ジェームズ・ハーデン&デイミアン・リラード

スーパースター軍団という夢に期待しすぎている2人

フリーエージェント市場は落ち着きつつありますが、デイミアン・リラードのトレード要求がそのきっかけとなりました。ジェームズ・ハーデンに続く大物ガードがトレード市場に出たことで、ロスター枠やサラリーキャップを見据えながらどう動くべきか、各チームがいったん立ち止まったように見えます。

リラードはヒート、ハーデンはクリッパーズと、いずれも自分が加入を希望するチームへのトレードを求めていますが、対価となる有力選手やドラフト指名権を引き出しつつ、サラリーが見合う形でトレードを成立させるのは簡単ではありません。

獲得するチームの側も、リラードとハーデンをリーグ屈指の実力者と認めてはいても、獲得すれば確実にチームが強くなるとは限りません。例えばネッツはハーデンが加わったことで多くの若手有望株を手放し、スーパースターの輝きに頼るようになりましたが、ケミストリーが失われてチームは機能せず、まずハーデンが、そしてケビン・デュラントとカイリー・アービングが出ていって崩壊しました。

もともとハーデンやリラードを中心としたチーム作りを想定して動いていたのならともかく、オフも半分が過ぎたところで彼らがトレード市場に出てきても、ここからチーム編成をやり直すことには慎重にならざるを得ません。ネッツに限らずスーパースターを集めるだけでは勝てないという例は多数あり、リスクを考えれば動きづらいのでしょう。

サラリーキャップの制限がどんどん厳しくなっている今、『ビッグ3』という言葉に代表されるスーパースター軍団は作りづらくなっています。新オーナーの号令の下でブラッドリー・ビールを獲得したサンズだけがスターチーム路線を突っ走っていますが、3人目のスーパースター獲得をあきらめたレイカーズのようなチームが多数派になっています。

NBAではスタープレーヤーが移籍を望めば、契約の縛りがあるにもかかわらず希望を強引に押し通すことができます。それでもリラードもハーデンも、今回はなかなか新天地が決まりません。

ネッツで果たせなかった夢を違う場所で追いたいハーデン、トレイルブレイザーズを出るからには優勝できる環境に行きたいリラードと、立ち位置はそれぞれ違いますが、スーパースター軍団という夢に期待しすぎているようにも見えます。

4年前のオフ、ジミー・バトラーは新天地にヒートを選びました。この時のヒートはプレーオフにすら進めなかったチームです。それがバトラー加入後の4年間で2回のNBAファイナル進出という大成功を収めたのは、自らがチームを勝たせるという意思を強く示したバトラーと、その意思に引っ張られたバム・アデバヨらの成長が要因でした。強いチームに加わるよりも、チームを強くするマインドこそがスーパースターが示すべき価値のはずです。

若手の成長が著しいマジックや、ポイントガードが不足しているラプターズ、ハードワーカーが揃っているネッツなど、リーダーシップを必要としているチームならば、リラードやハーデンがハマり、チームはジャンプアップも狙えるかもしれませんが、勝てるチームに行きたい2人が希望するトレード先ではなさそうです。

ブレイザーズのジョー・クローニンGMのコメントを聞く限り、トレード交渉は難航しているようです。少なくとも「何を犠牲にしてでも欲しい」と手を挙げるチームが出てこない状況ならば、今のチームに残り、チームを勝たせて自らの価値を証明する方が賢明に見えます。スーパースターのワガママが増えた中、そのワガママが通らない今の状況が打破されるのか、2人の動きからリーグ全体へと波及していく可能性があるだけに、何らかの答えを出してほしいところです。