ファイ)サンバが4番のビッグラインアップをやっていました。しかし、オフェンス、ディフェンスとも数字を見てやらない方がいいんじゃないかと思い、コーチと相談しても同じ考えでした」

「まずはベンドラメに点を取ってもらうため2番に。ケリーもリバウンドをしっかり取る選手なので、4番で出ている中で3番のプレーもコールすれば良いだろうという変更をしました。今はこの布陣を固めながら、サイズが揃っているので、どこかでビッグラインアップを武器にできるタイミングを作っていきたいです」

こうした変更も功を奏し11月、12月は計11勝8敗とSR渋谷は持ち直して2019年を迎えた。ただ、シーズン途中での就任、平日ゲームが入る過密日程によって「就任してから十分な練習ができていないので、1月、2月で自分の目指すバスケットボールをもっと浸透させられれば」と、伊佐の目指すスタイルへの移行は道半ばであり、だからこそ大きな伸びしろがあるとも言える。

栃木ブレックス、千葉ジェッツ、アルバルク東京が同じ地区にいる東地区ならではの厳しさはもちろんある。だが、ベンドラメとケリーはそれぞれ日本人、外国籍選手でリーグ有数の得点力を持っている。サクレの守備力もリーグ随一であり、SR渋谷には上位チームに対抗できるビッグ3がいる。それだけに、伊佐がこれからチームをより自分色に染め上げることができれば、どん底スタートからのチャンピオンシップ進出に食い込める可能性は十分にある。